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 第八幕 ライラック(紫)

四時間目が終わる。僕たちは号令を聞くより前に教室を抜け出し、旧校舎前で最後の確認を行う。

「今回の作戦だが、急で悪いんだがKTDを導入することになった」

「ライタ元帥。それはなんでありますかっ! 」

 レンちゃんはいつも元気がよくていい。そう、良くぞ聞いてくれた。僕はポケットの中から四人分のソレを出した。

「はっ!これは!!! 」

「そう。KけーTたいDでんわ。これでお互いの状況が分かる」

「おい、ライタ!もし見つかったら軍法会議ものだぞ(先生に怒られる敵な意味で)! 」

「だいじょうぶ。そのときはわたしが言い訳をかんがえる」

「さっすがひな! 」

 なんだかんだで、みんなノリノリだ。ここまでこられたことを心の中で一度みんなに感謝して、僕は作戦のブリーフィングを始める。

「ターゲットはキョウカちゃん。しかし、その周りに護衛が6人付いている。六人はつくしちゃん、くるみちゃん、ナズナちゃん、こぎくちゃん、しおんちゃん、ゆずちゃん。うちふたり、くるみちゃんとしおんちゃんは、僕が今から学校の方向に歩いていき、キョウカちゃんと合流する前にさりげなくクラス委員の仕事をたのむ。残る四人だが、これらは諸君に任せることになるがいいかな? 」

『さーいえっさー』

 響くみんなの掛け声。

「うむ。しおんちゃんとナズナちゃんは、レンちゃんと同じ幼稚園だったね?僕が告白するすこしの間だけ、昔の思い出話でもして足止めしてくれ」

「さーいえっさーっ」

「うむ。つくしちゃんは図書委員だったね。昨日、持ち出し禁止の本をひなちゃんが無断で借りて言ったというプロパガンダ(?)を流しておいた。今日の図書館当番は運よくつくしちゃんだ。内気だけど規則にはきびしい娘だから必ず注意しに来るはずだ。そこを本を持っているふりをして、返すのを嫌がる演技をしてくれ」

「さーいえっさー」

「うむ。あとは最近キョウカちゃんたちと遊ぶようになったこぎくちゃんだけど、リュウノスケくん。この件については任せろって言われたけど、勝算はあるのかい?この娘については調べる時間がなかった。きみだけでだいじょうぶなのかい? 」

「さーいえっさー。任せろ」

 リュウノスケくんの目は真剣だ。大丈夫だろう。

「うむ。では作戦を開始する」

 僕は話し終わった後、配置に付こうとするリュウノスケくんを呼び止めた。

「リュウノスケくん」

「ん?なんだ? 」

 僕は彼女のために書いた告白の台本をリュウノスケくんに渡した。それは、昨日リュウノスケくんにだめだしされたものだ。

「もう僕には必要ない。でも、頑張って書いたものだから自分じゃ捨てられない。君が捨ててくれないか? 」

 リュウノスケくんはすこしきょとんとしたあと、「わかった」といった。

「読んでみてもいいか? 」

「ええっ!!うっ…うん」

 いきなりの提案に僕は驚く、リュウノスケくんは読んだ後に何をしようというんだ?ま、まさか!大笑いするつもりじゃ…!

 難しい顔をしてひとしきり読み終わった後、リュウノスケくんは僕にひとこと。

「HAHAHA。これなら、大統領夫人ファーストレディもイチコロさ」

 褒めことば…ではなかった。きっと、皮肉っぽく「こりゃ駄目だ」といったのだろう。わかってる。僕もあのあと読み返したが、恥ずかしくなった。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、しゅん…となる僕にリュウノスケくんはもう一言。

