7、魔法剣
7、魔法剣
男の子の両親が帰った後、私は早速明日ダンジョンに向かおうとイブリースに言っていた。するとイブリースは私の胴にベルトのような物を巻く。
・・・おいおい、まさかこれ、ジリスを“部屋んぽ“させる時に使うリードじゃないよね 私を縛り付けようとしたら命はないと思いなさいよ ・・・
私が憤慨して言うと、イブリースは違いますよと慌てて否定していた。そして、付け加える。
「前から言おうと思っていたのですが、キノコさんの言動はパワハラ過ぎです これでは配下の者はいずれ皆、去ってしまいますよ 」
ガーンと私は激しくショックを受けていた。今までパワハラを受ける側だったのに、パワハラをする側になってしまっていたのだ。自分では、そんなつもりはなかったのに偉くなったと勘違いして、きつい言葉を使っていたようだ。
・・・いけない、いけない 力や権力を背景に威張りちらす 私の一番嫌いな人間に、自分もなるところだった 相手の気持ちを分かってあげなければ人間ではないよ 相手に指摘されて、それを嘘八百なんて言う奴は、もう人間辞めた方が良い、その上その指摘した人に懲罰なんか与える奴は、私には人間に思えない 指摘されると云うことは、相手にはそう感じられるという事だ それが分からない馬鹿は世の中に必要ないよ さっさと消えて貰いたい ・・・
私は、ごめんなさいとイブリースに頭を下げ謝っていた。イブリースは自分でパワハラと言っておきながら別に気にした様子もなく、私の体にベルトを巻き終えた。
「これは、剣のホルダーですよ キノコさんに合う既成の剣のホルダーはありませんので、ご指摘の通り部屋んぽのリードを改良しました そして、これが剣です 」
イブリースが私に渡してきた剣は立派な聖剣とかではなく、どうみても人間が使う爪楊枝だ。こいつ私を馬鹿にしているのかと、また怒りに火が点きそうだったが、なんとか堪えていた。
・・・うむ、私も成長したのだ これくらいで怒っては駄目なのだ ・・・
私は爪楊枝の剣をビュンビュン振り回すが、これなんか意味があるのかと思わずにはいられない。こんな爪楊枝で攻撃するなら、自分の鋭い爪で攻撃した方が遥かにダメージを与えられる気がする。すると、イブリースが説明を始めた。
「キノコさんが魔法を使ってしまってはとんでもない事になってしまいます 下手すると、この惑星ごと消滅する危険があります ですので、この剣を使って下さい 直接魔法を使うより間接的な攻撃になり威力がセーブされますので、比較的安全に使用できると思います 」
・・・魔法より威力が落ちるって、これただの爪楊枝じゃない? ・・・
私が、意味がわからないと言うとイブリースは詳しく説明してくれた。
「キノコさんの魔力をエンチャントするんですよ キノコさんがイメージした魔力がそのまま、この爪楊枝に宿ります そして、後は爪楊枝を振るだけです 高レベルの魔法使いは物体に魔力をエンチャントする事が出来ますので 」
・・・ふうーん、そうなんだ エンチャントって付与する事だよね ・・・
私は試してみたくなり部屋の中央に立つと、スラリと爪楊枝の剣を抜いてイメージを剣に伝える。
・・・まず”炎”だ 私の一番好きな魔法だもん ・・・
剣が赤く輝きだすが、イブリースは慌ててこんなところで発動しては駄目ですと叫んでいた。が、それはもう遅かった。私の剣から巨大な火柱がゴウッと上がり、それは宿屋の天井や屋根を突き破り、遥か空の上まで噴き上がっていた。
・・・うぴぃぃっ どうしよう、これ不味いよぅ 怒られちゃうよぅ ・・・
私は天井と屋根が無くなり星空が見えている部屋の中央でガタガタ震えていた。そこへ宿屋の御主人が何事かとやって来て、星空が綺麗に見える部屋を見て卒倒していた。
* * *
私たちは宿屋の御主人に土下座して謝り、修繕費は分割で支払う事で納得して貰った。
・・・ごめんなさい まさか、こんな事になるなんて ・・・
私はしょんぼりと項垂れていた。イブリースは私をナデナデしながら、仕方ないですね力の加減を覚えていきましょうと腰のポーチから赤い魔石を取り出していた。
「これは”赤竜の瞳”と云われる魔石です これを使用すれば上位の火属性魔法が誰でも発動出来ます 希少な魔石という事で人間界では非常に高価で取り引きされているようです これを売ってお金を作りましょう 」
イブリースは軽く言うが、私は反対した。だってこれは私がやった事だ。私が弁償しなくてはいけない。
・・・明日、ダンジョンに行く前に冒険者組合に行って、お金になりそうなクエストを受注しよう とにかく稼ぎまくらないと…… ・・・
私は固く決意してイブリースに、だからそんな希少な魔石を売る必要はないよと伝えた。
「いや、人間界では希少ですが、これは僕が造ったダンジョン内でゴロゴロ採れる石なので一つや二つ何でもないですけど まあ人間には採取するのが難しいですからね ダンジョン内には、高レベルのモンスターがうようよいますからね お宝目当てで侵入した人間の恐怖と絶望がたまりませんよ ふふふ 」
イブリースは楽しそうに笑う。私は改めて彼は間違いなく悪魔なのだと認識していた。いつか、彼を滅ぼさなければならない日がくるのだろうか。私は、その日を思うと少し憂鬱になっていた。