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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

まおうとゆうしゃ

作者: 柴野 沙希


「魔王よ、僕らは世界を救ったんだ」

「そうだ、貴様は我らを滅ぼした!」



//////////////////////////////////



 魔王は逃げた。人の領地に向かえば向かう程、美しくなる景色が憎くて仕方なかった。魔族の地は、比にならない程美しかったのに。全部焼かれてしまった、壊されてしまった。トレントの住む森も、コボルト走る草原も、ゴーレムが動く遺跡も、全て荒らされてしまった。

 景色を見る度に涙が止まらない、なんで、なんでと動けなくなる。誰も背中を叩いたり、抱き締めてくれなくて余計涙が止まらなくなってしまう。その時、知らない女の人が魔王を抱きしめ「世界は平和になったのよ、だから泣く必要は無いわ」なんて、言われ、ぐちゃぐちゃになって、声を上げて泣いた。


 魔王の頭の中で、王城が燃えている。一人逃げたあの日が、まだ煌々と燃えていた。


 魔族を滅ぼした勇者は、昔、初めて入った魔族の村へと向かった。名も無き村、確か小麦が名産だったか。綺麗な水、暖かい魔族の方々、久しぶりに逢えたらいいな、なんて。

 村は廃墟に、川は濁っていた。畑には雑草が繁茂し、崩れた家屋だけが村があったことを伝えている。なぜ誰もいない?そうして気がついた。そうか、俺が滅ぼしたのか。何かに、気づき始めてしまった。


 勇者は最後の魔族を倒した日、何も起こらなかった事に驚いた。今、魔族は滅びたのか。と


 そういえば、あの秘境や遺跡も行ってなかった。勇者は入りそびれたダンジョン達を攻略しなければ、と少なくなった休みを潰してでも、また魔王領へと向かった。道中、こんなにも暗かっただろうか?と勇者は思う。青い空、遠くには銀嶺、近くにはコボルトやゴブリンが呑気に昼寝をしている。記憶はそう言っていたが、暗い空、遠くには土砂崩れを起こしている山脈、近くに生命の気配は無い。

 ダンジョンは跡地になっていた。しかも全てがそうなっていた。森は焼かれ、遺跡は爆破され、洞窟には毒ガスの警告があった。聞けば、解放した地域は軍が一通りひっくり返したらしい。背中が震えた。何かが、近づいている。


 勇者は、殺した魔族が剥製にされているのを見た瞬間、命を実感してしまった。


 魔王城を見に行った。あれだけの威容を誇った黒の城は、遺跡になっていた。壁は崩れ、塔は折れ、道は瓦礫に埋め尽くされている。中はもっと酷かった、調度品も何も残っていない。聞けば、終戦後すぐに国同士で取り合いになったそうで、そこかしこに黒く乾いた液体の跡が残っていた。 

 広間に出た、矢が飛んでこない、槍が出てこない。三倍もあろう威容の将軍が斬りかかってくる訳でもない。玉座は、四角の跡を残して消えていた。曰く、玉座はギロチン台として改造するらしい。

 足元に何かが当たった。拾うと、金のリングであった、略奪を逃れたらしい。勇者がそれをまじまじと見ると、リングの内側に名前と日付が刻印してあった。勇者はそれを見て立ち尽くしたと共に、やがてそれを抱えて泣き崩れた。


 なんとなく敵を滅ぼす、真面目に考えれば気が狂ってしまうだろう。


王都に来た。憎き人間の都市。ざわめきを聞く度に涙が出そうになる、市場の活気も、衛兵の歩く音も、宿屋のいい匂いも、遠くの白亜の城も。全部あったのに。

 侍女のフラーが、いっつも市場で取れたて新鮮の物を買ってきて、日替わりで出してくれた。衛兵たちは私が見に行くと、無理に起きようとして足を抓っていた。それを笑うと、恥ずかしそうにしていたが、自慢の兵士たちだった。大きな宿屋があった、女将のシチューが美味しくて、たまに抜け出して食べに行った。フラーが機嫌を悪くしてしまうから、たまにだったけど。

 真っ黒の城があった。みんなであーでもないこーでもないっていいながら作って、出来た時には盛大に祝ったっけな。炊事場も大きくしたし、玉座は黒曜石で造らせて、でもお尻が痛くてちょっと苦手だったかな。何もかも、無くなった。風の噂で、玉座がギロチン台になったと聞いた。それを聞いて、泣き叫んでしまった。なんでそんなに酷いことができるんだ!って。弱い魔王でごめんね。勝てなくて、ごめんなさい……。



/////////////////////////////////



一人、残されてしまった。

一人も残せなかった。

みんなを守りたくて。

みんなに突き動かされて。

勝てなかった。

勝ってしまった。

何も残っていない。

全て、奪ってしまった。

何のために生きればいい?

どうやって償えばいい?

生きる理由だったものは、もう無いのに。

戦う理由を、全部消してしまった。

なんで生きてる。

どうして死んでない。

どこかで勝てていれば、違ったのに。

どこかで負けていれば、よかったのに。

全部奪われて、一人になって。

全て奪って、全部殺して。

何をやってるんだろうな、私。

何をやってしまったんだ、俺は。

気づいていても、守れなかった。

気づかないまま、滅ぼしてしまった。

私は弱い。

俺は強過ぎた。

後悔が募る。

後悔が襲いかかる。

守れなくてごめん。

奪ってごめん。

生かしてあげられなくてごめん。

殺してごめん。

私一人で生きるぐらいなら

俺一人で贖罪する為には


───────もう、殺してくれ



/////////////////////




「すまない」

「……は?」

「僕らは間違っていた」

「貴様!!どこまで我を馬鹿にするのだ!」

「違う……人はこんなにも……」

「醜いからダメだと!?今更我に同調して何になる!!我らは滅びた!一億の同胞を戮して何を言う!!」

「すまなかった……」

「謝るな!!戻ってこない!何もかも!」

「本当にすまないことをした……」

「川は汚され!都市は壊され!民は戮され!土地は焼かれた!!!なのに!なんで!お前は!!」

「………」

「黙るな!……黙るなよ……。みんな死んだ、世話係のボワルも、侍女のフラーも、側近のボルゴラも……。みな埋めた、汚れた地に埋めるしか無かった!この無念を知らんとは言わせんぞ!」

「だから……すまない……」

「すまないすまない!だからなんだ!言うなら戻せよ!返してよ!」

「ごめん……」

「知らないなら殺さないでよ!奪わないでよ!なんでそんな残酷になれるんだ!!」

「知らなかったんだ……正しいと……」

「知らなくても!命を目の前にして、何も感じなかったのかよ!!あんなに必死に生きてたのに!!生きてたのに!!!!」

「………」

「………もういい。お前を殺しても、何も帰ってこないし、気も晴れなくなった。勇者、お前の勝ちだ。よかったな」

「そんなこと……殺してくれたっていい……」

「なら、何も言わずに敵でいればよかったんだ。私が、そうしたように」

「あ……」

「もう二度と、姿は現さない。魔族はこれでいなくなる」



「おめでとう。人の英雄、お前は我らを滅ぼした」


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