第二話 ~他の部屋の住民達 その1~
木更津一樹、北原大地、斉藤千鶴の
三人は、『お伽話ホテル』で快適な朝を
迎える事が出来た。
一樹が一夜を過ごした部屋、『灰
かぶり姫の間』は部屋の内装は地味だ
けれど、華美ではない装飾が一樹の気に
入る所だった。
実は一樹は旅行に行くまではあまり
最近は深く眠れていなかったのだが、
昨日はよく眠れて頭がやけにすっきりと
していた。
そういう意味では、旅行に行って
よかったのかな、と思う。
「か――ずき! 食堂行こう!」
「お――い、まだ寝てるのか~!」
と、扉をどんどん叩かれたので、
一樹は苦笑しつつ部屋の外に出た。
案の定、そこには千鶴と大地が待って
いた。
彼らもよく眠れたのか元気そうである。
特に、千鶴は栗色のツインテールを動物の
ように揺らして上機嫌だった。
「おはよう、早かったんだな……」
「一樹が寝坊助なんでしょ」
「なんか、早く起きちゃったんだよな~
ちづも俺も」
ため息をつき、携帯電話を開くとまだ六時。
どう考えてもこの時間に起きていれば寝坊助
ではないのではと一樹は思ったが、千鶴に口
では勝てないので諦めた。
「ごめん、ロビー行こうか……」
「さすがに、まだ食堂は開いてないよなぁ」
「行こう行こう! 待ってればいいでしょ!」
「千鶴、元気すぎるな……」
「あ、おい、先行くなよちづ!」
とりあえず三人はロビーに向かう事に
した――。
昨日はよく分からなかったが、ロビーは
どことなくレトロ風味な装飾がなされていた。
と、柔らかそうなクリーム色のソファに
座っている少年が、一樹達が来たのに気付き
顔を上げる。
栗色の髪と青い瞳を持つ彼は、なんだか
生意気というか大人を小馬鹿にしているよう
な雰囲気を感じた。
一樹達がそう思ったのは当たっていたのかも
しれない。
彼は興味を失ったのか、すぐにふいっと視線を
そらすと持参したと思わしき分厚い革張りの本を
読み始めてしまった。
一樹と大地は苦笑しただけだったけれど、そんな
態度が許せない大人気ない態度を取ったのは千鶴
だった。
いきなり、少年が読んでいた本を取り上げて
しまったのである。
少年は一瞬何が起こったか分からない、といった
様子できょとんとしていたが、少し経って事情が
分かったのだろう、何すんだよ!?と怒りで色白の
顔を赤く染めた。
ハーフなのか純血なのか、外国人のような顔立ちを
しているが日本語だった。
それも、訛りのない流暢な日本語である。
「返せ! 人の本だろ!?」
「あんたね、人に会ったんだから、せめてあいさつ
くらいしたらどうなのよ!」
「何で、俺がお前らなんかにあいさつしなきゃいけない
んだよ!?」
「なんですって!?」
「いいからそれ返せよぉ!」
少年が伸ばしてくる手を、しかし千鶴は振り払うように
しながら本を高々と掲げた。本当に大人気がない。
少年は千鶴よりもかなり背が低く小柄なので、そうされ
ると千鶴から本が取り戻せないので悔しそうな顔になって
いた――。
「――坊ちゃん!」
厳しげな声が響き渡ったのは、その直後だった。
少年がびくっと身をすくめ、女であり坊ちゃんでも
ない千鶴が、自分が言われた訳でもないのに目を
見開いて動きを止める。
一樹と大地もびっくりしたように声の主を
見つめた。
当然、一樹も大地も男ではあるが坊ちゃんなどと
呼ばれる身分ではない。
他にいないので、呼ばれたのは十中八九この少年で
あろう。
「う……」
相当に苦手な相手なのか、少年は青ざめて少し震え
ていた。
声の主は背の高い細身の男だった。
短い黒髪に、眼鏡をかけていて少年とは違い純粋な
日本人だ。
「あ、あの……」
千鶴が自分が怒られでもしたように恐る恐る少年に
本を返却する。
しかし、少年はさっきまであんなに返せと言って
いたにも関わらず、本を受け取ったその顔はあまり
嬉しそうではなかった。
「申し訳ありませんでした! 坊ちゃんのご無礼、
お許しください! 初対面の、しかも目上の人に
あんな態度を取るなと重々言っておいたの
ですが……」
「痛っ。やめ、やめろよ……」
そのまま彼は少年の頭に手を置いて無理やり頭を
下げさせた。
そこまで強い力で抑えいるようには見えなかった
けれど、まだ中学生と思しき少年の年齢では痛かった
のだろう、彼の目に涙がにじんでいた。
い、いえ、こっちこそ本を取ったりしてすみません
でした、と珍しくしおらしく千鶴が謝罪する。
さすがに相手が相手なので怖かったのかも
しれない。
気が強いとはいっても、千鶴はまだ子供でしかも
少女だ。
「いいえ、私は全部見ていました。悪いのは、
坊ちゃんです」
「なっ!? お、お前誰の味方なんだよ……」
「俺は基本坊ちゃんの味方ですが、今はこのお嬢
さんの味方です」
「全然俺の味方じゃねえじゃん!」
千鶴も悪かったと思っていた一樹と大地だったけれど、
青年の考えは少年が悪い、という物らしい。
ぎゃんぎゃんと少年が言い返したが、聞き入れられず
さらに少年はむくれたような表情になった。
「ちゃんと、躾けておきますので坊ちゃんを」
「し、躾けってちょっ、やめ……っ!」
止める間もなく青年は少年を肩に担ぎ上げる。
さらに青ざめて嫌がる少年に千鶴、大地、一樹が
ぽかんとしていると、突如ばっちぃん!と痛々しげな
音が響き渡った。
なんと、青年が少年のお尻を服の上から引っぱたいた
のだ。
「やだっ! 痛い、止めろよ……っ!」
少年がじたばた暴れたが、青年の手は止まら
なかった――。
問題児坊ちゃんと教育係
登場です。こういう生意気な
子って書いててちょっと楽しいん
ですよね~。
微妙に長くなったので一端
切ります。次は、別の部屋の
住民も出したいですね。




