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スケープゴート  作者: 時雨瑠奈
悲月殺人事件
13/35

第十二話 ~無邪気な少女に感じた違和感~

 木更津一樹は桃香が以前いた部屋で

香水の瓶のコルクのふたを開けていた。

 桃の香りが部屋中に広がっていく。

それはここ最近の一樹の癖だった。

 と、そこに八乙女瑠美奈がやって来た。

慌てていたのだろうか、ノックをして

いなかった。

 なんだか息を切らしているようにも

見える。

 淡い金の髪が乱れており、青い瞳に

安堵したような色があった。

「一樹さん、ここにいたんですね」

「あ、瑠美奈ちゃん」

「あ、その香水……桃香さんの、ですね」

 一樹はあれ?と思った。

そういえば、何故この前瑠美奈はあの匂いが

香水だと気づいたのだろう。

 桃香は人前では香水をつけてはいなかったし、

桃香の部屋のあの瓶も割れていたからそれだけで

香水と判断は出来なかっただろう。

 一樹は香水の瓶を隠していたのに、彼女はいとも

たやすく「香水」だと告げたのだった。

 昨日は気にしていなかったが、そういえばなん

だかおかしい気もする。

 桃香はポプリをいつもつけていたし、香料の瓶か

桃香のポプリかもしれないとは思わなかったのだろうか

彼女は。

 しかし、人を疑うなんてよくないと思い直して、

一樹は笑顔になった。

「一樹さん、その香水つけるんですか?」

「まさか。――桃香にあげた香水の瓶は割れちゃった

から、同じの買って墓に備えようと思ったんだよ。

帰ったら……」

 今現在、桃香の墓は彼女の自宅の外に備え

られていた。

 このまま放っておくのはむごいからと、警察の大江川

大五郎が彼女の自宅に連絡を入れ引き取ってもらったの

だった。

 その連絡を受けた時の桃香の家族の心中は想像に

余りある。

「全部終わったら、桃香に会いに来てあげて」と電話

口で告げた彼女の母の声は涙声で震えていた。

 かなりのショックだったのか、桃香の遺体が届けられた

後しばらく音信不通だったけれど、昨日の夜一樹の携帯

電話に連絡が入ったのである。

 はい、と告げるだけで一樹は精一杯だった。

自分が彼女をここに連れて来たから死んだのかもしれ

ない。

 ついそう想ってしまう一樹には、桃香が生きていたら

義理の母になったかもしれない女性を慰める事も、余計に

悲しませる気がして謝る事さえも出来なかったのだった。

 一樹の心中には気付いていないのか、瑠美奈は微笑んで

いた。

「素敵ですね!! あ、そういえば私ご飯の支度が出来た

から呼びに来たんでした、千鶴さんに怒られちゃいますね。

行きましょう、一樹さん」

「そうだね」

 一樹は香水の瓶にふたをしてポケットに押し込むと、瑠美奈

と共に斉藤千鶴達の所に行った。

 千鶴はイライラしながら待っており、北原大地がまあまあと

彼女をなだめている。

 大五郎は勝手に食事を始めており、今日もまた渚竜也は閉じ

こもっているのかここにはいない。

 大丈夫なのかと一樹が聞いたら、千鶴は食事は部屋に運んで

いるらしい。

 減っているのは本当にわずかな量の水と食事だが、どうやら

ちゃんと食べているようだ。

 千鶴は一樹の前にサンドイッチが載った皿を置きながら

ちょっと悪戯っ子のような顔になった。

「随分遅かったわね~怪しいわ」

「あ……!!」

「あやしくなんてありません!! 桃香さんの事話していたん

です、ねっ? 一樹さん!? そうですよね!?」

 一樹が弁解する前に怒鳴ったのは瑠美奈だった。

いつも彼女は一樹のことでからかわれると異常な反応を示す。

 一樹は一切気にしていないが、千鶴達は「恋するが故の反応」

