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スケープゴート  作者: 時雨瑠奈
悲月殺人事件
19/35

第十八話 ~幼き少女の本性~

「く……っ。くくくくくくっ、あ――はっ

はっは! ……何だよ笑わせてくれるなよ

木更津一樹! うっかり止まらなくなっ

ちまっただろ!?」 

 突如として響き渡った狂ったような笑い

声に、その場にいた全員は度胆を抜かれた

ように目を見開いた。

 笑い声の主は、先ほどまで幼く可愛らしい

容姿に見えた、八乙女瑠美奈であった。

 荒々しい言葉使いで、いかにも一樹を馬鹿に

したような口調で笑い続ける瑠美奈に、誰もが

口を開けない。

 青い目に笑いすぎて涙をため、淡い金の髪を

くしゃくしゃ乱しながら瑠美奈は笑い続けて

いた。

「る、瑠美奈、ちゃん……!?」

 全員を代表するかのように、口を開いたのは

北原大地。すると、瑠美奈は笑みを消すと大地に

視線を向けた。

 その視線には、先ほどまでの可愛らしさなど

微塵もない。

 異様に大人びたような、不思議と老獪さを感じ

させる嫌な感じの視線だった。

「なんだよ、北原大地」

「あ、あんた、本当に瑠美奈、なの……!?」

「ああ? んだよ、なんか文句でもあんのかぁ? 

