30、カインとアベル
30、カインとアベル
シャーロットを襲撃から守り、襲ってきた転生者の男も撃退した。まったく忙しいけれど、少しくらい忙しい方が気が張っていて良いんだよね。その方が失敗が少ない気がするよ。私たちはシャーロットを連れて門の所まで戻ってきた。そこで、ランスロットたちは門兵に子供たちの処置について指示を出した後、私たちは今度はすんなり首都シン・イーハトーブに入る事が出来た。
「これから、いじめの首謀者であるカインの家に行くが、シャーロットはどうする? 待っていた方が良くないか 」
ランスロットはシャーロットに尋ねるが、シャーロットは自分の守護者であると思っているヴァンパイアレディーにくっついて離れようとしない。そう、ヴァンパイアレディーはまだいたんだよ。といっても、そのままの姿でいたら大変なので人間の姿に擬態しているけれど……。それにしてもだよ。ナアマといい、ヴァンパイアレディーといい、どうして人間の姿になると、こんなに美形になるんだよ。私の心の中では嫉妬の炎がメラメラと燃えていたが、そこは大人の社会人である。そんな気持ちはおくびにも出さず歩いていた。
「無理に来なくても良いからね もうはっきりと現場も確認したし、私たちがそんな事二度と出来ないようにするから 」
アリスが優しくシャーロットに言うと、シャーロットは私も行きますと答えていた。これは、たぶん私たちと離れるのが怖いんだよ。可哀想にシャーロット。この人たちなら自分を守ってくれると思っているんだ。今まで独りぼっちで耐えていたなんて、本当にみんな何やってたんだよ。私が怒りでプンプンしていると、シモンが”ひっ”と小さく声をあげて縮こまっていた。
・・・いや、別にシモンたちに怒っているわけじゃないから ・・・
私は、そう思ったけどシモンはやけにビクビクしているように見える。どうしたんだろうと思いながら私は、ランスロットに”いじめ”の首謀者の家について訊いていた。
・・・ねえねえ、いじめの首謀者の家ってどんな感じなの ・・・
私がナアマに頼んでランスロットに訊いて貰うと、フィッシュバーガー家は資産家で国にとっては有難い家なのですがと答えていた。
・・・なに、その美味しそうな名前の家 そういえばこの世界に来てからハンバーガーなんて食べてないから食べたくなったよ ・・・
私はいじめとまるで関係ない事を考えていた。シャーロット、ごめんなさい。それにしても、裕福な家が暮らしが苦しい家の人をいじめるってなに?普通は助けてあげるものでしょう。仕事だってみんな得手不得手がある。そういう時は協力してサポートし合うのが普通だ。シャーロットにだって他の人にはない得意なものが必ずあるんだよ。私は、そう思うとシャーロットをいじめていた子供たちに、もっと土をかけてきてやれば良かったと思っていた。そして、フィッシュバーガー家に到着すると当主のガストンが出迎えてくれた。
「使用人たちは遠ざけてあります 今、いるのは私と息子のアベルだけ それで、カインはやはり…… 」
そこで、シャーロットの姿に気づいたガストンはシャーロットに目を向ける。
「シャーロット、カインは本当に…… 」
ヴァンパイアレディーにしがみついたままシャーロットは大きく頷いていた。ガストンはがっくりと項垂れるが、私も驚いていた。
・・・カインとアベル、私の元いた世界で旧約聖書に登場する兄弟だよ 聖書ではカインがアベルを殺してしまうんだ 人類最初の殺人者カイン なにか関係があるの? ・・・
私は、ソドムとゴモラの街やカインとアベルという兄弟が現れた事で、まるで違う世界なのに私の元の世界となにか関係があるのかと思っていた。
・・・もしかして、これがパラレルワールド(平行世界)なの 私の元の世界と同じ次元だけど別の世界 こちらは歴史の分岐で悪魔が先住民として栄えた世界 つまり、どちらも同じ地球 ・・・
私は、まさかねと思った。確かに似ている所は多いけど、違う所も多い。それに、同じ地球なら何処かに私”山内木ノ子”がいてもおかしくない筈だよ。でも今の所、そんな気配はない。
・・・ダメ、ダメ 私みたいな、それほど賢くもない頭で考えても分かる筈がないよ ・・・
私が色々考えているうちに話は進んでいた。
「ガストン、もうこれは”いじめ”で済む問題ではありません 大人でこんな事をすれば斬首刑ですよ カインは心の中に巣くった邪悪な芽が消えたのを確認出来るまで牢獄に入って貰います もし、悪の芽が消えなければ一生牢獄暮らしになりますね 」
シモンが有無を言わせぬ口調でガストンに告げていた。
「アベルにも話を聞きました カインは確かに徒党を組んで問題の行動をしていたそうです そればかりか、アベルも害そうとした素振りがあるようなのです いったいどうしてカインはこんな風になってしまったのか…… 」
「子供は親からの教育が全てです 親を見て子供は育ちます ガストンさん、これはあなたにも責任があるのですよ あなたも、この事を教訓に、これから心を入れ換えて残ったアベルを育ててあげて下さい 良いですか、もうカインと顔を合わせる事は出来ません 本来なら斬首であるところを、ガストンさんのこれまでの行いを考慮してこういった処置にしました ガストンさんなら理解してくれると信じています 」
ランスロットが諭すようにガストンに告げると、ガストンは項垂れたままアベルを抱き締めていた。
「キノコさんたちには、お見苦しい所をお見せして申し訳ありません これもみな私の仲間であるシモンが…… 」
フィッシュバーガー家を出て、ランスロットが頭を下げて私に謝罪していた途中で、シモンが彼を止めていた。
「ランスロット、みなまで言わずともキノコ様は分かっていらっしゃる 後は私の罪を裁くだけ ですが、キノコ様の手を煩わせる必要はありません 自分の最後は、自分で幕を引いてみせます 」
いや私、何がなんだか分かりませんが、そう思った瞬間、シモンの周りに多重シールドが張られる。それは、自分の呪文の詠唱を邪魔されない為の防御シールドだ。そして、その中でシモンは呪文を詠唱していた。すると、地面や空中に裂け目ができ、そこから鎖が飛び出しシモンの体にグルグルと巻き付き締め上げていく。それは、まるで自分の体を破壊する様に思えた。私たちが、何をやっているんだと目を丸くしているうちにシモンの呪文の詠唱が終わっていた。
「これは……十戒…… 」
アリスが驚愕の顔でポツリと呟いていた。