だと思ってすっかりここ最近は瑠美奈をいじりっぱなしだった。

 色白の顔を真っ赤にする彼女は本当に可愛らしい。

「もう知りません!!」

 真っ赤になった瑠美奈が自分の分のサンドイッチにかぶり

つく。

 ちなみに、今日のサンドイッチはバナナとチョコペーストを

塗った甘い奴だった。結構な甘さではあるけれど、栄養価は

高い上に美味しいので助かっていた。

 一樹達も次々と皿に盛られたサンドイッチに手をつけて

行き、朝食の時間はその後は静かに過ぎ去った――。


 部屋に戻った一樹は、ベッドで横になってこの間見つけた

物品の事を考えていた。

 黒いビニールのきれはじは何のために使われたのだろう? 

と。

 考えても考えても答えが出ない中、トントンと戸を叩かれた

ので一樹は跳び起きた。

 一体誰だろうと扉を開けると、そこに立っていたのは不安そう

な顔の瑠美奈だった。

 最近、彼女はよく自分の部屋に来るな、と不思議そうな顔を

しながらも一樹は瑠美奈を見つめる。

「あの、ちょっと来てもらえますか?」

「どうしたの瑠美奈ちゃん?」

「シャワーの調子が悪いみたいなんです。上手く水が

出なくて……」

 女の子のがシャワーを浴びれないのは一大事だろう。

すぐに一樹は瑠美奈の部屋のバスルームへと向かった。

 俺で直せるんだろうかとちょっと心配な一樹だったが、ちょっと

詰まっていただけだったのだろう水は無事に出た。

 水をしばらく出し入れしてから止めると、瑠美奈がむぅ、と少し

不思議そうな顔で首をひねっている。

「あれ? さっきは出なかったんですけど……」

「何かが詰まっていたんじゃないかな。また何かあったら

呼んでね、すぐに行くから」

「はい!!」

 瑠美奈は上機嫌でバスルームを出て行った。

自分も出ようとした一樹の鼓動がドクン、と高鳴る。

 きちんとたたまれた白いタオルの山の一つに、真っ赤なしみが

ついていた。

 かなり鮮烈な赤は、血を思い起こさせてしまうような色だ。

何故瑠美奈の部屋のバスタオルに血が……? ひょっとして全ての

事件の犯人は……この無邪気に見える少女瑠美奈、なのか?

「どうしたんですか? 一樹さん?」

 もっとよく見ようと手を伸ばしかけた一樹は、瑠美奈に声を掛け

られて飛び上がりそうになった。

 錯覚なのだろうか、瑠美奈の顔がひどく冷たく感じられて一樹の

背がゾッと粟だった。だが――。

「もう何やってるんですか!!」

 次の瞬間には瑠美奈は照れたような微笑みを浮かべていたので

一樹はあの表情は幻だったのだろうと思い込んだ。

 幻、そう幻なんだ、瑠美奈があんな冷たい氷のような表情を

する訳がない。

「あ、あのさ、瑠美奈ちゃん? このシミどうしたの?」

「シミ? あっ!! 絵具ですよ絵具!! 血に見えました? 

 絵を描いていたらタオルに散っちゃってなかなか落ちなかった

んです」

 一樹はホッとしてバスルームから出た。

やけにリアルな色合いだから勘違いしたのだと気づいて安堵の

ため息をつく。

 そうだ、瑠美奈が犯人な訳がない。

だってあんなに無邪気な優しい女の子が人なんか殺せるもんか。

 それに人一人殺すのに力だって足りないだろう。

だが、一樹はしばらくたってもあの氷のような無表情がどうしても

忘れる事ができなかったのだった。

 あの、鮮烈な血のような色合いのタオルのしみも――。

 以前の作品で描写が重複しているシーンが

あったので修正入れました。以前書いていな

かった、桃香の死体があの後どうなったのか

についても追記してあります。

 これからどんどんストーリーが進んでいく、

予定です。

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