夏のイッシュン
初めての作品です。色々な作品が、自分の中で合わさった感じなんで、ぱくりっぽくなっているかもしれませんが、御了承ください。
それは、夢の様に遠くて、でもはっきりと近くにある、夏の日の思い出―
そこは路地裏だった。季節は夏、だが、そんな事は関係ない。時間からも社会からも忘れ去られた場所、それが“此処”なんだ。それはまるで、今の俺みたいだ。
俺の名前は前掛泰生。何の変哲もない、ただの高校二年生。いわゆる“普通”の生活を送っている、そんじょそこいらのガキ、ってなわけで、そんな俺がなんでこんなとこに居るかと言うと、実はよくわかんねぇ。
気がつくと俺は此処に居て、ボーっとしてる。
だけど、何考えてんのかはわかってる。
…繰り返される毎日、誰もが忙しそうで、そのくせちゃんとした意味なんか置き去りにして暮らしてる。そんな毎日がきらいで、でも俺自身もそんな生活を送ってる。だから、抜け出したかったんだ、きっと。いつからだろう、こんな事を思い始めたのは。あの頃はそんな事なかった。…?あの頃っていつだ?そういやぁ、いつかの記憶が抜けている。何か大切な記憶が…。
1.出会
その日も、俺はそこに向かった。その日だけは、いつもと違う気がした。すべてから見離された、この場所に、誰かが居た。
目に映るは、長い、黒い、美しい髪。風に揺れては煌めく。透き通る様な白い肌。それは、いつか見た、あの夏の砂浜を思い出させる。そこに居たのは、美しい少女だった。
「今日は。」
綺麗な声だった。そして、どこか懐かしい様な、幼さの残る声…。
「何してんの?」
あまりの事に気のきいた事が口に出せないとはいえ、さすがにぶしつけ過ぎはしないか、と思う。だが、彼女はあまり気にしなかったかの様に答えた。
「きみに会いに来たの。」
「…はぁ?」
「なんてね。本当は自分でもよくわからない。でも、この場所にひかれた、のかな。」
そう言って髪を掻き上げる。そのあまりにも自然な美しさに、俺は息をのんだ。それと同時に妙な感じがした、彼女は俺と同じなんだ、と。一体何が同じなのかはわからないが、確かにそう感じた。
「ねぇ、」
また、綺麗な声がなった。
「少しお話しない?私は佐久間さくら。あなたは?」
2.彼女
佐久間さくら、それが彼女の名前らしい。
本当に不思議な娘だ。
まず第一に、此処に目を付けるところが変わっている。
本人曰く、気付いたら此処に居たらしい。
よくわからないが、たぶん、俺と同じなんだろう。
彼女も此処が気に入ったみたいだ。
話をしている内に、俺は自分でも信じられない程さくらと仲良くなっていた。
そして気が付くと、彼女の事をファーストネームで呼んでいた。
しかし、まったく何の違和感もなかった。
そう、本当に自然に、まるで昔からそう呼んでいるかのように…。
話している内に、気が付くと時間は過ぎていた。
ビルの隙間から、夏の夕焼けに染まる空が見える。
なぜだろう、季節など忘れてしまったこの場所に、精一杯の夏がしみ込んできている様だった。
まるで、俺に何か思い出させるかの様に…。そういえば、いつの日か、俺には幼なじみがいた。小さな女の子だった。もっとも、その頃は俺も小さかったわけだが。その子の名前はなんだったのかな?あれ?思い出せない、大切な友達なのに。確か最後に会ったのは夏だった。だが、いつかは思い出せない。何故だろう…。
「どうしたの?」
さくらが俺の顔を心配そうに見ている。
「いや、ちょっと考え事だよ。昔の友達の事を思い出していたんだ。」
「ふぅん、どんな子?」
「それが思い出せないんだ。確か女の子だったと思う。大切な友達なのに。どうしたんだろう…。」
「大切な友達か…。」
さくらは微笑んだ。夕焼けの中にも映える、綺麗で、でもどこか淋しそうに微笑んだ。
「私も泰生の大切な友達になれるかな?」
「何だよ、突然。まだ、会ったばかりだろ。」
「…そだね。これからか…。もう日が暮れるね、また、明日も会えるよね。」
ああ、と俺は返事を返すと、さくらはまた、淋しそうに微笑んで、手を振って行った。俺も家に帰るか。
そこには、赤い影がふっていて、二人の思い出を閉じ込めていた。もう無くさぬように、たとえ、彼の記憶には残らなくとも、季節がそれを忘れぬ様にと…。
