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帝都異世界事変1932  作者: 黒板係
遠野迷家譚
5/12

05 特別偵察連隊

◇前回のあらすじ

冥府警察の目的は何だろうか

 昭和七年五月二十六日(木)九時頃


魔腔に入ると、そこには夜の東京のような街並みがあった。二人は誰にも見つからないよう物陰に身を隠しながら歩みを進める。


上を見上げると空は無かった。高さ五十メートルを越えるところに洞窟の天井のような岩肌が広がり、光を放つ苔が光り星空のように見える。


「予想外の光景だ、妙に空気が澄んでいる。それに強い力を空間全体から感じる」


「ああそうだな、ぼさっとして見つからないようにな」


──カサッ


正芳がそう注意すると、当人が剥がれ落ちていた張り紙を踏んでしまい乾いた音が響く。


「誰だ!」


緋色の襟章と赤地に星が三つ付いた肩章が煌めく四五式軍衣を身に纏った兵士が、音に反応して三八式歩兵銃を構えて二人のいる方に向かって来る。


「見ない顔だな。許可証は」


「見つかった!」


(不味い....何の許可証か分からない)

「正芳、逃げるぞ!」


この周辺にどんな立場の人間がいるのか把握してない二人は、嘘を吐いて誤魔化すことは出来ないと判断して脱兎の如く駆け出した。


「これ逃げて大丈夫か」


「さあ、見たところ歩兵科の上等兵だな。軍人も気軽に発砲はできないはずだが」


────ダン


凜之助の内腿を弾丸がかすめる。


「訂正する。侵入者に対しては問答無用で撃つらしい」


人通りがある大通りを逃げる二人の前方からフォードモデルAが走ってくる。運転している人はこちらが誰なのかは認識していないようである。


すれ違いざまに正芳を車に向かって突き飛ばすと、彼は上手くサイドステップに飛び乗り車体の左面にしがみつく。それと同時に凜之助も屋根によじ登りM1910を抜いて遊底を噛み引いた。


──ダン──────ダン


────パン────パン


兵士の撃った弾丸が頭のすぐ上を掠める。追手に向かい威嚇射撃を行うと、車を運転していた将校も十四年式拳銃を抜いて車外に腕を突き出す。


「何だ貴様ら!」


────パン


車が十字路に差し掛かる前に十四年式拳銃をM1910で撃ち落とした凜之助は、そのまま正芳の背広を掴んで飛び降りる。


──パン


体が地面に叩きつけられる直前、凜之助が撃ったM1910の弾丸は奥に見える右前輪を撃ち抜いた。制御を失った車は右に大きく曲がる。凜之助は正芳を引っ張り、その車の陰に隠れながら回転に合わせるように駆け抜けると路地に体を滑り込ませた。


「こっちに逃げた筈だが何処だ。仕方ない、あの手を使うか」


二人を追う兵士は、両手を地面につけると静かに集中力を研ぎ澄ました。彼の顔つきは細く伸び、犬のような鼻に変化していった。


一方、追手を撒くために二人は路地を抜けた先にあった小さな小屋に飛び込んでいた。


中はこじんまりとしている商店の様で、小さな火床(ほど)(ふいご)、様々な商品の置かれた棚が背面にあり、横長の台の奥に老いた店主が座っている。


「そろそろいらっしゃると思っていましたよ。支知様」


鉄や線香のような香りを漂わせる隻眼の老店主は少し微笑むような表情で二人を見て言う。


「あんたとは初めて会ったはずだが....その目は、一本踏鞴(いっぽんだたら)か」


一本踏鞴とは、隻眼隻脚の妖怪であるが詳しいことはあまりわかっていない。


「左様で御座います。私は一本踏鞴の熊野 槌鉄(くまの つちてつ)といいます」


「はあ....。こんなところで何をしているんだ」


凜之助がそう聞くと槌鉄は二人や周囲の物を一瞥して言う。


「私はこの妖商店で、お客様の欲しい物を欲しい時に売るのが仕事です。珍しい素材を持ち込んでいただければ武器の強化もできますが、何か買われますか」


「そうだな....正芳は、何か目ぼしい物はあるか」


「妖怪の売るものに関してだけは、お前の方が詳しいだろ」


「そうだな」


凜之助は棚に並べてあるものを眺めて何か考えている。


(何か買っていこう。隠れるのに必要なものは無いかな)


◇お品書き

二十六年式拳銃実包

八ミリ南部弾

三十年式小銃実包

三八式実包

45ACP弾

45S&W弾

32ACP弾

肥後守

砥石

河童の水筒

魔腔のすゝめ 付録《特異の巾着袋》

木の葉隠れの葉(狐)

木の葉隠れの葉(狸)

癒石


「こんなものか、取り敢えず木の葉隠れの葉は使えるな。あと32ACP弾は俺のM1910の弾丸だから使う。それと....」


凜之助は『魔腔のすゝめ』という本を手に取り中身を少し見る。


Gnix tooi cexefitex gne cjybely, gne efeagjfex gnag oire gnefe, ayc igx fexojfeex.


