シンデレラの魔女に転生しました
「シンデレラ、早く水を井戸から汲んで来なさい」
「はい、ただいま」
義母に命令されたシンデレラは家から少し離れたところにある、井戸から水を汲む。
「……あら、何だか軽いわね」
両手に持ったバケツがいつもより軽い気がする。水はなみなみ入っているのに。
「重いよりは、良いわよね」
あまり深く考えず、シンデレラはバケツを持って家に帰った。
「よし!今日の一日一善成功ね!」
鳥に化けてシンデレラを木の上から見守っていた私は今日のミッションをクリアし、魔女の家に向かった。
私の名前はイレイア。魔女見習いである。貴族の庶子として生まれ、虐げられた上に森に捨てられたところを紅き魔女様に拾われた。
実は私には前世の記憶がある。前世は日本人でアニメオタクだった。魔女見習いのアニメも大好きでよく見たものだ。ちなみにその魔女見習いが大人になったバージョンも好き!
そんな私が魔法の世界に転生し、魔女に拾われるなんて……。
これは魔女になるしかないでしょう!!
「紅き魔女様、帰りました!」
「お帰り、今日も上手くいったかい?」
「はい、この通り!」
私は見習いの杖を見せる。杖の宝石がキラリと光った。
魔女になるには条件があった。
昔は魔法が使えたら誰でも魔女になれたらしい。ところが、その力を悪用する者が出てきたため、魔女になるのに制限をかけることにしたそうだ。
それが一日一善を百日続けること。魔法の力で良い行いをすれば、ステッキの宝石が少しずつ色づいていく。百日経てば、宝石がまばゆいばかりに光輝く仕組みらしい。
ちなみに魔女見習いと魔女の差は使える魔法の差になる。魔女見習いのうちは攻撃的な魔法は使えない。
そんな魔女見習いの私だが、あと2日程で百日になり、魔女になれる。
「おまえがシンデレラを見守るのも、あと少しだね……」
私がシンデレラの世界に転生したと気付いたのは偶然だった。16歳の誕生日、見習いから魔女へとランクアップするために「半径10キロ以内にいる虐げられた人」と水晶で占ったところ、シンデレラがヒットしたのである。
最初は同姓同名も疑ったが、両親が亡くなり義母と義理の姉2人と暮らしていること、召使いのように虐げられていることなどから、シンデレラかもと思うようになった。そして1週間前、王子の妃を選ぶ舞踏会の招待状がシンデレラに届き、間違いないと確信した。
つまり、私がシンデレラでいう魔法使い!!
そしていよいよ、明日はお城の舞踏会である。
「待ってて、シンデレラ!私が幸せにしてあげる!」
魔女になるためにも明日は勝負の日である。
「イレイアは魔法の扱いは上手いのに、最後の最後でうっかりするところがあるからね……ま、気を抜かないようにね」
魔女様、不吉なことを言わないでください。
とにかく明日頑張るぞ!!
そして舞踏会当日になった。
シンデレラの義母と義理の姉2人はドレスに着替え、馬車でお城に出発していた。もちろんシンデレラは置き去りである。
シンデレラは屋根裏部屋で一人悲しく泣いていた。
「私も舞踏会に行きたかったのに……」
そこに現れたのは1人の魔女見習い!もちろん私である。
「泣かないで、シンデレラ。私が舞踏会へ連れて行ってあげるわ」
「本当?でも、こんな服では行けないわ」
私が杖を一振りすると、シンデレラの服は光輝くドレスにかわる。
「後は……シンデレラ、台所からカボチャを持ってきて」
シンデレラが持って来たカボチャにも魔法をかけ、馬車が完成する。
「それから……」
本当はネズミで作るんだけど、私はネズミが苦手である。
「必要な物を魔法で出してあげる!」
魔法は得意だからいけるでしょう!!
私は、白馬2頭、御者1人を魔法で作り上げた。
「ラスト!このガラスの靴を履いていって!」
そして私は最後にシンデレラに忠告する。
「夜中の12時を過ぎると、馬車もドレスも魔法が解けて元の姿に戻ってしまうから、必ず12時までには戻ってきてね」
「わかりました。必ず12時までに戻ってきます」
シンデレラはそう約束して、大喜びで舞踏会へ出かけて行った。
よし、杖も光ってる!後は念の為ついて行って、王子との出会いを見届けないと!
私は箒に飛び乗るとシンデレラの後を追いかけた。
さて、舞踏会に着いたシンデレラは、その美しさからたちまち注目の的となる。そしてその美しさに惹かれた王子もシンデレラを踊りに誘い出した。
「これこれ、これが見たかったの」
2人が広間の真ん中でゆっくりと踊る。
そこだけ、スポットライトがあたっているかのように、皆がうっとりと2人を見つめていた。
もちろん私も。やっぱり生で見ると違う!
王子まつ毛長!
