堪能
私はスケベである。
だが下ネタなど一切言わないし、
女性には限りなく紳士的に振る舞うよう
心がけている。
つまり、
むっつりスケベである。
いや、妄想スケベと呼ぶべきか。
私がその手の人種であると証明する
ある夜の出来事がある。
その夜は週末で、
店内はいつになく賑わっていた。
よく顔を出す店だが、
その女性は初めて見た。
――反則的だった。
その卑猥さは、なんだ。
細く、しなやか。
それでいて肉感的。
太ももから脇の下まで、
一切の淀みのないなめらかさ。
乳の膨らみだけが、
いたずらのように主張している。
私は普段、美しい女性を見ても
どこか冷めている。
足が長すぎれば
「逆にバランス悪くないか」と思う。
胸が大きすぎれば
「寄せすぎだろう」と疑う。
ウエストが細すぎれば
「ちゃんと飯、食ってるのか」と
余計な心配までしてしまう。
だが、彼女は違った。
反則以外の言葉が見つからない。
曲線の美しさ。
なにかに例えるなら、
いや、例えようがない。
例えてしまうとその美しく卑猥なるものに
爽やかさが入り、
卑猥でなくなりそうで
もったいないことこの上ない。
例えようはない、というより例えたくない。
一生に一度、出会うかわからない赤黒く、
そこに少しだけ紫が入ったような極上の輝きだ。
おい、そこの男。
オレと彼女の間に立つな。
どけ。
いや、もう少し左だ。
右じゃない、右は余計見えない。
そう、そこだ。
身体が無意識に左右へ揺れる。
心の中で、必死に指示を出している。
私は見たいのだ。
記憶を持ち帰りたいのだ。
彼女で、めしを三杯食べたい。
誰かは言うだろう。
「声をかければいいのに」と。
だが、それは
最ももったいない選択肢だ。
なぜなら私は
むっつりスケベだからだ。
声をかけた瞬間、
ただのスケベになってしまう。
ああ、上着を着るな。
寒いのか?
寒いんだな?
誰か、エアコンを止めてくれ。
彼女の周りだけ
温度を上げてくれ。
えっ、かっ、
……帰るのか。
上着を着たのは、そういうことか。
まずい。
興奮のあまり、
そんなことにも気づかなかった。
去りゆく腰の揺れ。
それすら、たまらない。
残念だ。
実に、残念だ。
もっと見たかった。
もっと、記憶に刻んでおきたかった。
彼女はまた来るだろうか。
あの卑猥なる宝物を、
もう一度、堪能できる日は来るだろうか。
(注)
人それぞれに人それぞれの人生があり、
人それぞれに人それぞれのエロがある。




