第十三話 ~真犯人発覚と一樹の苦悩~
木更津一樹は今日も事件の手掛かりを
探していた。
警察官である大江川大五郎の許可を取り、
今日は死んだ人達の部屋を一部屋一部屋見て
回っていた。
被害者は神無月桃香、弥生和彦、睦咲莉子、
そして島原葉月の四人だけ。
容疑者は一樹を含め、八乙女瑠美奈、大江川
大五郎、北原大地、斎藤千鶴、渚竜也の六人の
うちの誰かだ。
竜也は莉子とは恋人同士だったし一樹としては
早々に除外してしまいたいのだったが、残る容疑
者の事を考えるとちょっと難しくなって来る。
大地や千鶴は人殺しなどする人達ではなかったし、
大五郎は一樹に裏取引を申し出た最悪な人物だが仮
にも警察関係者である。
そうなると残りは瑠美奈しか残らない事になる。
瑠美奈は時折何故か暗い視線を向けるようにも
なってきたが、やっぱり一樹達より幼い少女で人を
殺す所など想像も出来ない。
一樹は被害者の一通りの部屋を見ても手掛かりは
掴めなかった。
諦めかけながらも再度被害者達の部屋を回っていた
時の事だった。
莉子の鞄からとある物が発見されたのだった。
それはイタリア語の教科書だった。莉子はイタリア語を
勉強していたと死ぬ前に聞いた事がある。
何の気なしにそれをめくっていた一樹は、ある一点を
見た時にぎょっとなってしまった。
『月』。イタリア語では月の事をルナと
いうらしい。
一樹の顔から血の気がすうっと引いていく。
瑠美奈の苗字は八乙女だ。乙女をどかしていくと八
だけが残る。
そしてルナ、一見彼女には関係のない名前にも
見えるが、瑠美奈の『み』、を除外してくと『ルナ』と
いう字だけが残る。
莉子のダイイグメッセージ・ハチノツキとは、島原
葉月ではなく、八乙女瑠美奈の事を示していたの
だろうか。
「桃香……君を殺したのは、瑠美奈ちゃん、
なのか……?」
一樹はボソリと呟いた。
死んだはずの桃香はもちろんここにはいないので誰も
答える声は無い。
一樹は無意識のうちに上着のポケットに入れていた
桃の花の香水の瓶を引っ張りだすとフタを取っていた。
桃の花のいい匂いがその場に漂う――。
と――。
「かーずき!!」
「わああっ!?」
いきなり後ろから千鶴が抱きついて来た。
びっくり仰天した一樹は思わず香水の瓶を落として
しまいそうになり、慌ててふたをしめると大事そうに
胸に抱え込んだ。
仮にも女なのだから、恋人でもない異性に抱きつか
ないで欲しい。幼馴染で親友の恋人とはいえ、柔らかい
体を背中に感じ一樹は思わずどきまぎしてしまった。
それを誤魔化したくてつい強い言い方になって
しまう。
「な、何だよ千鶴!! 割っちゃうところだった
だろ!?」
「あれ? 一樹って香水つける人だっけ?」
「俺のじゃないよ。桃香の墓に備えようと思って
買ったんだ。千鶴だって聞いてるだろ? 桃香が
香水を俺からもらったこと」
「えっ!? 何それ!? あたし聞いてないよ?」
千鶴は本当に不思議そうな顔で聞いて来た。
続いて、ぷうっと頬を膨らませて桃香が隠し事をした
事にすねる。
栗色のツインテールを揺らす姿は相当に可憐では
あるが、今の一樹はそんな事には注目していられ
なかった。
聞き捨てならない事を聞いた気がする。
「千鶴……えっと、もう一回今の言葉聞かせて
もらってもいいか?」
「だから、桃香から香水の事なんて一度もあたし聞か
されてないの!! いつも同じ匂いのポプリ持ってた
から気付かなかったし!!」
再び一樹の顔から血の気が引いた。
千鶴は、桃香から香水の事など聞いてはいなかった。
だったら、瑠美奈はいつどこで一樹が彼女に香水を
渡した事など知っていたのだろうか。
親友である千鶴に言わないのに、出会ったばかりの
瑠美奈にだけその事を話したとは考えられない。
そして、一つの事に思いいたる。
彼女は、聞いていたのだろうか。一樹と桃香の会話を。
たまたま聞いてしまったのならどうして嘘などついた
のだろう。
一樹は疑心暗鬼にかられてしまいそんな自分を嫌い
そうになった。
「あの、さ。千鶴……ちょっとお願いがあるんだけど」
「お願い?」
千鶴は首をかしげていたが、桃香を殺した犯人を見つ
けるために必要なんだ、と一樹が言うと二つ返事で了承
してくれた。
一樹は瑠美奈の部屋を調べたいから、瑠美奈を連れて
しばらく部屋から離れてくれと言ったのである。
かくして、千鶴は瑠美奈を連れて外に出てくれた。
一樹は誰もいなくなったのを見計らい、千鶴と共通で
使っている瑠美奈の部屋へと急ぐ。
誰かの鞄を探ったりするのはプライバシーの侵害だし、
一樹もちょっとためらったのだが、意を決して瑠美奈の
鞄を覗き込んだ。
……あった!! 一樹はひょっとして、と思った物を
瑠美奈の鞄から発見した。
それはテープレコーダーだった。
証拠隠滅のためか壊れたカセットが入っている。
カセットの黒いフィルムは一部分だけ破れていた。
ポケットにしまいこまれた黒いビニールの切れはしを
くっつけてみるとぴたりと合うのが分かる。
一樹は悲しげな顔をしながら瑠美奈の鞄を閉じた。
まだ彼女がどうして桃香を殺したのか、そしてその
トリックも完全には暴けていない。
だが、これで一樹は桃香を殺したのが彼女だと確信
していた。
信じていたかった。疑いたくなどなかった。
あんな無邪気な少女が人を殺しただなんて……。
「桃香……ッ!!」
愛しい少女の顔を思い出ながら一樹は一人、拳を彼女の
部屋の床に叩きつけた――。
ついに犯人の正体が分かりました。
犯人の正体に苦悩する一樹。
彼にトリックを暴く事が出来るのか!?