身長も高くてガタイもそこそこ良さそう。金髪に碧眼もお約束で良い!うーん、目の保養ね!
生王子見れたし満足、満足。
後は仕上げだけね!
踊り終わった2人は、そのままバルコニーに出る。バルコニーは外の大階段とつながっていた。
「……待ってくれ!」
「もう帰らないと……」
「まだ、話が……」
「……失礼します」
王子はシンデレラを引きとめるが、シンデレラはそれを振り切り階段を駆け下りる。
「……あっ」
途中転びそうになり、靴が片方転げ落ちる。シンデレラはそれを気にしながらも、そのまま走って夜の帳に消えた。
王子は残された一足のガラスの靴を拾った。
良し!ストーリー通り!私はそのままシンデレラの家へ箒で向かい窓越しにシンデレラを眺める。
家に帰ったシンデレラはもとの服に戻っていた。ただし、手には一足のガラスの靴が握られている。
完☆璧
私はそのままターンすると、魔女の家に戻った。
次の日、街では王子の花嫁探しの話で持ちきりだった。
「ガラスの靴がぴったり合う女性を自分の妻にするらしい」との話で、王子の侍従がガラスの靴を持ち、次々と家を周り女性に試してもらうが、なかなか、ピッタリ合う人は見つからなかった。
そして、いよいよ侍従がシンデレラの家にやって来る。
その段階で私も透明化の魔法を使い、シンデレラの家に入っていた。
まずは一番上の義姉が試してみるが、靴が大き過ぎてガバガバである。
次に二番目の義姉が試してみるが、今度は足が大きすぎて入らない。
そこへシンデレラが現れる。
「侍従様お探しの靴はこれではないでしょうか」
シンデレラは侍従が持つガラスの靴の片割れを履いているのを見せた。
侍従は目を丸くして城へ伝令を出す。
「王子様にお探しの女性が見つかったとお伝えください」
その間、キーキー叫んでいた義母と義理の姉2人の口を閉じる魔法を使っておいた。
私、良い仕事してる!
バーン
ドアが開いて、王子が現れた。
「……見つかったのか?」
「はい!」
王子がゆっくりとシンデレラに近づく。
さぁ最後の最後の仕上げである。
私は姿を現すと、シンデレラに話かけた。
「さあ、シンデレラ幸せになってね」
そして、魔法をかける直前。王子に腕をつかまれた。
「見つけた!」
そして王子はあろうことか私のオデコにキスをした。
額が熱を帯びる。
ガラスに映る自分を見ると額に華の印がついていた。
「間違いない華印の花嫁だ」
えっ?
どういうこと?
「魔女様、何で出てきたんですか!何とかこの粘着質な王子を振り切ろうと思ったのに……」
シンデレラがボソリと呟く。
えっ、えっ?
「訳が分からんという顔をしているな。魔力の相性が良い者は互いに惹かれ合う。その相性がバッチリの者には互いの額に華印が浮かび上がるんだ。先程俺の魔力をおまえに渡したからな」
「魔女様すみません。昨日の段階でこの王子にしつこくこのドレスを作ったヤツを教えろと言われ……なんとなく嫌な予感がしてたんです。魔女様にはいつも助けてもらってたから、恩返しをと思って私が囮になろうとしたのですが……」
え――!!シンデレラ気付いてたの?
「ドレスの魔力に惹かれてな。俺の華印の花嫁に間違いないと確信してたんだ」
「いやいやいや、ちょっと待って。シンデレラが幸せにならないと。王子様好きでしょ?」
「いいえ、昨日会ったばかりですし。何とも……むしろマイナスです」
「じゃあ、何で舞踏会行きたがったの?」
「それは、ドレスを見るためです!私、デザイナーになりたいんです」
まさかのドレスのため。どうしよう?カオスである。
「私は魔女見習いです!だから魔女になりたいんです!シンデレラの願いをあと一つ叶えたら魔女になれるのに……」
何だかつらくなってきてポロリと涙がこぼれた。
「泣くな。王子妃が魔女でも別に問題ない」
王子が私の涙を拭い甘くささやく。
いやいやいや。王子妃になるのは決定ですか?
「まだ、王子のこともよく知らないし……」
「なんだ、そんなことか。心配するな、すぐに夢中にさせてやる」
俺様!?でも確かに顔と体はタイプ……。
「魔女様、こんな王子に騙されてはいけません。そうだ、最後の願いですが私を魔女様の専属デザイナーにしてください。王子の魔の手から魔女様を守ってみせます」
「何をいうか、こんな女の言うことは聞かなくて良い。さ、城へ参ろう魔女よ」
「何を言ってるんですか!本人の意思を無視して連れ出すのは犯罪です。聞かなくて良いですよ魔女様!」
「私は魔女見習いです!それに名前はイレイアです!」
どうなる?
このシンデレラ。……シンデレラ?




