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 第二幕 デイジー / リリー


「ねえ、ひなぁ」


 元気な女の子__レンは大きなリボンの女の子に話しかけます。


「なに? レン」


 大きなリボンの女の子__ひなは白詰草で冠を作る手を止めてレンに応えました。


「あのさ。さっき怒ってた? 」


 ひなは白詰草を再度編み始めました。


「怒ってなんかないわよ。ぜんぜんね。これっぽっちも」


「ふ~ん」


 ひなは隠し切れないあどけない声で、すこし大人ぶって言いました。レンは心の根に何かを隠しているような表情で相槌を打ちます。


 ふたりはひなの席で、先ほどレンの摘んできたお花を編んで飾りを作っていました。


 ついさっきまでいたえらそうな女の子は青ざめた顔をして走って逃げていってしまい。取り残された女の子たちは、本当に遊んでくれる持ち主のいなくなった人形みたいになって、しばらく呆然とした後方々に散っていきました。


 波濤のように押し寄せた状況の大きな変化は波が引いていくようにして一気に収束し、それと対照的に外の穏やかな風景は何一つ変わりません。ふたりの会話はゆっくりと続きます。


 レンはひなのことをじぃっと見てからいいました。


「うそつき」


「…………」


 ひなの手はまた止まりました。そしてレンの目を見つめ返そうとして、できずにそらします。


「なんで……わかったの」


 ひなはまるで一世一代の完全犯罪のトリックを見破られたかのように落胆に沈み、顔を伏せて口を尖らせます。


「なんで?あっは!見ればわかるって! あははは」


 本心から笑っているレンをみてひなはすこしだけ傷つきました。わたし・・・うそつくのへたなんだ……。


「それで?何について怒ってたの?」


 レンはにっこりと微笑んでひなに聞きました。


「そっ……それは……いきなりあの娘たちがわたしのリボンをぐぃーっと……」 


 身振り手振りを交えて熱弁するひなのことをレンは半目で見て鼻を鳴らし、


「うそでしょ」


 そういいました。


「…………」


「どうみてもそういう状況じゃなかったしね」


 そうだよね。心の中でひなは浅はかな自分を責めました。


「白状するね。どうせレンに嘘をいったって見破られるだろうし。あのね。友達をばかにされたの。レンのことじゃないわ。その……わたしの読む……なんというか……本のこと。」


 ひなはレンの様子を伺うようにして上目づかいでいいます。レンは何も言わずにただ耳を傾けていました。


「それでね。怒ってすこしひどいことをいっちゃったわ。でも、わたしだって泣きそうなくらい悲しかった。ものはものでもわたしの大事な友達だもの。泣くところを見られるのは嫌だから、紛らわせるために怒ったらついむきになっちゃった」


 ひなの白状は終わりました。しかし、レンは無邪気に笑ってひなにさらに質問します。


「ふーん。で? なんであたしにうそついたの?」


 ひなはすこしドキッとして、なにかいい言い訳がないかとひとしきり考えるように目を泳がせたあと、観念したとでもいうかのように語り始めました。


「レン。あなただってとっても、とっても大事な友達よ。でも、思ったの。あの娘の言うことを聞いて。……本は、ものだから……ものと同じに扱われてるなんて……嫌だと思って……」


 小さな静寂が教室を支配しました。暖かな風に揺れる丈の低い茂みがサァとささやきます。


「嫌だよ」


「……えっ」


 はっきりと真剣にそう答えたレンをひなは驚きと失望の瞳で見ます。しかし、レンはにっこりと微笑んで。


「嫌だよ。物といっしょなんて嫌。もの扱いされるのも嫌。でもさ、ひなのそれは……ちがうでしょ?」


 ひなは困惑しました。ひなはレンがなにを伝えようとしているのはわかりませんでした。


「ひなはさ、友達がものなんじゃなくて、たまたま物だった本が友達なんでしょ。それだったら、べつにいいじゃん。あたしはひなのことだーいすき。さっきひなもあたしのこと大切な友達って言ってくれたよね。あたしはひなの友達。そんで、ひなは本も友達ってことだよね!ひなは、全然おかしいくなんてないんだから、ほら!胸張って!あっ……でも、ごめんね。意地悪ないい方して」


 ひなは目をぱちくりさせて、そして「ふふっ」とすこしだけ笑いました。


「ううん。実はね、わたしさっきからずっと迷ってたの。本とお友達なんてやっぱりおかしいのかなって。自信もてなくなっちゃったの。でも、レンのおかげでわかった気がするわ。ありがとう」


 ひなは心のそこからお礼を言いました。そうしてもう一度驚きます。わたしのちっぽけな悩みを隠すためについた嘘の悩みを解決する手段を示すとともに、本当の悩みまで解決してしまうなんて。


 わたしが悩みを隠そうと嘘をついて、わざとへんな問いかけをしたのもきっとお見通しなんだろな。


「そろそろ帰ろっか」


 レンは元気にそういいました。そとはまだまだ明るいです。教室の中は蛍光灯をつけていなくてもはっきりと本を読めるくらいのいいお天気でしたが、もう帰る時間なのでした。


「そうね。でも、今日は一緒に帰れないわ。図書館によっていかないと」


「そっかぁ。じゃあね。また明日」


「あっ……ちょっとまって」


 気をつかって急いで帰り支度をして帰ろうとするレンでしたが、ひなが呼び止めます。そしてできたばかりの白詰草の冠をレンにかぶせて、


「わたしの……一番は、レン……あなたなんだからね」


 顔を赤らめてそんなことを言いました。「本といっしょの扱いをされて嫌じゃない?」そんな陳腐な問いかけに帰ってくる答えなんてはじめからわかってました。


 そんなことで悩んでいたなんて嘘だって見破られることだってわかっていました。


 何十年、何百年とたくさんのことを変わらずに教えてくれる本も大切な友達です。そうであっていいのだとレンが教えてくれました。でも、変化し続けるこの一瞬をともに歩んでくれる友達がひなにとっては一番でした。


「うん!」


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