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 第九幕 ライラック(紫)

「『こちらタイニーバード(ひな)。作戦成功』。よし一斉送信。『こちらタイニーバード。LOVEレンへ。作戦成功』と。」

 ぐしょぐしょに濡れた制服を日向で乾かしながら、ひなはメールを打つ。

 自分の作戦は目下遂行中であるが、あと10分なら余裕で稼げるはずである。

 ひなの作戦はつくしを足止めしておくことだが、頭を使えばひながいなくても成り立つ作戦なのだ。

 まず、つくしはひなをさがして教室にくることが決まっている。知り合いにひとりに教室に居残ってもらい、つくしに「ひなちゃんならOOにいったよ」と告げてもらう。次の行き先でも同じようにして…。これの繰り返しでいいのだ。気の毒だが、昼休みの間、つくしはたらいまわしにされることになる。

 いつもはたいしてクラスの人間と絡まないひなであったが、頼みごとをすると快く引き受けてくれた。

 自分の作戦を他人任せにして、ひなはなにをしていたか。

 ひなは、誤って他の三人が目標を取り逃がしてしまったときのことを考えて、ずっと旧校舎に潜伏していたのであった。勿論これはライタには内緒だ。ひなは必要のない心配はさせたくないと思ったのだ。よって、この手のメールに限っては、ライタをのぞいた三人の中だけでやり取りされ、ライタには送らないことにしていた。

 案の定レンから連絡があったわけだが、少し大変な思いをした。

 


 誰からも連絡がないのでひなはトイレを済ませることにした。用を足したあと、手を洗おうと蛇口をひねったら、思いのほか綺麗な水が出た。

 そこまではよかったのだが、勢いが弱いのでいっぱいに蛇口を回したら、いきなり大量の水が出てきたのである。

 蛇口は下を向いていたが、シンクに跳ね返った水で制服は水浸しになってしまった。

 KTDは防水仕様だったので壊れていなかった。レンのメールを受信したときに壊れていないことが確認できてほっとしたが、メールの内容は安心できないものであった。

「LOVEよりタイニーバード。そっちにゆずちゃんが向かってる」

 メールを確認したのもつかの間、遠くから足音が聞こえた。

 ひなは急いで近くの教室に隠れるも、どうやら姿を見られてしまったらしい。

 教室の前で立ち止まるゆずの後ろに回り込むことに成功したひなは、ゆっくりと近づく。このあとは、顔を見られないように後ろから「旧校舎の出入りの件について先生に言われたくなければ、今日は帰って」といって帰ってもらう。

 最終手段だが仕方がない。

 しかし、ゆずちゃんは後ろを向こうとした。

 顔を見られたら、さすがにひなもまずい。

 ひなは振り返られたらまずいと思いとっさに、

「動かないで」

 そういった。 

 すると、ゆずはなぜか気を失ってしまったのだ。

 気を失う拍子に、ゆずは前のめりに覆いかぶさりひなも一緒に転んでしまった。

 このままではここを通るキョウカに見つかってしまうので、ひなは急いで一階のベランダからゆずを運び出し体育館前の階段の下に横たえたのである。

 そのせいでゆずの制服も濡れてしまったが、作戦は成功した。



 未だ感じたことのない筋肉疲労と、日差しの暖かさで眠たくなってきた。

 つくしちゃんには悪いことをしたなあと少し罪悪感にさいなまれる。作戦終了時間になったら真っ先に本なんか借りていないことを説明しに行こう。

 ひながそんなことを思っていると、

「こちらLOVE。作戦成功(ひなありがとっ!!!)」

「こちらドラゴン之介リュウノスケ。作戦成功」

 メールが二通とどく。

 どうやら、戦いは最終局面を迎えたようだ。

「がんばってね。我が同胞」

 どこへともなく、少女は小さくつぶやいた。

 




 鼓動が早すぎて今にも心臓が外に飛び出してしまいそうだった。キョウカちゃんは中庭の大きな木の下にひとりで立っていた。辺りを見回しているところなど、小動物的なしかし、気品のある美しさが…。

