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なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか

王家は機能を停止します。

作者: マンムート
掲載日:2026/08/07


 隣に女を連れた王太子殿下は叫んだ。


「お前とは婚約破棄だ!」


 婚約破棄された令嬢は、ピカリと目を光らせると、平板な口調で、


「そうですか。契約を解除すると言う事ですね」


「そうだ! お前の力など必要ない。我が国の大臣や官僚は優秀だ! 優秀なボクが何もしなくても国は動くくらいだからな!」


 王太子殿下の言う通りだった。


 大臣や官吏は無遅刻無欠席。ここ30年は病気になるものすらいない。


 不正や汚職はなく、軍隊は精強、内政や外交も公正で完璧だった。


 しかも庶民よりも薄給で、遊興に耽る者もいない。


 全身全霊を国に捧げている者ばかり。


 婚約者がいなくなったところで、国政が滞るようなことはないのだ。


「冷たく杓子定規なオマエとちがって、このスザンナはやさしくてあったかくてボクの心を慰めて――」


「では、機能を停止します」



 婚約者の瞳から光が消えて、動かなくなった。



「な」「え」


 王太子殿下と女が唖然としてると。



 広間のあちこちから一斉に声が響いた。


「機能停止します」「機能停止します」「機能停止します」



 広間にいた全ての人間の動きが止まった。



「ど、どういうことだ!?」


「なにがおきてるの!?」



「機能を停止します」


 夜会の会場の灯りが全て消えた。



 王太子殿下と女は、暗闇に取り残された。


 何も見えなくなった。



「機能を停止します」



 辺りが静まり返った。


 何の音もしなくなった。



 王太子殿下は叫ぼうとした。



 口が動かなかった。


 意識がなくなった。



「ど、どうしたのレオン!? レオン!」


 狼狽え騒ぐ女の前に、


「あーまたこいつやっちゃったか」


 白衣を着たぼさぼさ髪の女が現れた。


「あ、あんたは――」


 白衣の女が手にもつ装置から光線がほとばしり、騒ぐ女は消滅した。


「またこんな人間のメスを連れ込んで……王太子って維持コストかかりすぎ。はぁ面倒。自由意志とか残しとくのは考え物だね」


 白衣の女は大儀そうに溜息をついた。


「でも、国が止まると研究費が集まらないし、安心して研究できないからなぁ……はい。再起動」



 広間が一斉に機能を取り戻した。



 王太子殿下だけが動かなかった。



 白衣の女は頭をかいた。


「壊れちゃったか……王家との契約だから、元の意識を残しておいたんだけど……」



 遥か昔。


 いい加減でおおざっぱな白衣の女が忘れてしまった昔。


 偉大な錬金術師である彼女は吝嗇な王家と契約を結んだのだ。



 うるさい官吏や反抗的な貴族を自動人形に置き換えてコストカットしろと。


 その代わり、自動人形に置き換えた官吏や貴族への俸給を研究費として払い続けると。



 王家が遊蕩三昧にふけっている間に、彼女は契約を粛々と履行して、少しずつ人間を自動人形に置き換えた。


 乱倫の王家は、事故や下半身の病気で死んでいき、対外的に困るのでそれも置き換えろと言われたのでそうしてたら、いつのまにか人間が消えていた。



「今となっては、王家とかなくても困らないんだけどな……あ」


 白衣の女は手を叩いた。


「なくても困らないならなくてもいいじゃん! いなくても金は集められるし。どうせみんな置き換えちゃったし! ってか契約守っててばかみたい!」


 白衣の女は苦笑して頭をかいた。


「いやぁ、私としたことが、国には王家が必要だとか思い込んでた! 固定観念って怖いね! これで王宮予算も研究に使える! ひゃっひゃっひゃ!」


 機嫌よさげに笑うと、


「はい。王家の連中! あんたらはリサイクルルームへ! さっさとGO!」



 王太子は目をつぶったまま四つん這いになると、脚をくるくる回転させて特別高速モードで走り出した。


 王家の人間が全員続いた。



 彼らはリサイクルされた。



「これで王国は滅びましたね」


 婚約者だったものの姿をした自動人形だった。


「これであれのおもりをすることもなくなったわけだ。長い間どうもね」


 婚約者だったものは、完璧な礼を示した。


 遥か昔、まっさきに自動人形になることを志願した令嬢だった。


「あんたどうする?」


「婚約者と監視者の役目から解放されるのでしたら、出来れば、ご主人様の助手になりとうございます」


 白衣の女は驚いた顔で、


「え。そんなこと望んでたの?」


「はい。完璧な婚約者や令嬢以外のものをやってみとうございますから」


「じゃ、ついてきて。優秀な助手はいつでも歓迎するよ」



 広間の喧騒の中、ふたつの人影は去り。



 こうして王国は滅びた。



 だけど国は動き続けたので、国民は誰も気づかなかった。


 そして誰も困らなかった。




たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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― 新着の感想 ―
手塚治虫のディストピア感があってゾクゾクした。
SFだぁ…!! 四つん這いになった王子が足を高速回転させて去っていくところがGみたいで笑えました! ちょっと星新一っぽいシュールさが癖になりそう…
バカな王族で良かったね。これで野心があったらロボット帝国のできあがりだー。
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