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大学三年生の星野は、私の話を真面目に聞き入れてくれる唯一の存在だった。彼女は幼少期に適当に呟いた言葉の羅列が宇宙人を呼び出す暗号だと気が付かず、それを言ってしまい、UFOを召喚したらしい。そのまま、連れていかれそうになったところを必死に抵抗した為、今この場にいるそうだ。「抵抗しなければよかったよ。宇宙船の中がどんなものか、見てみたかったなぁ」と幾度となく呟く星野は、どこか遠い目をした。
私は流れるように「UFOを呼ぶ会」に入った。会のみんなは、想像していたより普通の人たちだった。癖が強いのは星野ぐらいで、あとは興味本位で居るもの、UFO自体が好きなもの、オカルトが好きなものと様々である。
私は、溶けるようにそこに馴染んでいった。私はミキのことを詳しく説明しなかったが、周りはあまり深く聞いてこなかった。星野も私の話を言いふらさなかった。ここでは、他者が経験した不思議な現象を面白おかしく揶揄ったり、否定したりしない暗黙のルールがあるらしい。
主な活動は、会の名前通り、UFOを呼び寄せる儀式を行うことに特化している。一人の生贄を床に寝そべらせ、その周りを人々が囲む。星野が幼少期にUFOを呼び出したという呪文を唱え、天に祈るのだ。
側から見たら、馬鹿ばかしい光景だ。けれど、私は知っている。UFOは本当に存在するし、こうすれば呼び寄せることができるということを。
あの日のミキを思い出し、私は星野にレクチャーをした。形のいい石を七つ集め、等間隔に並べたらいい、と。彼女はその意見を否定せず、スムーズに受け入れた。「そういやあの日の私も、ビー玉を並べて遊んでいた気がする」と思い出したように笑った。きっと、彼女の行動は無意識にUFOを呼び寄せていたのだろう。
そうやって悪戦苦闘して、ようやく完成形に近い召喚の形ができた。
しかし────。
「……呪文が、なんか、違う気がするんだよな」
ミキが消えた場所。空き家の裏。私はミステリーサークルがあった地面を眺める。すでに不気味な絵柄は消え、雑草が生い茂るそこは、まるであんな出来事はなかったかのようにひっそりと存在している。振り返ると、ミキが住んでいたと豪語していた空き家があった。息を漏らしながら、腕を組む。両手に抱えた七つの石を等間隔に置き、その真ん中に座ってみた。
「大体は、あってる気がする……でも、何かが足りない……」
あの日を思い出してみる。ミキはよくわからない言葉の羅列をしていた。重要性がないと聞き流していた過去の自分を後悔しつつ、空を見上げる。薄暗くなった紺色に、控えめに輝く光がポツポツと散りばめられていた。
「……ミキ」
私は彼女に会いたいあまり、ここ数年はずっと宇宙人やUFOについて考え続けた。頭から離れないそれは、もう恋に近い。どうすればもう一度彼女に再会できるのか。そのことばかりが私を支配する。
グゥ。不意に腹が鳴った。手のひらで摩りながら「お腹すいたぁ」とひとりごちる。
「……ん?」
私は閉じかけていた目を開ける。古びた記憶が、何故か徐々に、じわじわと色を取り戻していく。「あれ、あれ。あれ、あれ、あれ?」。私は立ち上がり、その場で足踏みをした。「あれれ?」。顎に手を当て、頭を回転させる。
「あの日……」
何かを聞いて私は「なんか美味しそうな組み合わせだな」と思った。そう、思ったのだ。その美味しそうな組み合わせがなんだったのか、頭をフル回転させる。
グゥ。再び腹が鳴った。
「エビマヨ、サーモン……」
パッと顔を上げる。私は両手を天に翳し、声を荒げた。
「ニョッキニャッキクジラクワガタ、セイチョウホルモンバンジキュウス、ダンジョジョキュウアイコウドウ、キョウリュウサクランボミドリムシ、シロモコロコムラサキモロヘイヤ、エックスエックスエックスエッグスドッグス、ワダカマリカマキリサインカイ、サンゾクサンゾクカラメルソース、オニギリニギニギ────エビマヨサーモン!」
周囲を眩い光が覆う。私は反射的に後ろに尻餅をついた。「いてっ」と嘆きながらその場に倒れた私は、目を開ける。