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5、イブリース


5、イブリース



 私は、白い光に包まれ、そして、黒い闇に包まれた。なにか目が回りそうで気分が悪いが、それだけだった。


・・・なにこれ 魔法じゃなくて、ただのドッキリ それとも幻術かなにかなの ・・・


 熱くも冷たくもなく、衝撃を受ける訳でもなく痛い訳でもない。私は彼が何をしたいのかが解らなかった。そして、私を包んでいた闇が消えた時に初めて驚愕した。


・・・ぎょえぇーっ、有り得ないっ 嘘でしょっこれっ ・・・


 私の周囲全てが消滅していた。オークもゴブリンも、木も草も……。そして、地面までも抉られている。残っていたのは私と、私が触れていた男の子の遺体……。


「失礼しました 君の力を試してしまいました 全てをこの世から消し去る僕の最大最強の魔法を受けて何事もなく立っているとは…… しかも、その触れたものまで守っている 仰る通り僕より遥かに強い方ですね 敬服致します 」


 男は私の前に(ひざまず)いていた。なんだか解らないけど、とにかく私に敬意を表しているようだ。私は悪い気はしなかったが、この事態をどうすれば良いのか判断出来なかった。


「お名前を教えてくれませんか 僕はイブリースといいます 覚えておいてくれると嬉しいです 」


・・・イブリース…… 神に反旗を翻して魔王になった天使の名前だ ・・・


 私は、アニメやゲームを思い出していた。という事はコイツ、サタンに匹敵する最凶の魔王じゃないの。私は、今さらながらコイツを怒らせたらいけないと震えていた。


・・・わ、私はキノコ ヤマウチキノコ ・・・


 私は名乗ったがイブリースは跪いたまま動かない。私の返事を待っているようだった。


・・・いけない ロックしたままだった ・・・


 私は慌てて鍵を外し、改めて名乗った。


「キノコさんですか、変わった名前ですね いや、失礼しました それでは、僕はこれで失礼しますよ よろしいですよね 」


 イブリースは私にお伺いをたてるように言う。心なしか震えているように感じる。そして、早く私の前から立ち去りたいというようにも見える。まさかね。私は別に彼に用はないから行ってしまっても構わないが、一つ訊いておこうと思った。


・・・この近くに人間の住む集落はない? ・・・


 私の問いにイブリースは勘違いしたのか、恐ろしい事を口走った。


「ここの南に人間の街がありますが…… ああ、人間を消滅させるなら僕がやっておきますよ キノコさんが手を煩わせる事はありません 」


・・・ちょ、ちょっと 私はその街に調べものがあるのです 良いですか、人間に手出しはいけませんよ 他の所の人間に対しても同じです 私の調べものの邪魔をするとただではおきませんよ ・・・


 私が精一杯虚勢をはって言うと、イブリースはビクッと体を震わせ、申し訳ありませんと体を小さくする。私は、忘れずに心をロックする。


・・・なにコイツ、見た目からして怖い奴だけど、案外可愛いところあるじゃない これは利用できるかも ・・・


 私は、また邪悪な考えを思いつきニヤリと笑っていた。そして、ロックを外してイブリースに心の中で話しかける。


・・・イブリース お前を私の配下にしてあげましょう 私の力になりなさい どうですか、光栄でしょう ・・・


「ぼ、僕を…… いや、しかしキノコさんには申し訳ないが僕にもやらなくてはいけない事が…… 」


・・・私の力になるより大切な事があるというのですか そうですか、それでは私にも考えがありますよ ・・・


 どうだ、主任に叱責されて私は叱責される事に慣れている。だから、叱責するコツも会得したのだ。


「い、いや、分かりました キノコさんの配下に加えて下さい 微力ながらキノコさんを補助出来るよう尽力します 」


 イブリースは、あっさりと兜を脱いでいた。


・・・いよーし、アッシーくん、ゲット ・・・


 私は心のロックにも慣れてきていた。少し煩わしいけど慣れれば何という事もない。イブリースに話しかける時だけ瞬時にロックを外す。それだけだ。


・・・それでは私を連れて人間の街まで行きなさい この男の子の遺体も丁寧に運ぶのですよ ・・・


 私の偉そうな命令にイブリースは頷くと、男の子の遺体を空中から出現させた柩に入れる。そして、それを同じく出現させた台車に載せると、自分の体を人間の姿に変化させていた。


・・・へぇ、人間の姿になると、なかなかいい男じゃない ・・・


 私は、台車にピョンと飛び乗りイブリースを見直していた。


・・・イケメン配下って云うのは良いわね まさにファンタジー 私が人間の姿だったら、あんな事やこんな事をして楽しめるのに ぐふふっ ・・・


 私は、口には出せない程とても下品で淫らな妄想をして一人興奮していた。すると……。


「キノコさん、ロックかかってないですよ 」


 イブリースがポツリと呟く。


・・・なにぃぃっ 消しなさいっ、今すぐ記憶を消去しなさいっ ・・・


 私は、顔を真っ赤にして叫んでいたが、イブリースはそれは不可能ですと私に告げる。


・・・だったら、他言無用 もし誰かに私の性癖を喋ったら殺す 転生も出来ないように魂も塵に変えてやる いい、本当に殺すからね ・・・


 私は羞恥のあまりイブリースに強迫ともとれる思念をぶつけていた。


・・・やっぱり、心が読める奴なんかと一緒にいるのは大変だ 早く他の人見つけてイブリースとはサヨナラしよう ・・・


 私は拳を握りしめ固く誓ったのだった。



 * * *



 イブリースは回し車を爆走する小動物を見て、ため息をついていた。なぜ、こんな事になってしまったのか。たまたま通りかかった時に、一瞬凄まじい魔力を感じ、そこへ赴いてみたら、それが小さなリスだと分かった。そして、そのリスが人間の街を一撃で滅ぼした自分の最大の魔法を浴びても傷一つつけられない。それが判明した時の気持ちは、これが恐怖というものなのかと初めて知ったのだった。

 その後、人間の街まで来て子供の遺体を引き渡すと、ひとまず宿屋に落ち着いた。そこで、回し車を買ってくるよう命令され、今こうしてベッドに腰掛けながら爆走する小動物を見つめている。


・・・キノコさんは僕を配下にして何をするつもりなんだ キノコさんが本気を出せば僕など簡単に始末出来るだろう いや、それどころか、この星が消滅してしまうかも…… キノコさんを怒らせないようにするのが僕の使命なのかな ・・・


 イブリースは楽しそうに爆走している小動物を眺めながら、再びため息をついていた。


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