「うわ、何語だよ....正芳、読めるか」


外国語を読む機会がない凜之助は少し眺めただけで吐き気を催し、正芳に押し付けた。


「ああ、俺のはそういう妖術だからな」


正芳がその本をしばらく読むと、顔色が明るくなっていく。


「おい、何が書いてあったんだよ!」


「『本書では魔腔及びそこに生息する生物や資源について記す』だとよ。それらを利用した物品についても書かれているらしい」


「もっと詳しく教えてくれ」


「そうだな....例えば、これなんかお前の欲しい物だろ」


正芳が凜之助に見せた頁には、派手な装飾の小瓶の絵が描かれていた。


「なんだこれ」


「『天使の神薬』....説明を読むと、どんな病も治す薬らしいな。集めなきゃいけないものは多いみたいだが、小雪の為に必要なものだろ」


その話を聞いた凜之助の目的は定まった。早速二人は『天使の神薬』を作るための旅に出るための準備に取り掛かる。


「よし行こう!すぐ行こう!」


「慌てるな、あっ」


凜之助の腕が本に当たり正芳の腕から落ちていった。そして、その本は床に適当に置いていた小袋の中にすっぽりと入った。


「袋より大きな本が入ったのか。これ付録だよな、魔腔にはとんでもない物が多そうだ」


「よし、退職金で買うよ」


「流石支知様、お目が高い。それは今一番の売れ行き商品です」


槌鉄は笑いながら商人としての世辞の言葉を並べる。しかし、凜之助や正芳にとってそれはこれからの困難を示す言葉だった。


「直近で、何冊売れたんだ」


「四冊であります」


「誰が買った」


「他のお客様については、お教えすることは出来ません」


「....そうか」


魔腔のすゝめ、この本を持っている人間や陣営は凜之助を含め五つ。誰かが、何かを作るために、何かを探している、その可能性が高いということだ。


(まあ、今のところ解読は正芳しか出来ていないだろう)


木の葉隠れの葉と弾丸、魔腔のすゝめを購入し店を後にする。


すると先程追ってきた兵士と目が合った。しかし先程とは雰囲気が違う、どう違うかといえば、彼は犬のような振る舞いをしている。


「ワン!ワン!」


「何だこいつ」


「この気配は....こいつ、犬神と人間の混血だな。正芳、隠れるぞ」


凜之助は先程購入した木の葉隠れの葉(狸)を正芳に渡すと、自身は(狐)を頭の上に乗せて狐の鳴き真似をする。


「コンコン!」


すると凜之助の身体は滑らかな白煙に包まれ、その姿は跡形もなく消え去った。そして正芳もそれに続いた。


「あ?....ポンポコポン?」


そして正芳の身体も、もくもくと溢れる白煙に包まれると同様に消えるのだった。


「ごほ....ごほ....。見失った。この術、まだうまく使えんな。仕方ない、少尉殿に報告しに行くか」


しばらくして、帝国陸軍司令部庁舎。


先程侵入者二人を取り逃がした兵士が少尉に事の顛末を報告しに来ていた。追いかけた方法や逃げられた時の状況などを事細かに。


「申し訳ありません、霧崎少尉殿。侵入者を取り逃がしてしまいました」


報告を受けた霧崎 与一(きりさき よいち)少尉は、顔色を変えずに口を開いた。


(どうしたものか....。私が馬鹿なのかこいつが大馬鹿なのか分らんが、言っている内容が理解出来ん)


「速見上等兵、今更お前らを咎めることはしない。魔腔が危険であるという噂が広がっているにも拘らず、侵入してくる人間は増加傾向にある。魔腔の奥に行けば違法建築だらけだ」


「それはそうですが....」


「今のところ我々の邪魔をするような動きは見られない。これからも監視や排除活動を頑張るのだぞ」


「はい」


思いのほか怒られることのなかった速見 噛連(はやみ かみつれ)は心の中で胸を撫で下ろした。


「霧崎少尉殿は怒らないのですか」


「知り合いの少尉が魔物との戦闘中に、後ろから飛んできた弾丸に当たって死んだらしくてな」


「そうですか?」


「まあ、どうだ。外の空気を吸うついでに一服でもするか」


「はい」


二人が外に出て敷島という銘柄の煙草に火をつけてふかしていると、唐突に霧崎少尉が十四年式拳銃を抜いて構えた。


「何する気ですか!」


──パン──パン


「うお!」


「嘘だろ!」


霧崎少尉の放った弾丸は、凜之助と正芳の頭の上の木の葉を正確に打ち抜いた。


「私に隠形や奇襲の類は通じんぞ」


(霧崎少尉殿、化け物の類だろ....)


木の葉を撃ち抜かれ、姿が見えるようになってしまった凜之助と正芳は陸軍司令部庁舎の方に向くと、発砲してきた少尉に向かってやけくそで啖呵を切った。


「お前らは何者だ!」


先程の銃声で十数名の兵隊が様子を見に兵舎から出てきた。そして啖呵に応えるように、言い放つ。


「我々は、大日本帝国陸軍第一師団、特別偵察連隊である!」

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