第六話 ~いきなり殺人容疑者~
「……き、……ずき、一樹ってば!」
「……ぅ」
「一樹!」
「……!? あ……ちづ、る……?」
木更津一樹は、上手く頭が働かずに
呻いた。続けて、斉藤千鶴に怒鳴る
ように言われ、はっとなる。
気づくと、一樹は北原大地に抱き
起こされるような態勢になっていた。
千鶴は、今にも泣きそうに瞳を
潤ませてしまっている。
「一体……何があったの!? 意味が
分からないよ……!」
「ち、ちづ! あんまり、揺り動かす
なよ。一樹が起きられないだろ?」
「俺……」
ぼうっとした意識のまま、一樹は
立ち上がろうとしてよろめいた。
危ない!と声が上がり、今度彼の
腕を掴んだのは大地ではなかった。
「気を付けないと、危ないですよ」
美香山静の穏やかな瞳に見つめられ、
す、すみませんと一樹は頭を下げる。
彼の背に隠れるように、不安そうな顔を
したノール・フェイトンの姿もあった。
「い、一体何があったんだよ!?」
「坊ちゃん、まずは一樹さんに一息つかせて
あげましょう」
「う、うん……」
落ち着かなければ、と一樹は頭を振りながら
思った。そんな彼の目が、一点へと止まって
しまう。
ひっ、と一樹は声を上げた。
血を吐いて倒れたままの、長瀬宗一の姿が目に
飛び込んで来た。
血の匂いと、何の香りかは分からないが甘い
匂いに酔ったかのように再び一樹の意識は暗転
した――。
気が付いたら、一樹は『灰かぶり姫の間』の
ベッドに寝かされていた。情けないような気持ちに
なりながら起き上がると、あ、起きたと声が上がる。
「俺……?」
「あ、まだ寝てていいですよ~」
間延びした声が耳元で聞こえ、一樹はびくっと
なって飛び上がりそうになった。
気が付くと、すぐそばに塩瀬海がいた。
「海……?」
「はい、海ですよ~」
「姉さん! 近いですって!」
汀に引っ張られるように、海は一樹から離れた。
にこにことした表情になんだか癒される気がして、
一樹はにこりと微笑む。
元気そうね、と棘のある声がしたので、ぎくりと
なると千鶴が睨むようにこちらを見ていた。
「心配して、損したわよ馬鹿一樹」
「ば、馬鹿って言わなくても……」
理不尽な気がする一樹だった。確かに汀や海に笑い
かけはしたけれど、下心とか恋愛的な好意とかそういう
物ではないのだ。
ただ、仲が良さそうなやり取りや彼女の笑顔に微笑ま
しさのような物を感じただけなのに。
「あなた……あなた! どうしてこんな事に……どうして!?」
耳を叩くように、悲痛な声が殺人現場から聞こえて来る。
長瀬宗一の妻の声だ。愛する人の名前を、泣きながら叫ぶ彼女は
彼が死んだのを信じられないようだった。
それはそうだろう。一樹だって、千鶴だって、大地だって、『あの
悲月殺人事件』に関わった被害者の縁者の全てがそうだったのだ。
あの時の事を思い出したのだろうか、千鶴がうつむいたまま唇を
震わせて大地に抱き寄せられていた。
ノールも不安そうにぎゅっ、と静の袖を掴んでいて、彼に頭を
撫でられている。
さすがに海の口元にも笑顔が消えていて、離したら二度と会えない
とでも思っているかのように汀を強く抱きしめていた。
双子である汀も、同じ事を思っているのだろうか。それとも、姉の
気持ちを汲んでいるのだろうか嫌がってはいなかった――。
どうして、こうなったのだろうか。どうして、またこうなってしまっ
たのだろうか。一樹は自分は前世に重い罪を犯したか、自分が知らない
だけで実は今世で罪を犯したのではないかと思った。
「長瀬宗一氏を殺したのは、君だろう? 木更図君」
「違います! 殺したのは、俺じゃない! 俺は彼を殺してなんて
いません!」
一樹はただの目撃者のはずだった。しかし、一樹が差し出した林檎を
食べてから宗一が死んだという事で、このお伽話ホテルの若女将である
夢都小夜に呼ばれた警察官に一樹は尋問されていた。
大江川大五郎の時のように恫喝はされていないけれど、完全に彼の目は
一樹が犯人だと疑っている目だった。
「信じてください……本当に俺じゃないんです! 俺は、ただ小夜さんを
手伝っただけで……」
「君を疑いたくはないが……状況的に君しか犯人がいないんだ」
「そんな……!」
実は、一樹はこの警察官とは初対面ではない。『悲月殺人事件』を殺人
集団『uranusu』に依頼した、本物の八乙女瑠美奈の所に行った時に警察に
通報した際一緒に来てくれた警察官の一人が彼だったのだ。
犯人達は捕えられなかったものの、一樹達が通報してくれなければ一人
暮らしであった八乙女瑠美奈の死の発見が遅れてて事件は解決出来
なかったと彼は感謝していた。
しかし、感謝はしてはいても状況的に一樹しか犯人がいないのは事実だ。
一樹が手渡した林檎が原因で宗一は死んだのだから。
疑わしいのは林檎を用意した小夜も同じはずなのだが、そちらの方は
千鶴がつまみ食いをして無事だった、という事実によって疑いは晴れて
しまっていた。
何故、自分はまたスケープゴートに選ばれてしまったのか。
今回も、事件を仕掛けたのは『uranusu』なのか。これから、自分はどう
なってしまうのか。
訳が分からないまま、一樹は再び事件の容疑者となってしまったの
だった――。
久々に書き上げられました~。
見てくださっている方、ながらく
お待たせしてしまってすみません。
スランプにハマっちゃってました。
ようやく事件がちょっとだけ動いて、
またもや一樹がスケープゴートと
なってしまっています。
新キャラの警察官さんの名前は
次回明かされる予定です!




