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 第二幕 林檎


 僕は恋をすることにした。


 おっと、いきなりすまなかったね。ごほん、僕の名前はライタ。この学園に通う三年生だ。


 つまり九歳ってことだけど、小学生だからってあなどらないでほしい。


 僕はみんなとは違う、大人の頭を持っているんだ!


 大人か子供かを決定するのは、単なる体の大きさやだせい(惰性)で生きた密度のない人生の積み重ねで決まるものではない。「どのくらい考えたか」であると僕は思うのだ。


 僕は生きてきたこの九年間を誰よりも密度の濃いものであると自覚し…そして!


 大人の思考を手に入れたのだっ!その思考パターンで考えた結果、僕は恋をすることにした。

 

 なぜそのような結果に至ったかは、ひとまずおいておこう。


 自慢じゃあないが僕はクラスでも友達が多く、成績だって一番…(ではなくて、あの本ばっか読んでる「ひな」とか言う女子にいつも先を越されて何でも二番なんだよちっきしょう…。)


 …まあこの話はおいておくにしても、野球の部活にだって所属していて、僕は期待のエースとしてもてはやされている。


 何かに属しているというのは社会的な信用にもつながるからね(でも、体育の時間はあの「レン」とかいう女子が怪物じみた運動神経でクラスの注目を総なめにするんだよなあがってむ…)。


 そして、一般の年ごろの男子なら誰もが抱く感情、この僕という存在をみんなに親しみやすくするための手段。それが「恋心」だ!僕にソレが必要な理由はふたつばかりある。


 恋をして、僕には小さな秘密ができる。「OOOO」ちゃんが好きだという秘密だ。


 これは同じ「恋心」を持っている男子とさらなるキズナが生を生む。


 秘密を共有しあう仲ってやつだ。つまり、半ば秘密でなくなることを前提しているわけだが、僕にとって「恋」なんてものは手段に過ぎない。


 しっているかい?ある遠い遠い国では結婚していることが社会的な信用のひとつになっているんだ。


 なぜなら、守るべきものがあるという使命感が生まれるからなのだ。…まあ、結婚までは行かないかもしれないけど。


 あとひとつ。恥ずかしい話、僕はまだ恋をしたことがない。恋を経験してみたいというのもまたひとつの理由だ。


 さっき話したみたいに、僕にとっての「恋」とは社会的クラスの信用を得るためにするものだ。


 だから、極論すれば二つ目の理由なんてあってないようなものだ。


 本当の恋ができなくてもいい。誰かが好きという事実らしきものさえあればいいのだ。それで、僕はまたひとつエリートへの道を歩むっ!


 生徒会長に俺はなるっ!



 違う教室にいる、前側の席にいる彼女を好きになることにした。


 教室のドアの影からそーっと、自然にのぞいてみる。


 くるくると巻いた綺麗なロールヘア。憂いを帯び、濡れたような黒いまつげと凛々しいつり目。ツンと張り詰めた彼女の周りの空気。


 頬は白く穢れを知らない白磁のようでいて、誰よりもやわらかそうだ…。


 っごほん!


 別に見とれていたわけではないっ。彼女を観察していただけだ。


 教室に戻って机に座る。僕の作戦は完璧だ。


 あの子の性格はちょっとキツめだから、みんな寄り付こうとしないけど、実は男子の中では結構人気が高い。


 あの子を好きになって、どうしても仲良くなれないという事実(仮)をほかの男子と共有する。


 さらには、そこからぽろりとこぼれた噂話にクラスの噂好きの女の子たちが食いつき恋の話に花が咲く。…花が咲くかはわからないけど、女子はスキャンダラスな話が大好きなのだ。


 ふっふ…ふふふふふっ。


 これで僕はまた新たな人脈を作りクラスの信用を得ることができる。


「おい…おい…ライタ。きいてんのか?ライタ!」


 話しかけてきたのは僕の友達の一人、リュウノスケ君だった。


 流れるみたいな黒髪にふちの厚いメガネをかけた男子。


 たしかリュウノスケくんも女子の中では結構人気があった。僕ほどではないが勉強もできるし、せっかくの大きな瞳を半ば、だるそうにしている彼は、女子の中でも「クール」でかっこいいという話になっているらしい。


 たしかに、世の中を諦観しきったようなその双眸は、まるでこの世のカオスの中から自分だけの真実を見極めようと勤めている涅槃に入った僧のようでもある。


 僕は、いきなり話しかけられたことにも動じずに、慌てふためくこともなく、死神に魂を売った大学生のような顔で言ってやった。


「リュウノスケェ…僕はァ…新っ世界のホ….生徒会長になるフゥ…」


「お前なにぶつぶついってんだ?」


 大丈夫じゃないヤツを見る顔でこっちを見てきたので、何事もなかったような顔をしてリュウノスケくんに向き合った。もう作戦は始まっているのだ。


「リュウノスケくん。実は、僕には好きな子がいるんだ」


「…。ふーん」


 リュウノスケくんはなぜか知らないけど心底いやそうな顔をした後に相手の気分を害さないように無理やり驚いて見せた。気に触ってしまったのだろうか?他人の恋の(のろけ)話しを聞くのはあまり気分がいいものじゃないって、どこかの本で読んだことがあるけれど、彼はそんなに狭い心の持ち主じゃない気がする。何かあったのだろうかと疑問に思いつつ次の言葉を出そうか迷っていると、


「で?どうしたんだよ。気になるから続きを話せよ!」


 と、言ってきてくれたので話すことにした。


 登場人物ライタの内省なのでいつもより少し読みにくいかもしれませんが、続けて次話も読んでいただけたらうれしいです。。第一幕の時勢とは少しずれています。第一幕が本来プロローグの体裁をとっているはずなのですが、構成上やむ得ずこのようになっております。ご了承ください。


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