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スケープゴート  作者: 時雨瑠奈
お伽話殺人事件
29/35

第五話 ~書庫と甘い林檎と殺人事件~

 木更津一樹は食事を終えた後暇を持て

余していた。

 斉藤千鶴と北原大地は二人きりで過ご

しているし、塩瀬汀と海は部屋にいるから

女の子の部屋に一樹一人では訪ねにくいし、

美香山静とノール・フェイトン少年も部屋に

いるので遊びに行くのはためらわれた。

「……どう、するかな」

 昼寝をしようにも、あいにくと全く眠くは

ない。

 昨日はぐっすり眠ったから、目は冴えて

いた。

 大地と千鶴は一樹が一緒に過ごしたいと

言っても断ったりはしないだろうが、一樹が

しばらくは二人きりにさせてやりたいと

思ったのだった。

 二人は優しいから邪魔だとは言わない

けれど、やっぱり一樹はどうしても自分は

お邪魔虫のように思えてしまう。

 実際にそう言ったら二人がそんな訳ない

だろと激怒しそうなので言わないが。

「あら、木更津様、お一人ですか?」

「あ、女将の――」

「すみません、まだ名前を名乗っていな

かったですね、夢都小夜ゆめとさよ

申しますわ」

 一樹に声をかけたのは昨日、あいさつを

してくれた若女将だった。

 名前なんだったっけ、と一樹が思って

いると、若女将は申し訳なさそうに名乗る。

 自分が忘れたのではないと分かり一樹は

少しほっとした。

「そういえば、ここって小夜さんの他には

いないんですか? 働いている人」

 そういえば、小夜は基本忙しそうにして

いるものの、他の中居さんのような人は

いないみたいだったので一樹は思わず

問いかける。

 すると、小夜は悲しそうに目を伏せた。

「お恥ずかしながら、ここのホテルはあまり

良くは思われていないみたいで、雇っても

すぐ止めてしまうんですわ」

「そう、なんですか……あんなに、人気なん

ですけどねここ。朝食のバイキングの時、

かなり人がいたのでびっくりしましたよ。

あんなに宿泊客いたんですね」

「ああ、あの方達はほとんど宿泊の方では

なくて、バイキングを食べに来た方達だと

思いますわ。うちのホテルでは宿泊しなく

ても食べられるので」

 そうなのか、と一樹は思った。

小夜曰く、大変なのはほぼバイキングの時

だけなのでその時だけ通いの料理人さんが

来て、後は小夜が一人でやっているのだと

いう。

「凄い、ですね」

「そんな事ありません。私は、お客様のお世話を

したりするの好きですし」

「あ、あの……俺、手伝いますよ」

「え!? お客様にお仕事なんてさせられ

ません……」

「どうせ、やる事なくて暇ですから」

 小夜はしばらくためらっていたものの、一樹が

何度も頼むので最後には了承した――。



 そんな一樹が言い使った仕事は、今朝バイキングで

相席した長瀬夫婦の旦那さん、長瀬宗一ながせそういち

頼まれた果物を持っていく事だった。

 彼は朝食を食べ終わった後書庫にいたのだけれど、

そこにはイートインスペースがあって食事をする事が

出来るのだという。

 もちろん、書庫の本を汚さないようにと注意は

されるが。

 林檎が好きとの事なので、一樹は小夜に手伝って

もらって林檎を切ってガラスの器に載せると彼の所へ

持っていく事にした。

 と、途中で自動販売機の前にいる静と偶然会った。

一礼して来るので、慌てて一樹も林檎を落とさない

ようにしながら頭を下げる。

「坊ちゃんが、お世話になってます」

「い、いえ……俺達こそノールには仲良くして

もらって……」

「その林檎、どうしたんですか?」

「ああ、今小夜さん――女将さんの手伝いをしていて

長瀬さんに持って行く所だったんです」

「お手伝いですか、偉いですね」

 静がいきなり手を伸ばしてくるや、一樹の頭を撫で

出したので一樹は思わず目を見張ってしまった。

 確かに一樹はまだ子供といえる年齢かもしれないが、

少なくともノールと同程度に見られるほどの子供

ではない。

「あ、すみませんねぇ。坊ちゃんの相手をしていると、

どうしても癖がついてしまって」

 苦笑した静が手を下したので、一樹はじゃあ急ぎます

から、と慌てて言うと彼に別れを告げた――。



 変わった人だな、と一樹は静に対して思った。

優しい人なのだろうが、普通はそこまで子供っぽくは

見えない人物に対していきなり頭を撫でたりはしない。

 そこで、はっとなった一樹は本来の目的を思い出して

図書館へと急いだ。

「――あの、林檎お持ちしました……」

 一樹が声を書けると、童話の本を集中して読んでいた

宗一は驚いたように立ち上がった。

 何故一樹が持ってきたか不思議に思っているみたい

なので、事情を話すと柔らかい笑みになって林檎を

受け取った。

 蜜がたっぷりと入った、切り分けられた白い林檎は

とても美味しそうだ。

 ありがとう、と礼を言いながら宗一はイートイン

スペースへ移動すると銀の小さなフォークで一つ突き

差すと口に入れた。

「これは甘いな、いい林檎だ」

「長瀬さんは、童話好きなんですか?」

「ああ、好きだよ。男の――それも大の大人が読む

本としてはふさわしくないかもしれないがな。これでも

あまり売れてはいないものの童話作家なんだよ」

「あ、そうだったんですか。いえ、好きな作品を語るのに

男も大人もないと思います。素敵じゃないですか、童話

作家なんて」

 笑われるとでも思っていたのか、宗一は一瞬目を大きく

見開き、次いで嬉しそうに微笑んだ。

 最初は厳しそうな偏屈なイメージがあったけれど、実際は

優しい人なのかもしれないと一樹は思う。

「……うっ」

「長瀬さん……!?」

「う、ぐぅ……」

「長瀬さん! 長瀬さん、どうしたんですか!?」

 美味しそうに林檎を頬ぼっていた宗一だったが、ふいに苦し

そうな顔になると首元をかきむしるように呻いた。

 血の気の薄れた唇から血が溢れ出し、書庫の床を汚していく。

 一樹は駆け寄ろうとしたが、ふいに甘い匂いがするのを感じ

やがて何も考えられなくなった――。

 

 折角なので童話になぞらえた事件に

してみました。しばらく時間を置き

ましたが、ようやく事件発生です。

 長瀬夫妻の名前、だんなさんだけ

考えてみました。

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