 いけない、いけない。見とれてどうする。彼女はきっと、他の女の子がひとりもいないことを疑問に思っているのだろう。

『こちらタイニーバード(ひな)。作戦成功』

『こちらLOVE。作戦成功(ひなありがとっ!!!)』

『こちらドラゴン之介リュウノスケ。作戦成功』

 みんなから届いたメールに目を通す。

『戦闘開始。みんないままでありがとう』

 僕はそう一斉送信した後、KTDを閉じる。

 歩みが軽い。とまろうとしても、みんなが背中を押してくれてるようだ。

 近づくと、キョウカちゃんがこちらに気が付いた。

 目が合う…。しかし、動じない。これから見つめなければならないことだってあるかもしれない。その…キ…キッ…キス…とか。

 いいや、考えるのはやめにしよう。全部終わった後に考えればいい。

 「あのときなんであんなに恥ずかしいことを…っ!!」なんて思えるほどに、後悔のないくらい僕の思いを伝えよう。

 僕は君の前に立つ。

「あなたは…ライタさんでしたっけ?」

「そうだよ。覚えててくれたんだね」

 キョウカちゃんはちょっと釣り目で、胸をぴっとはって僕に言う。

「覚えてるも何も、呼び出しておいてどこかへ行ってしまうのですもの。そのあと、たまに廊下ですれ違うことはあっても、なにもご説明くださらないし、なんでしたの?」

 僕は深呼吸をして息を整える。彼女のことを見据えて、言いたかったことを全部言う。

「あのね、ずっとキョウカちゃんのことを観察してたんだ」

「観察ですの…はあ。…。観察!? 」

「はじめはね、誰でもよかったんだ。僕には目的があって、それを成し遂げるために…その…キョウカちゃんを…、観察をしてた」

 僕のバカ!観察じゃなくて、好きになっただろ!!!

 自分で突っ込みを入れて悲しくなる。

「でも、ずっと見てるうちに、かわいいなって思うようになって、キミのすべてがとっても気になりだしたんだ。...そうしたら、もとあった目的もどうでもいいかなって思えてね」

「… 」

「だから、キミが一週間前に泣いて出て行った次の日に、なんでいつもよりもうつくしい顔で笑うのか分からなくて、とってもそれが知りたくなった。今だって、なんでキョウカちゃんがそんなに驚いた顔をしているのかとか、少し赤くなってるのとか、いつも偉そうな口調でしゃべるのとか、全部分からない。だからね、しりたい」

「…」

 キョウカは無言で僕を見つめていた。自分はどうしたらいいのかとおろおろしているようにも見える。

「だから…」

 さあ。男を見せろ

「……」

 さあ。


「だから…友達になってくれませんか? 」


 …。

 …。うアアアアアアアアあああああああああああああああああああ!!!!!!

 何を言っているんだろう、僕は…。

 どう在ったって、告白のくだりだったじゃないか!今のは!

 取り返しの付かないことをしてしまったー!みんなごめん!みんな…。

 僕はふがいない自分に、一瞬にして泣きそうになりながらもそれをこらえた。

「えっ…あっ…う…///」

 キョウカちゃんは閉口して、そのままうつむいてしまった。

 終わったな、僕の学園生活。こんな濃すぎる理由で、「友達になりたい」だなんて、きっと気持ち悪がられるに決まってる。

 僕が白くフェードアウトしようとすると、

「いい…ですわよ…」

 キョウカが口を開いた。

「へっ…? 」

「いいって言ってるじゃありませんのっ! 」

 なんで怒っているのかも僕には分からない。キョウカちゃんは続ける。

「でも、遊ぶなら今度にしてくださらない?いつもここで遊んでいる友達がもうすぐ来ると思うの。あなただって、誤解されるのは嫌でしょう? 」

「うん」

 …。「うん」?

 これは誤解を招かないか?

 僕はまた今度遊ぶということにうなずいたのであって、「誤解される=逢引き」と誤解されることを嫌だって思ったわけじゃない!僕は君のことが…。

「わかったら、はやくいって!」

 半ば背中を押されて無理やり中庭から追い出される。

 僕はなんだかよく分からない気持ちで旧校舎を急ぎかけていく。

 思いは伝えられたし、「友達」にはなれた。

 でも、一番大事な好きだってことが言えなかった。

 はじめの目的「クラスのみんなの信用を得る」というのも、告白したなんて事実があってはもう秘密の気持ちでないのだから 利用なんてできない。

 この一ヶ月…僕は何をしてきたのだろう。このあと、みんなに小突かれるのは必至だ。

 ああ…なさけない。

 でも、少しすがすがしい気持ちだ。一応告白ができたから。思いをちゃんと伝えられたから。それもある。

 でも、本当の理由はひとつだけわかったからだ。

 これは探究心なんかじゃない。

 僕は、キョウカちゃんに恋をしまっていたようだ。


 予約した掲載分とかぶるかもしれませんが、その時は申し訳ありません。

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