第十四話 ~第一の殺人のトリック~
木更津一樹は眠い目をこすりながら
自室から抜けだした。
昨日はいろいろ考えて眠れなかった
のだ。
犯人の正体が分かった。
しかし、その犯人は疑いたくない人物
だった。
動機さえもわからない。
なぜ、彼女がこんな事をしたのか。
なぜ、桃香が殺されなければならな
かったのか……。
一樹は辛そうに黒い瞳を伏せた。
「一樹……」
と、気遣わしげに声をかけてくれた
のは斎藤千鶴だった。
一樹は曖昧に笑いながら八乙女瑠美奈を
見つめている。
瑠美奈は気づいているのかいないのか、
いつものように明るく笑っていた。
一樹はそんな彼女に言葉をかけられない。
千鶴が場を明るくさせるために大声を出した。
栗色のツインテールを揺らし、同色の瞳にも
あえて明るい色を浮かばせる。
「瑠美奈、おっはよーう!」
「おはようございます、千鶴さん。今日も元気
ですね」
にこにことした笑顔を見ていると、どうしても
彼女が桃香を殺したとは思えない一樹だった。
しかし、彼女の鞄からは動かぬ証拠が出て来た。
赤いシミのついたタオルも部屋に存在していた。
もう犯人は彼女としか考えられそうにない。
「おーい、一樹、食事作りに行こうぜ」
今日の当番は一樹と北原大地だった。
その事を思い出した一樹は声をかけた大地に
ついていく。
大江川大五郎は料理には一切手を貸さないし、
渚竜也はいまだに閉じこもっていて出てくる
気配さえない。
なので、実質料理当番は千鶴・瑠美奈、
大地・一樹となってしまっていた。
一人一人でやらないのは、四人分を一人で作る
のが大変だからという理由と、瑠美奈を一人にして
万が一毒でも仕込まれたら……という理由の二つだ。
「――犯人、瑠美奈ちゃんだったんだって?」
一樹以外は誰もいない厨房に着くなり、大地は
気遣わしげな視線を一樹に向けてそう言った。
一樹はうん、と小さく頷く。
「今でも……信じられないんだ。彼女が、桃香を
殺したなんて。だって、あの子と桃香の接点なんて
ないはずなんだ。桃香はあの子と知り合いじゃな
かったみたいだし」
「俺も信じられないよ。彼女まだ俺らと比べても
幼いしな。千鶴も信じられないって言ってたよ」
にこにこと笑っていた明るい少女。無邪気で幼いと
思っていた少女。その子が、殺人犯だなんて誰が
思うだろうか。
「……一樹さん」
「「うわああっ!!」」
いきなり瑠美奈に声をかけられた、大地と一樹は
同時に叫んで飛び上がった。
瑠美奈は可愛らしく首をかしげている。
しかし、一樹と大地は今の言葉を聞かれなかった
だろうか、と緊張してしまっていた。
「どうしたんですか?」
「ど、どうしたも何も……いきなり声をかけられちゃ
驚くって! こっちは料理の材料を探してたんだぜ?」
「ご、ごめんなさい。救急箱がどこだったかと思い
まして……」
瑠美奈の指から真っ赤な鮮血が滴っていた。
まるで、何かにひっかけでもしたかのように血が吹き
出ている。
白い指と赤い血の色のコントラストに一瞬、二人は
魅入られるように見とれてしまった。
それから、一樹はハッとなる。
何かの証拠を隠滅しようとして失敗したのかもしれない、
と思ってしまったのだ。
大地もその事に気付いたのだろう、瑠美奈を救急箱の
所に案内するフリをして厨房から連れ出す。
二人の足音が聞こえなくなるや、一樹は一階の窓から
飛び降りると小石の転がる草むらに着地した。
微かな痛みは感じるが、厨房は一階なので大した事は
なかった。
一樹が向かったのは、桃香の部屋からちょっと遠い
場所に生えている樹木である。
息を切らせながら近寄ると、瑠美奈の物と思われる
血が点々と飛び散っていた。
木の部分についた血はぬぐったのだろうが、まだ赤い
シミの拭き残しがある。
瑠美奈は証拠を始末するために怪我をしたのだと一樹は
思いいたった。
きっと、テグスか何かの糸のような物を取り去る際に、
取りつけた金具か何かで指をついてしまったのだろう。
テープレコーダー、どこからか飛んだのか分からない
ナイフ、まるで恋人を抱きしめる様な態勢で死んでいた
桃香、それが一つになった気がした。
「トリックが分かった! 後は……弥生さんの犯行時の武器
さえ分かれば!!」
瑠美奈を告発しなければならないのか。
一樹の表情は、トリックが分かったと言うのにあまり嬉しそう
ではなかった――。
第一の殺人のトリックに一樹が感づきました。
これから、第二、第三といろいろ暴いていき、
真犯人を告発するシーンに行くと思います。
ストック分が今回で切れてしまったので、
次の投稿は少し遅くなるかもしれません。




