6、ゴモラの街
6、ゴモラの街
私はイブリースに買ってきて貰った回し車を爆走していた。
・・・楽しいぃ、回し車ってこんなに楽しいんだ ・・・
私は、回し車をクルクル回し御満悦だった。
・・・それにしても、この街の名前が”ゴモラ”とはね 私のいた世界では神に滅ぼされた街、罪悪の街って云われているけど、この街もそれと何か関係あるのかな もう名前だけで滅亡のフラグが立っている気がするよ ・・・
私は回し車を回しながら、ない頭で色々考えていた時、お腹がぐぅと鳴った。
・・・イブリース、私のご飯を買って来なさい チモシーという最高級の牧草です 間違えてはいけませんよ ・・・
私はイブリースに命令すると、お腹が鳴っている事を気付かれないように、また回し車を回し始めた。彼は素直にベッドから腰を上げると部屋を出ていった。
・・・なかなか従順で良いじゃないの でも、厳しいばかりじゃ駄目だよね たまには優しく嬉しい事もしてあげないと 好物の物をあげたりするのも良いかな でも、悪魔の好物ってなんだろう ・・・
悪魔は人の恐怖というのが一番の御馳走だと聞いた事があるけど、人類を侵略者って言ってたよ。だから、人類は最初から存在していた訳ではないんだ。人類が出現する前には何を食べていたんだろう。私は回し車の中央で立ち上がり、うーんと考え込んでいた。しかし、考え込んでも私の頭では埒が明かない。頭で考えても駄目な時は行動あるのみだ。それとなくイブリースに訊いてみよう。私はしばらくして戻ってきたイブリースから牧草を受けとると、まず自分のお腹を満足させる事にした。
・・・このチモシー、美味しいね ・・・
私が満足して言うと、イブリースはノンノンと指を振る。
「これはチモシーではありません キノコさんには申し訳ないですが、この世界にはチモシーなる牧草はないそうです 代わりにこの”チモチー”という牧草が流通しているそうですよ キノコさんが気に入ってくれて何よりです 」
私は心にロックをかけぼやいていた。
・・・いや、これ同じ牧草だよ これを私の元の世界ではチモシーと言うのだ この世界は呼び名とか少し変わっているみたいだけど、他にも変わっている事があるのかも ・・・
そう思ったがせっかくイブリースが探して来てくれたのだ。チモシーでもチモチーでも、別に良いや。私は満腹になるまでチモチーを頬張っていた。
・・・ふぅ、食べた、食べた ・・・
お腹を満たした私はイブリースの肩にちょこんと乗っていた。この高さで周りを見ると人間の視線に戻ったようで何か懐かしく嬉しい。私がきょろきょろと部屋の中を見回していると、トントンとドアをノックする音が聞こえた。
・・・誰だろう? この世界に私の知り合いなんていないし 悪魔のイブリースの知り合い? まさか悪魔が訪ねてきたの ・・・
私は首を傾げていたが、イブリースはそんな事何も思わないのかカチャッとドアを開けていた。そこには、憔悴した様子の年配の男女が立っていた。
・・・誰だっけ? どこかで見た記憶があるけど…… ・・・
イブリースの肩で男女二人を見ていると、男の方が頭を下げる。
「先程は取り乱して失礼しました 息子を運んでくださったのにお礼も言わず、お名前も訊かずお詫びのしようもありません 幸いリスを連れた冒険者の方が、この宿に入るのを見たという友人がおりましたので、こうしてお詫びにあがりました 」
「息子がお世話になりました 」
女の方も頭を下げる。
・・・そうか、あの男の子の両親か 子供を失ったんだ取り乱して当然だよ 私の方こそ助けられなくてごめんなさい ・・・
私も辛い気持ちになっていた。
「ああ、礼には及びませんよ 地面に転がっていたので、汚くて邪魔だったから運んだまでです だって、腐ったらもっと汚くなるでしょう その場で他のゴミと一緒に燃やしても良かったですけどね 」
イブリースの言葉に両親は口をあんぐりと開けて固まっていた。
・・・この大馬鹿者ぉぉっ、なんて事言うんだよ もうお前、口きくな 私の言う通り喋れ いいか、絶対だよ 一字一句間違えないように 間違ったら殺す ・・・
私がイブリースの頬を殴ると、彼は私の剣幕に驚いてヒッと小さく声を上げて震えていた。
「も、申し訳ありません 僕も死体を見たのは初めてで取り乱していました 近くの怪物の死体が脳裏に残っていて、僕の頭の中でごちゃごちゃになっていたようです この度の不幸は本当にお辛い事と思います 心からお悔やみ申し上げます 」
男の子の両親は顔を見合わせていたが、改めてイブリースに礼を言い、実はと続ける。
「うちの息子を連れ出したカレンという女の子がショックで何も食べなくなって声も出せなくなってしまったのです おそらく自分一人だけ助かって責任を感じてしまっているのでしょう うちの息子は、その子を妹のように可愛がっていました だから、カレンが助かった事は喜んでいると思います それなのにカレンがそんな状態ではきっと天国で悲しんでいるでしょう そこで冒険者の方に状態異常を回復できる”白竜の雫”というアイテムの確保をお願いしたのですが、払える賃金とそのアイテムが眠るといわれるダンジョンが危険なのでみんな断られてしまいまして藁にもすがる思いでここに来たのです 」
・・・ふぅーん、そんなアイテムがあるのか ・・・
不謹慎な事に私は、面白そうとワクワクしていた。私はイブリースの頬を黒く長い爪でチョンチョンとつついた。
「分かりました ダンジョンからアイテムを取ってくれば良いのですね あぁ、別にお金は払えるだけで良いですよ 」
イブリースは私の気持ちを代弁する。両親はお礼を言いイブリースの手を握ってきた。
「それで何処のダンジョンにあるのですか 」
両親は顔を見合わせると小さな声で言った。
「魔王ナアマの居城の近くに口を開けている”灼熱の迷宮”です 」
・・・魔王の城の近く…… そりゃ普通の冒険者は断るよね でも私は最強の魔法使いなのだ それに、あの女の子を助ける為には私も協力しないと 女の子を守って死んだ男の子に会わせる顔がないよ ・・・
私はイブリースの肩の上で鼻息を荒くしていた。