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 第七幕 翁草(下)

「参謀長。して、この布陣だがどうみる? 」

「はっ。地形を生かしたゲリラ戦が望ましいかと」

「うむ。僕…いや、わしもそう思っていた」

「ゲリラ?そんなまどろっこしいことなんかしなくていいんじゃないかなっ!敵の戦力は高が知れているし、相手の兵は脆弱なものばかりだよっ。それにこちらは精鋭ぞろい、一転突破すれば目標の首なんて一瞬にしてとれるよっ」

「なにいってるのレン。戦うのはライタくんひとりよ」

 教室の窓側、前の席を陣取って作戦会議は始まった。

 今は、本来なら授業中である。





 昼休み残り5分と迫った教室は、教室に帰ってくる生徒たちで少しずつ騒がしくなっていた。

 ボクらはひとしきり言い合ったあと、これからのことを話し合った。

「さっそくだけど、リュウノスケくん。僕には何がたりない?」

「情報だな。お前はなんでってばっかり言うけど、ろくに調べもしないで自分の頭だけで答えを出そうとしてただろう?」

「うぅ...たしかに」

「あの日になにがあったのかをひなさんに聞こう、とりあえず『なんで』の答えがほしいんだろ?使えるものは使わないとな」

 こうしてボクらはひなたちの遊んでいる窓際まで足を運んだ。二人は授業が始まるので机を元通りに戻そうとしているところだった。

「ねえ、ひなちゃん」

「?」

 1週間たって忘れていたが、ひなとキョウカが言い合った日からライタとひなは一度も話していない。

 キョウカが教室を出て行ったとき、ライタとひなも気まずい雰囲気になってしまったからだろう。好きな人を泣かせた相手。つい先日言い合った相手に頭を下げなければならないというのは少し勇気がいる。

 ライタが話しかける直前まで、ボクはどうなることかとひやひやした。また言い合いになってしまっては元も子もない。しかし、ライタなら何事もなかったように話しかけられるだろう。いつもどおりに。

 というボクの予想を裏切るのがライタである。

「あの…ひなちゃん?」

 ライタはひどくもうしわけなさそうにひなに話しかけた。

「?」

 隣にいたレンも頭の上に疑問符を浮かべていた。

 いつもどおりだったのはひなのほうであった。ひなは一週間前の出来事をまったく気にしていないようだ。

「あの…さ。ごめんなさい」

「?」

 ひなはいつもの半眼でライタの方を見ている。その表情は薄くて察するのが難しいけど、いきなり謝られて困惑しているようだ。ボクも困惑していた。何故謝っているのか。ひなと言い合った時だってライタはやられてばかりであったのに。

「あのね。じつは、わかってたんだ。一週間前のあの日にひなちゃんが僕にさせたかったこと。あんな遠回りな言い方して僕の告白を手伝ってくれたんだよね?それだというのに、ひなちゃんを大声で怒鳴ってしまった。ボクは卑怯者だ。お父様に知られたらきっと、太陽系の外まで殴り飛ばされる」

「そう。わたしは別に気にしてないわ」

「……」

 ライタは反省しているようにうつむいて無言のままだ。

「思ったことをいっただけだもの。わたしにその気があってもなくても、あなたが気がついても、気がつかなくてもその場の状況を利用できたのはあなたの判断。わたしはライタくんを責めるつもりもないし、その権利もない」

「そっか、わかった」

「うん」

 立ち直りの早いライタであったが、ひなは別段気にしているようでもなく返事を返す。話は本題へと移る。

「それでね、今日は聞きたいことがあってきたんだ」

 ひなは承知したように「うん」とつぶやく。

「キミにキョウカちゃんが泣かされた次の日から、キョウカちゃんはとても元気だった。元気なんてものじゃない、前の日よりもっと魅力的になった。僕は彼女のことを見てきたから分かるんだけど、キョウカちゃんはそんなに打たれ強いほうじゃないと思う。なんで、そうなったのかひなちゃんは分かる? 」

 ひなは少し目を伏せて考えるようなしぐさをする。

「まだ、告白はしてないの? 」

「うん」

 ひなは少し驚いたように目をしばたかせた。ひなはどうやらライタが一週間前に告白したものと思っていたらしい。

「じゃあ、本人に聞いたら?わたしはそこまで知らないわ」

「え?」

 …え?ひなが言ったことにボクも耳を疑う。ライタが勇気のない意気地なしのどうしようもないヤツだとわかってしまったにしても、話を投げてしまうのはさすがにひどい。

 ライタはこぶしを握り締め、うつむいたままプルプルと震えていた。

 まずいっ!怒ってはならないぞ、ライタ!