3.夏日
“泰生、”
懐かしい声がする。幼い頃に聞いた声。
“まったく、泰生は私がいないとダメなんだから。”
誰の声だろう?長い間忘れていた。大切な響き。
“大人になっても、一緒だよ。約束しよ。”
気が付くと、俺はベッドの上で目を覚ました。時刻は朝七時頃だった。頭の中では、さっき見た夢の声が響いている。一体誰の声だろう。本当はわかってる、あの子の声だろう。もうちょっとで思い出せる気がする、もうちょっとで…。
「お早よう。」
次の日も、さくらはそこに居た。何となくはわかっていたものの、やはりどう考えても不思議だ。何が好きでこんなとこにいるのだろう。
「まったく、またこんなところに来るなんて、他にする事ないのかよ。」
「そっちだって、私より長く此処に入り浸っているでしょ。」
たぶん俺は苦笑いしていたと思う。確かにそうだな、人のこと言えないか。さくらはやはり屈託のない笑顔をこちらに向けている。
「ねぇ、どこか行かない?」
「今日も暑いね。」
「ああ、夏だからな。」
俺たちは、とりあえず街にでてみた。夏の太陽は今日もさんさんと照りつけている。
「なあ、どこか行きたいとこあるか?」
「ん?どこでも良いよ。」
どこでも、ってもなぁ、こんな状況初めてだから、どこ行きゃ良いかわかるわけがない。
「とりあえず、どっかで何か飲むか。」
俺たちはまず、近くの喫茶店に入った。カウンターで、いかにもマスターという感じの人が出迎えてくれる、中々粋な店だった。俺たちは一番奥のテーブルに座り、二人共アイスコーヒーを頼んだ。頼んだ品は、程なくして運ばれてきた。俺とさくらはほぼ同時に口をつけた。やはり冷えてもコーヒー、美味い。普段は熱いものしか飲まないのだが、たまのアイスも中々だった。だが、さくらは複雑な顔をしている。
「これ何か苦くない?」
「そりゃ、砂糖も何にもいれないコーヒーは苦いよ。当たり前だろ?」
「へぇ、コーヒーって苦いんだ。」
「もしかして、コーヒー飲んだことないのに注文したのか?」
「うん、今日初めて飲んだよ。泰生って甘いもの好きだから、てっきり甘いものかと思ったんだけどね。」
「飲んだ事ないのに、よく注文したな。まあ確かに俺は甘党だけどコーヒーは…!?」
待てよ、俺、いつ甘いものが好きだって話したっけ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない…。」
きっとはじめて話した時に言ったんだろう。気のせいだ。
「あ、そうだ!」
さくらが突然声をあげた。
「どうした?」
「夏なんだし、海に行こうよ。」「気持ちいいね。」
「ああ、」
潮風が頬を撫でる。聞こえるはさざ波の音。俺たちは真っ白な砂浜を、二人並んで歩いていた。まだ夕刻ではないが、日は徐々に沈んできている。何故だろう?不思議な感じがする。
「なんだかさ、」
「ん?」
「懐かしい感じがするんだ。」
「懐かしい?」
「ああ。昔も、誰かとここを歩いた気がする。たぶん、前に話したあの子だろう。まだ、思い出せないんだけどな。」
そう、俺は昔、確かにここを並んで歩いていた。二人並んで…。
ふと立ち止まり隣を見る。さくらが不思議そうに俺を見つめる。そういえば、さくらと出会ってからかな。あの夏のことを思い出したのは。あの夏?一緒にいた子。その子の名前は…。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。」
「変なの。ねぇ、おい駆けっこしない?」
「はぁ?おい駆けっこって、おい!」
彼女はもう駆け出していた。仕方がない。俺も駆け出した。まるで、あの夏の足跡をたどるように…。
4想出
黄昏時に二人並んで座る砂浜。海は赤く染まっていく。
「楽しかったね。」
「ああ。全く、ガキの時以来だよ、こんなにはしゃいだの。」
「…そだね。」
彼女の顔を見つめた。夕日が照らす、その微笑みを。楽しそうで、でも、どこか淋しそうな微笑みを。
「あのさ、」
「ん?」
さくらが俺を見つめる。少し気恥ずかしくなり目をそらす。
「幼なじみがいたって言ったろ?その子の事、だんだん思い出してきたんだ。その子の名前は、」
