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アリウム_act.5



 昔々、吾輩が子供のころは人と人とが『生々しい』という言葉がしっくりくるくらいに近かった。吾輩の家など、貧乏で風呂がなく、4軒離れたおばさん夫婦のところに風呂を借りに行っていた。

 もちろん、自分の部屋などなかったし、社会に出てからすぐは4人一部屋のタコ部屋を寮などと呼んで暮らしたものだ。


 商店街の八百屋や魚屋は、買い物に来る主婦の家族のダレダレが何を好きなのかを知っていて商売をしていた。小さなコミュニティだったが、噂はすぐに広まり、困ったことがあれば、おせっかいやきなお婆などが縁側まで勝手に入ってきて世間話のついでに野菜なんかをおいていった。


 今では、それがあまりにも古臭い郷愁なのかもしれない。

 しかし、元来、人間は何万年も群れて暮らしてきたのだ。


 それが、最近は個人尊重プライバシーの名のもとに淘汰されつつある。


 その原因は、急速に発達したコンピュータ技術のたまものであるというものもいる。世帯の核家族化や、よくできたからくり細工のように形式化した流通のため希薄になった世間の人情によるものだとも言われておる。国力弱体を狙った某大国が、敗戦国たる我が国に秘密裏施したにホネヌキ作戦であるという輩もおる。

 

 どれもこれも、ソウだと断定するには決定打に欠けるものばかりであるが…。

 なににせよ、群れて生きてきた何万年の歴史を度外視した急速な変化に耐えられない体の、いたるところが悲鳴を上げているような、よく言えば成長痛のような、悪く言えば生活習慣病のようなシンシンと気持ちの悪い痛みなのだ。

 

 先刻した『何のために生きるか』という質問を覚えているかね?

 ウム、よい記憶力だ。イヤ、ハヤ、馬鹿にしているわけじゃないよ。ハハハア。


 あの質問には『自分がなぜ生きるのか』という自己中心的な質問の意図と、『自分がいなくなってしまったら悲しむ人』がいると常に実感できているかという二つの側面があった。

 自分が生きていることで、誰かのためになっているという感覚だ。それがすぐに答えられないとは、つまり自分がいなくてもだれも困らないと思っているに他ならない。

 

 先ほども申し上げたことをまた聞かせるのは、何とも申し訳ないが、キミへの処方箋は『他人について真剣に考えること』だ。そして、『誰かのために生きてみること』だ。もちろん、一番は自分でいい。自分の人生のほんのゼロコンマ何パーセントを人のために使ってみるといい。くさい言い方をするなら『思いやり』とでもいうのかね。


 そうすれば、キミを誰かが成長させてくれるはずだ。


 もし、キミが吾輩の話に納得してくれたのなら、マア、明日からでも試してみてくれたまえ。


 吾輩?吾輩はただ、学園の隅に居場所をいただくものだ。

ン?…フフハハ、面白いことをいう。こんなところで一人でいて寂しくはないかって?


 いいだろう。おまけだ。教えてやろう。

 こんな世捨て人を体現したような風体の男でも、仲間は多いんだよ。いつも誰かにべったりくっついていることが、孤独の渇きを潤す方法ではない。


 吾輩はイマ一人だが、孤独ではない。


 呼べば集まる友がいる。もちろん彼らは、めんどうだと適当な言い訳で話を蹴ったりはしない。今から遠出しようなどと無茶なことを言われても、本気で頭を悩んしてリスケジュールするような輩ばかり。無論それは吾輩とてお同じだ。


 イマフウに言うなら絆というようだが、吾輩はそんなくさい言い方がなんとも恥ずかしくて好きになれないから、ただ明快に「人間の歴史は群れて生きることで繁栄した、まったくもって生物然とした歴史。群れることは人間然とすることに他ならないこと」と言っている。


 では、さらばだ。吾輩はあと10分もしたら、幼い生徒たちに向かってそれらしく演説をしてやらねばならないのでな。


 モウ、くるでないぞ?


 キミは休日も平日の空き時間も、モウ、暇になるということはなくなるのだからな。



ーアリウム・了ー


 アリウムー … 無限の悲しみ・正しい主張


 最期まで読んでくれて、ありがとうw


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