「でも、よかったぜ。ボクはお前の告白の瞬間に立ち会わないわけだからなー」

「え? 」

「だって、ここに書いてることよりずっといいこと言うんだろ?ボクまで惚れちまったらたいへんだ」

 そういってリュウノスケくんは、はにかむように微笑んだ。

「…///」

あまーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい。

「がんばれよ」

 僕の肩をポンとたたいて、リュウノスケくんは配置に付く。

 気を取り直して、作戦開始だ。



「こちら、writerライター。フェーズ1成功。直ちに所定の位置に付く」

 KTDで一斉送信された内容に私は目を通す。ライタくんははじめの作戦に成功したらしい。つまり、このまま中庭に向かい、キョウカちゃんが来るのを待つということだ。

 あとは私たちがいかにこの作戦を成功させるかがカギとなってくる。

 私の目標はゆずちゃんとナズナちゃんだ。同じ幼稚園といえど、最近あまり話さないため話すには勇気がいる。

 しかし、これも同胞のためだ…なーんてねっ。

「さてっ、一肌脱ぎますかねっ」

 移動しようとしていたナズナちゃんに声をかける。多分行き先は旧校舎だろう。

「あのさー。うちのクラスの宿題で、思い出の作文を書くことになったんだけどねっ。幼稚園のころのことを書こうと思うんだっ。私たちの幼稚園ってどんなだっけ? 」

「え…っ…うーん、そうだねー」

 急いではいないようだけど、中庭にまっている人がいる以上あまり言い顔はされない。これは予測の範囲内。

 ?…でも、ゆずちゃんがどこにも見つからない。

「あのさ、ゆずちゃんは?ゆずちゃんの話も聞きたいんだけど、今日は一緒じゃ…」

「え…あーうん。これは秘密だよ?」

 ナズナちゃんはおもむろに語りだす。

「私たち、旧校舎の中庭でよく遊んでるんだけどね。ゆずちゃん今日はそこにもう行っちゃった。私がおトイレいくのまってくれてたらいいのにー」

 ……。

間に合わなかったかっ…。これはちょっとまずいんじゃないかなっ!

「ごめん。そこでちょっと待ってて!」

 私はいそいでトイレに駆け込み、ひなにメールを打つ。




 今日はわたしが一番乗り。

 少女は胸躍らせて旧校舎の廊下をスキップする。こんなところを見られたら少し恥ずかしい気分になるのだろう。そう思いつつもウキウキがとまらない。 

 一番乗りとはそういうものではないだろうか。と、少女は自分で納得する。

 クラスでもあまり目立つほうじゃないし、足だって遅い。前に出て行く勇気もない。

 結果、少女はいつだった後ろに並んでいる。

 だから、少女は一番というものに憧れていた。

 なぜかは知らないけど、他のみんなは今日に限って係りの仕事や他の事情でいそがしい。キョウカちゃんは決まって、昼休みが始まって5分後に中庭を訪れる。

 今日は神様が私にくれたごほうびなのね!

 そう思うと、さらに足運びが早くになる。


 しかし、ソレは突然現れた。


「…! 」

 誰?


 少女は声にならない悲鳴を上げる。もう使われていない教室の中に誰か、いたのが目の端に映ってしまったのだ。


 少女の頭をよぎるのは、この学校の怪談話。どこかは知らないが、トイレの三番目の個室。そこにはこの学校で誤って事故死してしまった子の霊がいるという。そういえば、そのトイレは今でも綺麗な水が出て…。

「…ひっ! 」

 気がつくと目の前はトイレ。断水しているはずのトイレの中から聞こえる水の音。

 そして、トイレのほうから、まっすぐのびた足跡。サイズは、子どものものに間違いない。 

 いつもはみんなと一緒だから怖くない。でも、今ここには少女一人しかいないのだ。

 足ががくがくと振るえ、窓から差し込む初夏の日差しが暑いくらいなのに、寒気を感じた。

 もしかして、わたしのことを食べにお化けがトイレから這い出してきてる?

 旧校舎に住み着いた子供の幽霊?

 少女の脳裏に嫌な妄想が膨らむ。

 呪うような目をした、水浸しの生徒。それが、わたしをトイレへ引き込み、食べてしまう。足の先からゆっくりと、泣き叫ぶわたしを尻目に…ぐちゃぐちゃ。


 帰ろうか…でも、後ろを振り向いたらお化けがいるんじゃないだろうか。前にも進めない。後ろにも戻れない。

 少女は、もう一番乗りのことなどどうでもよくなっていた。


 ちゃぽん。

 

 しずくの滴る音。


 いやだっ、ここにいたくない。帰ろう。

 そう思って後ろを振り向こうとしたそのとき、

 「動かないで」

 水浸しの女の子が後ろに立っていた。




 「あっ、え?ぅぁ…っんぐ…。いたい…」




 水浸しの女の子は何かいっていたようだけど、少女はそれから先を覚えていない。


 気がついたら少女は保健室のベットで寝ていたという。少女が先生にわたしはどこに倒れていたのかと尋ねると、体育館の近くの外と答えた。

 季節の早い日射病なのかと心配されたが、少女は安心した。

 すべて悪い夢だったのだ。

 そう思えた。先生のその一言までは。

「そういえば、ゆずさん。あなたの制服ぐっしょり濡れてたわよ? 」


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