 斉藤千鶴。悪いけど、こっちが本性だよ」

 ちっとも悪いとは思っていないような調子で、

瑠美奈は千鶴を小馬鹿にするようにはっ、と鼻で

笑った。

 それから、一樹にきつい視線を向ける。

「っていうかよ、あんだけこっちがヒントやった

っていうのに、僕が犯人だって特定するのに何日

かかったってんだよ、ええ? このへっぽこ探偵

野郎!」

「へ、へっぽこ……!?」

「へっぽこだろうがよ。大体、おかしいと思えよ。

本当の犯人が、あんなヘマするかよ。わざわざ

テグスで指をついたかのように怪我をしたり、とか

よぉ」

「ど、どういう事、なんだ……事情を説明しろ、俺達

にはそれを知る権利がある!」

 訳が分からない、といったような顔になりながらも、

それでも真実が知りたいと思ったのか渚竜也が喚いた。

 権利、ねえと口にしながら瑠美奈が竜也に視線をやる。

「いいぜ、全部話してやるよ。まあ、トリックはあの

へっぽこ探偵が言ったとおりだけどよ。ってかそうなる

ように、僕が向かわせたんだけどよ」

 にやり、と見ているだけで背筋が寒くなりそうな笑い

方をした瑠美奈は、口を開いて説明を始めた――。



「――『uranusu』って名前くらいは聞いた事あん

だろ? パソコンの殺人依頼サイト及び僕達の所属

する組織、って奴さ」

「ウラヌス……?」

 一樹、千鶴、大地、竜也、大江川大五郎が顔を

見合わせた。

 誰もが知らないと気づき、チッと瑠美奈が舌打ち

する。

 面倒そうに可愛らしい顔をしかめ、彼女はため息を

つきながらも説明を始めた。

「チッ、そっからの説明かよ。……僕達は、殺人依頼を

委託して人を殺す集団『uranusu』のメンバーだ。ジジイ

――首領の『ウラヌス』が書き上げたシナリオに乗っと

っての、な」

 一樹はさっ、血の気の引いた顔になった。

瑠美奈の言う事が本当ならば、この殺人劇は全てその

ウラヌスと言う人物が書き上げた台本のシナリオという

事になる。

 そんな事はにわかには信じがたかった。

竜也は、まるで苦虫を噛み潰したかのような顔になって

いる。自分の大切な人達が殺された原因も、そのシナ

リオの一部だというのが一樹同様信じたくない

ようだった。

 ふんと鼻を鳴らし、瑠美奈はきつい目つきのままで

全てを語って言った。

 死んだ人間の一人に恨みを持つ人間に依頼され、自分は

ここに来た事。

 本当に殺すべき人間は死んだ中で一人だけで、後は台本の

通り『悲月殺人事件』――旧暦の月の名前を持つ者を殺して

いくシナリオに沿って殺しを続けて来たという。

 死んだ被害者の名前もしくは苗字には、全部旧暦の月が

入っている事を一樹はすでに知っていた。

 『神無月』桃香、『弥生』和彦、島原『葉月』。

睦咲莉子だけは少し特殊だが、睦咲のきだけを取り除けば、

『むつき』となる。

 残ったのは、如月ともう一人の葉月だけ、って事さ、と

瑠美奈が気に食わなそうに吐き捨てる。

 もう一人の葉月、というのが瑠美奈自身だと分かったが、

如月の意味が一樹には分からなかった。

「お前、まだ分かんないのかよ? ま、莉子と同じくお前

のも特殊だけどよ。苗字から『ず』を取って、名前から

『かす』を取ってそのまま濁点を『き』にくっつけな」

「き、さ、ら……あっ!」

 多少こじつけな感じはするが、確かにそうやっていけば

自分の名前は『きさらぎ』となると一樹は気づいた。

 だから、お前がスケープゴートなんだよ、と瑠美奈は

告げる。

「だ、だからって何で俺が身代わりなんだよ……?」

「ジジイがお前の名前も旧暦の月になりそうだからって

勝手に決めやがったんだよ、僕が知るか」

 瑠美奈はもう一度吐き捨てるように言ってから続けた。

楽しそうに手を打ってから話し出す。

「そうだ、依頼者と標的話す前に、面白い事教えて

やるよ。最初の依頼者な、島原葉月だったんだぜ?」

「葉月さんが……!?」

「そうだよ、『睦咲莉子を殺すための台本を書いて欲しい』

って連絡して来たんだ。あのサイト、殺人斡旋もしてやがる

からな、それを受けて台本は執筆された」

「葉月さんが……」

 一樹達は呆然としたような顔になった。

あの優しかった葉月が、本気で莉子を殺したいと思うだなんて

ショックだった。

 瑠美奈は少し楽しそうな口調で続ける。

「あの遺書な~。その時葉月本人が書いたんだよ。莉子を

殺した後、自殺させるフリをしてあんただけ助けてやるって

だましてな。でも、島原葉月はやっぱり殺せない、って言い

出してキャンセルしやがったんだ」

 竜也が、どういう事だと言いたげに瑠美奈を睨んだ。

葉月が殺していないとすればやはり殺したのは瑠美奈になる。

 その瞳は許されるならば、この場で瑠美奈を殺してしまい

たいとばかりにぎらついていた。

「やっぱり、父親との事を疑われるまでは姉妹のような関係

だったあの子を殺したくない、ってさ。葉月の動機は莉子の

父親から大事な娘を奪ってやりたい、っていう物だしな。

決意が鈍ったんだろう。でも、台本は所どころ書き直された

ものの、ほぼそのままで使われた」

 瑠美奈はにやり、と口元に笑みを浮かばせた。

そのいかにも楽しそうな様子に、大五郎以外のメンバーが

一斉に鼻白む。

 しかし瑠美奈はそれを無視した。

「葉月は、びっくりしただろうなぁ、自分がキャンセル

したはずの台本が、そのまま殺しに使われてたんだから」

 また狂ったように瑠美奈は笑い転げる。

一体、何がおかしいのか一樹達には理解出来なかった。

 無論、笑っているのはその場で瑠美奈だけだ。

大五郎は睨みこそしていないが無言を貫いていた。

「いたたまれなかっただろうよ、自分が読んだ台本のほぼ

そのままに、どんどん人が死んでいくんだからさ。葉月は、

あんたを恐怖したように見てたよな? それはあんたが

怖かった訳じゃない、自分のしてしまった事に恐怖を抱いて

いたのさ。自分が『uranusu』に連絡を取らなければ、こんな

事にはならなかったかもしれない、ってね」

「い、いいから早く依頼者と標的の名前を教えろよ!」

 一樹が瑠美奈の笑い声をかき消すように怒鳴る。

瑠美奈はふと笑みを止めると、いいのかよ『如月』と含みの

ある笑みになった。

 その言葉を聞いた一樹の体が小さく震える。

嫌な予感がしていた。聞きたくない。でも、聞かなければ

ならない。

「標的の名前は――」

 次の瞬間、瑠美奈の口からこぼれ出た名前に、その場の

何人かの人物が目を見開き、そして膝をついた――。




 突如として豹変した瑠美奈が語ったのは、

自分が所属する組織と、組織が立ち上げた

殺人サイトの名前。そして、今までの殺しの

理由だった。はたして、標的は、依頼人とは

一体誰なのか――!?

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