俺は彼女を見る。彼女は海を見ている。
「さくら、て言うんだ。」
「…。」
「さくら、お前は…、」
「私にもね、」
さくらは口を開いた。
「幼なじみがいたって言ったよね。その子とは夏しか会えなかった。だけど、私はその子が大好きだった。」
俺はたまらず海を見る。さくらの独白は続く。
「でもね、私は彼と別れなければならなくなった。私は、死ぬ運命にあったの。」
「え、」
俺は慌てて彼女を見た。今にも泣きだしそうな、その顔を。
「どんなのかは覚えてないけど、病気だったの。それで、春が終わる頃に入院したんだ。でもね、夏がくる前に、私は…、死んでしまったの。」
俺は、何も考えず、彼女しか見ていなかった。
「彼に、会いたかった、」
彼女の頬を、涙がつたる。
「もうすぐなのに、後ちょっと頑張れば、夏なのに…。私は…。」
夕日が沈む。二人を見守りながら。
「さくら…」
言葉が続かない、どうにかしたい、でも…。
「でもね、神様は私にチャンスをくれた。七年後の夏、もう一度彼に会わせてくれるって。その代わり、彼から私の記憶は消える。」
「何だよ、それ、」
たまらず、呟く。
「勝手なのはわかってる。それでも、」
さくらは俺を見た。泣きながら、微笑んで…。
「あなたに、会いたかったから…」
気が付くと、俺はさくらを抱き締めていた。もうなくさないように、強く抱き締めた。
「久しぶりだね、泰生。」
「さくら…」
「泣いちゃだめでしょ、男の子なんだから。泰生は私がいないとダメなんだから。」
「勝手にいなくなったのはどっちだよ…」
「そだね、ごめん。」
「さくら、」
「ん?」
「俺も、お前の事が、」
さくらを見つめる。その瞳には、確かに俺が映っている。
「好きだった…」
そして、さくらの唇に、自分の唇を重ねた…。
夕日は沈み、辺りは真っ暗。星々は輝き、月は優しく見守る。なぜだろう、この日の波は、優しい音だった。5.夏終
いつもの場所に行った。この日もさくらがいた。
「お早よう。」
「ああ、」
「暑いね。」
「夏だからな。」
「夏ももう終わるよ。」
「何言ってんだ、まだまだ…さくら?」
一瞬、さくらの体が揺らぐ。
「私の夏は、今日で終わり。」
「さくら…、」
「楽しかった、最期の夏。もう一度、泰生と会えて…だから、もう…」
「嫌だ!」
目頭が熱い。何の歯止めもなしに、言葉が零れる。
「もっと、お前といたい、全然足りねぇよ、まだまだ、さくら…」
さくらは静かに目を閉じる。ゆったりとした笑顔。
「泰生、もうあなたは私が居なくても大丈夫。だって、ため込んだもの、全部だしたから。」
「え、」
俺は今まで生きる気力を無くしていた。何かが欠けていたから…それが、彼女への想い。だから、
「もう、さくらを無くしたくない…」
さくらはゆっくりと目を開き、俺を見つめる。その澄んだ目の中に俺が映った。幼い頃と変わりのない、泣き虫な俺が…
「泰生は、私のことを忘れてしまう。けど、」
綺麗な声がなった。
「私はあなたの中にいるよ。名前は無くなっても、本当に大切な一瞬は永遠に残る。だから、大丈夫。泰生、さようなら…」
屈託のない笑顔だった。
俺はさくらに駆け寄り、抱き締めようとした、だが、彼女の体は、俺の腕をすりぬけ、夏へと消えていった…。
あの日見た、夢の続きをと願った。
だがそれは、決して叶うことのない願い。
永遠などないのだから、
夢はいつか終わってしまうから。
だから、彼女は選んだのだろう、
この想いを、
あの一瞬を永遠にするために―。
数年後、俺はまたあの場所に来た。何も変わらない。だが、そこには、確かにあの日の二人がいた。名前も声も顔も、もう思い出せない。だが、此処が、俺たちを覚えていている。
思い出はいつか忘れてしまう、でも消えはしない。それがいつでもあるかぎり、大切なものは絶対になくさない。
さあ、進もう、大切な想い出と共に、この季節を…
まだまだ表現が下手ですが、読んでくださってありがとうございました。どうでしたか?この話は“夏”の話です。ある某有名ゲームの影響うけまくりです。ですが、僕なりに想いというものを伝えたつもりです。一応、今シリーズ化を考えているのですが、また興味があったら、よろしくお願いします。