32、ヴァイオレット王
32、ヴァイオレット王
全力のナアマが焔の剣レーヴァテインで十戒を斬り裂く。ナアマの剣と十戒が衝突した瞬間、凄まじい閃光と衝撃が周囲を襲った。
私はイブリースのローブの中で様子を見ていたけれど、目の前が真っ白になってナアマもシモンも見えなくなっていた。イブリースはさすが魔王だけあって、この衝撃の中でも微動だにせず立っている。私は他の仲間が心配でキョロキョロと周囲を確認した。ランスロットとトリスタンはアリスを庇って衝撃に耐えているが、その足は地面にめり込んでいた。ヴァンパイアレディーは命令通りシャーロットを守り、自分が全ての衝撃を受けている。しかし、さすが上位の魔物だけあり、まだ余裕に見えた。一番心配なのはナガトたちだったが、ナガトは右手からロープを飛ばし太い柱に巻き付け飛ばされるのを防いでいた。そして、左手でクレアの手をしっかりと握っている。クレアは体が宙に浮きながらもナガトの手を放さずに耐えていた。
・・・うんうん、さすが私の仲間たちだよ ・・・
私は鼻が高かったが、ナアマは……。シモンは助かったの……。しばらくして、ようやく目が慣れて周りの様子が見えてくると、ナアマがシモンの前に膝をつき肩で息している。シモンを四方から拘束していた鎖は断ち切られていた。
「ピイィィィーッ 」
シモンは助かったんだ。さすがナアマだよ。私はイブリースのローブから飛び出してナアマに駆け寄っていた。
・・・ナアマ、凄いよ ありがとう、これでシモンは助かったんだね ・・・
「いや、まだだ この十戒という魔法、私の全力でも断ち切れん 」
そのナアマの言葉を証明するかのように、私たちの頭の中に声が響いてきた。
「汝、姦淫するなかれ 」
「ごっぱあぁぁぁっ 」
シモンは大量に口から血を吐き出していた。これは、どこか内臓系が壊されたの。私は、剣に回復のイメージをエンチャントして、シモンを回復させようとしたが、その回復魔法はシモンに届かず弾き返されていた。
「ピギッ 」
私はショックで撥ね飛ばされていたが、ナアマが私を受け止めてくれていた。
「心配するな、キノコ 一度では無理でも、この十戒とかいう魔法が砕け散るまで何度でも私が斬り裂いてやる 」
・・・そうか確かにナアマの斬撃でシモンを縛っていた鎖は消滅しているんだ それを繰り返せば、この魔法を砕けるよ ・・・
私は改めてナアマを見直していた。ナアマの体が、また炎に包まれていく。焔の剣レーヴァテインも、また輝き始めていた。
・・・だけど、それまでナアマの体や体力がもつの ・・・
私はナアマの体を思うと心配になっていた。その時、イブリースの叫び声が聞こえた。
「人がやって来ます ナアマ、早く人の姿にっ 」
力を溜めていたナアマは瞬時にそれを解除して、魔法剣士アシャの姿になっていた。すると、一人の女性が軍隊を引き連れてやって来た。
「巨大な力を感じたので、魔物が現れたのかと軍隊を連れてきたのですが これは何事です、ランスロット 」
「これは、ヴァイオレット王 お手を煩わせて申し訳ありません 実はシモンが王への報告を怠った件で責任を感じておりまして、自らを滅ぼす魔法を使用してしまったのです それで、それを止める為に皆で知恵を出しあっていたのですが、上手くいきません 」
ランスロットたちはヴァイオレットの前で膝をつき頭を下げて説明していた。私たちも、それに倣って頭を下げていたけど、私は驚いていた。私のイメージする王様というのは、恰幅のいい、どうちらかというと少し小太りの初老の男性で髭を生やしているという感じだ。それが、このヴァイオレットは、まだ若く引き締まった体の女性だったからだ。そのヴァイオレットは、シモンに目を向ける。
「シモンが…… 」
ヴァイオレットは手足の骨が砕け血を吐いているシモンの姿を見て絶句する。
「シモン、確かにあなたの犯した罪は重罪だ だがしかし私はまだシモンに側にいて欲しいと考えている 誰か、シモンを救える者はおらぬのか 」
ヴァイオレットの言葉で一人の魔導士らしき人物が名乗り出てきた。
「王、私の魔力でシモンの使った魔法を相殺して消して見せましょう 」
自信たっぷりに言う男に向かってアリスが冷たく言い放つ。
「失礼ですが、ヴァイオレット王 レイブン殿では力不足であると思われます 」
「ホントに失礼ですぞ、アリス殿 あなたの魔法は攻撃に特化しておるが、私の魔法は状態異常の回復に特化しておる 今、シモン殿を救えるのは私以外おりませんぞ 」
レイブンと呼ばれた男はアリスを睨みつけると、シモンの前に立ち呪文を唱え始める。すると、レイブンの前に白い巨大な球体が出来てきた。私は、多少期待していたけれど、アリスは全く期待していないようだった。まあ、ナアマの全力の一撃でも砕けなかった十戒だもんね。このレイブンの魔法で消せるとは思えないか。それでも、この男の自信に賭けてみようよ、アリス。レイブンの造り出した球体には、それなりの力を感じるよ。
「ぬっ 」
レイブンが小さく声を上げる。
「汝、偶像を敬うなかれ 」
シモンの体が人形の様に捻れていく。バキバキと骨が砕け散る音が聞こえてくる。私はイブリースに耳打ちしていた。もう一刻も猶予はないよ。レイブンがダメならすぐに私がいく。ナアマのおかげでヒントを貰えた。そう十戒は、それ以上の魔力をぶつければ消す事が出来るんだ。私は、発動したら止められないという言葉に捕らわれていた。前に私が言ったじゃない。世の中に”絶対”なんてないと……。今回は、ナアマに教えられたよ。私は、すぐに対応出来るように力を貯めていた。そして、レイブンも力を解放する。
「なるほど、これが十戒 だが私も魔導士レイブンとして知られた存在 私の魔力を受けてみろっ 」
レイブンは造り出した白い球体をシモンにぶつけていた。
パキーーーーン
なにかが割れる音がして凄まじい衝撃が周囲を襲っていた。
「うおおおぉぉぉっ!! 」
ランスロットたちはヴァイオレットを、その衝撃から守っていた。ヴァイオレットが連れてきた軍隊は、その突然の衝撃で大半が倒され飛ばされている。もちろん、この衝撃を一度経験している私の仲間たちは大丈夫だよ。誰一人、油断なんかしていない。そして、衝撃波が去った後にはレイブンが倒れていた。
「ピイィィィーーーッ!! 」
私は飛び出していた。そして、イブリースは私の指示通り、すぐにレイブンに駆け寄り回復させる。私の魔力を全て使ってもシモンを助けるよ。私はシモンの前に立ち、爪楊枝の剣に魔力を集中していったその時、私の黒い瞳が、燃えるような深紅に変わっていたと後で聞いた。




