表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/24

アリウム_act.2



 フム、フム。

 

 最近体がだるい。それに、やる気もでない。なるほど、なるほど。胸の奥がシンシンとうずいて気持ちが悪いと…。ハハア、これは。


 キミ、吾輩のいくつかの質問に正直に答えたまえよ。

 ウン、物分かりがいいようで何より。素直は美徳だ。


 仕事は何をしているんだね?

 ホウ、事務職か。と、いうと黄光商事かな?ハハア、なぜわかったかってキミ。


 キミくらいの年代で、山城医院が最寄りなら、だいたい黄光商事だ。住所はあの、ベースボールグラウンド何個分というような敷地の独身寮で一人暮らしだろう。マア、驚くことではないよ。イヤ、恥ずかしくなるからやめたまえ。


 あれは大きな会社だ。

 キミはそこでどんな仕事をしているのだね?フムフム、それはたいそうな仕事だ。まったくもって、この世の中を円滑に回す一端であろうことがありありと推測できる。


 病気にかかった原因は、おもいあたらぬか?…。…そこまで悩むほど思い当たる節はないと…。


 日々の食生活は?…アア、まってくれ。今手記をとるから…。いいよ、おしえてくれ。朝は納豆ごはん。食べない時もある…。 ん?いいよ、つづけて。


 フム、昼は社員食堂か。それで、夜はコンビニで買った缶詰と缶ビール。…ハハ、あまり健康的ではないな。


 ときに、コレはいるのかね?

 そんな間の抜けた顔をするんじゃない。コレだよ。この指を立てたらわかるだろう、いい人はいるのかと、聞いておる。ナアニ、すけべえごころから聞いておるのではないぞよ。治療のためだ。


 …そうか、いないか。今日はどうやら仕事着だが、私服ともなればイマドキの若者というような風じゃないか?フウン、そうか。


 ほしいとは思わぬか?ホウホウ、出会いがないとはまたイマフウな。声をかければよかろう。

 生来動物というものは皆、これときめた相手にはすぐに向かい合い、想いを伝える。サルなどは、目が合って「コレだ」とおもったら、示し合わせたようにすぐに交尾を始めるというのだから、これは何とも熱心なはなしじゃないか。


 人間もサルを見習えとは言わないが…。


 人間が悩むことを覚え、恋に風情を見出したり、恋人選びの眼力を鍛え慎重になったというならサルから人間になってめでたしとは思うが…。


 之好とおもえるものにも想いを伝えられないこと、また、そのまま何も言わずに墓場までその気持ちを持っていくことは、人間が本来何万年と目的にしてきた子孫繁栄とは真逆のような気がして、進歩しているとはいいがたいと思うのだ。


 大昔は軟派だの硬派だのいった。


 『イマドキの若者』と言ったらへらへらと何人もの異性とふしだらな関係を結ぶものを指して軟派、古き良き寡黙で真面目な青年を硬派とかいって、理性の強い奥手な硬派ばかりをもてはやしたものだが…。イマではどうやら、一昔前の軟派のほうの武勇伝のほうが世の中では聞こえがいいのかもしれない。


 昔と変わらないのは、古きをなつかしみ良き時代であったと回顧するものの郷愁のみだ。


 オオッと、イヤイヤ失敬。説教など垂れるつもりはなくてだね。イヤ、イヤ。年を取るとどうしてもね。


 最後の質問だから、心して考えてくれよ。


 キミは何のために生きている?


 何をなすために生きて、何を生きがいにして、そのためにどう生きている?


 …。

 …。


 ホウ、わからない、か。会社のためか?ハハ、冗談だよキミ。では、何のため?

…。


 そうだ。あの病にかかったものは、なぜはそれが答えられない。


 ところでだ。ここから質問には答えなくてよい。

 ただ、耳を傾けていてくれ。ナアニ、キミが来た時から、おそらくは“あの”病だと思っていたのだ。


 ここまでの質問の意味がしりたいか?確認だよ。確認。キミがホントウに現代の若者然としているのかというね。あとは、せっかくだからお医者の真似事をしてみたかったのさ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