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 第三幕 芥子


「で?だからどうしたんだ?」


「え?だからって…そのー」


 すべて(仮)を話し終わった後のリュウノスケくんの反応は思ったよりも淡白だった。むしろ、いうやつを間違えたかもしれない。リュウノスケくんは「告白したくてもできない」なんていうようなキャラではないのだ。きっと、好きな子がいたらその背中で好きにさせるタイプだ。


 くそっ、はじめからつまずいてしまった。…いいや、これは好機!


 こういうのはどうだろう?


 どうしても告白できない僕が、恋のアドヴァイザー・リュウノスケくんに頼んでアドヴァイスをもらう。それを実行する課程は、秘密にしなくともいろいろなところから漏れるだろう。もちろん、わざとらしく大げさに実行する。それを聞いたクラスの友人たち僕に同情を抱き、さらに好感度を上げる…という作戦だ。…われながら完璧の作戦だ…。さあ、実行に移そう!


「いいや、それでね、リュウノスケくん。キミに教えてもらいたいんだ。モテる秘訣ってヤツをさ」


 へりくだったり、頭を下げることも時には必要だ。しかし、最後に勝つのはこの僕、ライタでなければならない。


「え?何言ってるんだ?俺はモテないよ、さっきだって、振られてきたばっかだし」


「なん…だと」


 これは、予想が外れたことへの驚きではない。無自覚。いいや、それ以前に、リュウノスケくん彼女いたんだ…。このとき、へりくだるとか言う以前に、このお方はもしかして本当に尊敬に値する人なのではないかと激震している、僕がいた。


 いやいや、何が起きても僕の計画は揺らがない!


「いっ…いいや、キミはモテるよ。じゃあ、そう…とりあえず僕だけで頑張ってみるから、キミは手伝ってくれないか?たのむっ。このとうりだ! 」


 でも、僕は内心ひどく動揺していた。。


「いいよ。でも具体的にはどうすればいいの? 」


 リュウノスケくんはクールに見えるけど、友人を大切にするいいヤツだ。内心、O.Kしてくれるか不安だったけど、半ば「いいよ」と言ってくれることを確信していた。「こと、友人関係においては見る目を持たんといかん」そうお父様が言っていたけど、僕の目が正しいのなら、リュウノスケくんは胸をはって合格点であると言える。


「ありがとう。リュウノスケくんは僕のすることを横から見ているだけでいい。何か間違ったことをしたと思ったらすぐに注意してほしいんだ」


「いいけど、力になれるかな」


「もちろんさ! 」


 こうして、僕はスタートラインについたのだ。



 彼女は隣のクラス。いつも、決まった女の子たちと遊んでる。彼女たちの行動パターンを探ってみることにした。


 まず、登校して一時間目と二時間目の間はどうやら、クラスの女の子たちだけで話しているようだ。別段、ほかの女子とかわったことはない。しかし、昼休みになると教室の外に出かけていくのだ。どこに行くのかとついていってみると、どうやら旧講義棟であるようだ。たしかここは、老朽化が激しいために立ち入り禁止になっているはずだ。でも、そんなことはお構いなしに、女の子たちは旧講義棟の中に入っていった。


 電気のついてない木造校舎内、しかし、斜陽が差し込み構内は割りと明るかった。夜入ったらさすがに怖いかもしれないけど、陽光が照らす旧講義棟内は静寂に包まれ、しかし斜陽がきらきらと反射させるほこりの粒はどこか暖かさを感じさせた。


 ほこりっぽい廊下を女の子たちに見つからないように歩きながらリュウノスケくんは言った。


「なあ、ライタ。これって、その…ストーカーってヤツなんじゃ」


「ちがう。ちがうよリュウノスケくん。これは予習というヤツさ。彼女たちにどのポイントで接触し、彼女だけを孤立させ僕の思いをぶちまけるかという目的のね」


「ライタ…きもちわるいよ」


 どれだけ彼女を愛しているのか(仮)ということを力説したつもりだったが、どん引きされたので、訂正することにした。


「冗談さ。告白するのもタイミングって必要だと思うんだ」


 「そうだね」といってリュウノスケくんは黙った。なぜなら、女の子たちがどうやら、ドアの向こうに消えていったらしいからだ。ドアはもう壊れてしまっていて、その役割をしていなかった。近くに着て気がついたことだが、ここからはどうやら、外に出られるらしい。近くに身を隠すにはちょうどいい大きさの柱があったので、そこに二人で身を隠しながら出て行った彼女たちの様子をうかがうことにした。そして僕らは彼女たちを観察しようと柱から身を乗り出す。


 「___! 」


 「出て行った」というのは間違いなのかもしれない。そこは講義棟の中に、まるで箱庭のように作られた中庭であった。その中庭の中央には緑の葉をいっぱいにつけた大きな木が立っていた。何の木かは知らない。でもその木はとても大きく女の子たちのためだけの日傘となっていた。初夏の日差し。頬をなでてゆく金色の風。彼女たちは講義棟から「出て」いた。しかし、同時に、まるで僕なんかじゃ手の届かない別の世界に「入って」しまった気がした。


 旧講義棟の中を通ってしかたどり着くことのできない空間。そこは、学校の裏の林と旧校舎が囲む秘密の場所。


 そこで、戯れる彼女たち。


 僕は、むかし小さなころにお父様に連れられて見に行った、有名な絵のことを思い出していた。湖に浮いた浮き島に、大きな木が立っていて、そこで戯れている妖精たち。陽光が印情的だったその絵は僕をその絵の中に引き込み、無性に胸を高鳴らせたことを覚えている。


 今、眼前にある、その「絵画」の中に描かれた彼女の笑顔に僕は、あの時とは少し違う胸の高鳴りを感じていた。


「どうしたの?ライタ」


「え?」


 我を忘れていた。そんなちっぽけなものではなかった。僕の心は、一瞬彼女に奪われていた。


「いっ…いや」


 そう自分で感じた瞬間に、いきなり恥かしさがこみ上げてきてしまった。


「今日は、これくらいで...かえろう」


 いきなりどうしたんだと、リュウノスケくんは得心の行かないような顔をしていたが「わかった」といって了解してくれた。



 次の話では第一章で登場したひなとレンが出てくる予定です。

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