「その手があったか!」

 ライタはスッキリした顔でそのように言った。

「つまり、告白のときに聞けばいいってことだね? 」

「そう」

 ボクの早とちりだったらしい。ひなは一番の打開策を打ち出した。なんてスマートなんだと、改めて驚嘆する。

「これから告白するんでしょ? 」

 ひながライタに問う。

「え?うん」

「てつだう」

「いいのかい?! 」

「なになにっ!?楽しいことしてるみたいだねっ!わたしも手伝っていいかなっ」

 机を戻し耳を傾けているだけだったレンも話に参入してきた。これは渡りに船というところだ。戦力が倍になった。しかし、ここで既に五分が立ってしまっていた。いい流れだったのだが、作戦会議は次回に持ち越しか。ボクが小さくつぶやくと、

「次の時間は自習だよっ」

 レンがそういう。どうやら天は我らに味方しているようだ。


 

 自習時間が始まる。本来なら算数の時間だが、どうやら用事で担任の先生が午後からいないらしい。監督の先生は授業のはじめに来たきり、どこへともなく消えていった。うちのクラスは授業中に騒ぐ人間があまりいないため、たまに様子を見に来る程度でよいと考えられているらしい。

 確かに騒ぐやつはいない。しかし、みんなまじめに勉強しているわけがない。小さな声でしゃべったり、お絵かきしたり。

 よって、先生にさえ見つからなければ机をあわせて作戦会議などたやすいのである。


 始まった作戦会議の議題は「どうやって告白するか」である。

 今までの、「昼休みに突撃する」作戦は周囲にキョウカの友達がいるためライタにはハードルが高すぎることをレンから指摘された。

 よって、「昼休みに告白」。しかし、「キョウカをひとりにする」というシュチュエーションをつくるということが決定された。

 次に、どのようにひとりにするかである。この会議はひどく盛り上がった(悪い意味で)。


 ひなは客員参謀。

 レンは軍務総長。

 作戦参謀長はボク、リュウノスケ。

 ライタは、「元帥」兼「鉄砲玉(一兵卒)」というよく分からない役職。

 という設定で、作戦会議は進んだ。

 

 旧講義棟の簡単な地図を自由帖に書いて、そこにキョウカを中心とした女の子たちの名前を書いた消しゴムを並べる。キョウカの駒はなぜかライタのポケットの中に入っていた500円玉である。

 四人は一様にして眉間にしわを寄せ、机をにらむ。机を囲んでいるあたり、コックリさんでもやってるのかと疑われるようにも見えるだろうが、そんなことを気にするようなうちのクラスメイトはいない。

「参謀長。して、この布陣だがどうみる? 」

 口を開いたのはライタであった。告白するのはこいつの役割であり、決定権はライタにあるから、例え兵隊でも元帥である。

「はっ。地形を生かしたゲリラ戦が望ましいかと」

 ボクはライタに進言する。

「うむ。僕…いや、わしもそう思っていた」

 分かっているのかわかっていないのか、大きくうなずいて応じるライタ。

「ゲリラ?そんなまどろっこしいことなんかしなくていいんじゃないかなっ!敵の戦力は高が知れているし、相手の兵は脆弱なものばかりだよっ。それにこちらは精鋭ぞろい、一転突破すれば目標の首なんて一瞬にしてとれるよっ」

 役にはまりきっているのか過激なことをいうレン。

「なにいってるのレン。戦うのはライタくんひとりよ」

 それをたしなめるひな。

 作戦会議は進む。

「一転突破では、これまでと何も変わらない。ハードルが高すぎると、ボクらにそう進言したのはレン軍務総長、きみではなかったのかね? 」

「ぐぬぬ。では、どうしたらいいというのだ参謀長くんっ。名案でもあるというのかいっ?ゲリラ戦といったねっ。では聞くが元帥ひとりでゲリラ戦なんてできるのかいっ? 」

「むっ。では、ここはひとつ、客員参謀殿にお話を伺ってはどうか」

 ボクは、ひなのほうを横目で流すように見る。

 ひなは難しい顔で瞑っていた目の片方だけを開けて、「そうね…」とつぶやく。

「確かに、最終的に戦うのはライタ元帥閣下よ。でも、それまで。最終決戦アポカリプスまでは、わたしたちにもできることができると思うの」

「うむ。わしもそう思っていた」

 ライタに突っ込んでやりたかったけど、僕は黙っていた。

「というと、どういうことかなっ? 」

「つまりはね、わたしはさっき『戦うのはライタくんひとり』といったけど、言っててきが付いたの。陽動で敵の数を減らすことくらいなら、わたしたちにだってできるわ。キョウカちゃんをひとりにするために、みんなで動いて敵を減らすというのはどう? 」

「うむ、いい案だ」

 ただ便乗するライタを小突いてやりたくなったが、我慢我慢。

「みなのもの、相違ないな? 」

 ボクは一旦、この場を締める。みんなも無言でうなずいた。

「では、我らの配置を決めよう」

 そういって、次の議題に移ろうとした瞬間。

「敵襲だー!!!!」

 そう口にしたのはドア側に居たクラスメイトであった。

『ハッ』

 クラスメイト全員に戦慄が走る。やつが見回りに来たのだ。

 ボクら生徒は一瞬にして授業の体勢に戻り算数のドリルを始める。

「うむ。二組はいつもまじめだなーウンウン。関心」

 入ってきたのは監督の先生だ。しかし、その一言だけを残して教室を一回りすると、またどこかへ消えていった。

 間々あって再び訪れる喧騒。作戦会議も再び幕を開かれる。

 

 「配置」「作戦」「作戦終了時集合場所」すべてが決定し、明日、戦いは幕を開ける。

 作戦コード:5「明日は咲かない今日の花」

 これで最後にしよう。


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