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最強の魔法使いに転生したいとお願いしたのに小動物になっていた私  作者: とらすけ
二章 冒険の始まり

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幕間、水野清美

今回、キノコや仲間たちは登場しません。

キノコの元の世界。山内木ノ子の世界のお話しです。



幕間、水野清美



水野清美(みずのきよみ)にとって、この1年は激動と言ってもいい1年であった。新しい会社にも馴染み、仕事にも慣れてきたところであるが、まだまだだと自分に言い聞かせていた。


「課長、今度の会議の資料です。それで今日は定時で上がらせて頂きます」


資料を受け取った課長は、清美の顔をチラリと見ていた。


「もう1年になるのか。水野くん、君は頑張っている。もうそんな顔は止めて、そろそろ自分でも楽しむ事を考えて良いのではないか。山内くんだって、これだけ頑張ってくれている君の事を恨んではいないと思うよ」


清美は何も言わず課長に頭を下げると、自分のデスクに戻って行った。


・・まだ私は全然ダメ……。とても山内さんの代わりに成れていない。山内さんを知るほど自分の力不足を感じる・・


清美は溜め息をついていたが、気を取り直してヘッドセットをつけると鳴り出した電話に対応していた。


「はい、お客様センターです」


お客様の電話を受けると、他の事は頭の中から抜けていく。清美は定刻まで、周りの社員以上に電話を受けまくっていた。そして、定時になると清美はすぐに帰り支度を始めていた。普段は、残業する事が多いが今日は定時に帰ると決めていた。清美は、お疲れ様ですと挨拶して退社していた。そして、駅までの道を歩く。途中の自動販売機で缶コーヒーを買った清美は、しばらく歩いた先のガードレールの内側に缶を開けて置いていた。


・・山内さん、ごめんなさい・・


清美は、目を閉じて手を合わせていた。清美の頭の中に一年前の事故が甦る。車で駅へ向かっていた清美は歩道を歩く山内木ノ子の姿を見て、アクセルを戻していた。ガードレールがあるとはいえ歩行者がいるため万が一に備えてスピードを落としたのだ。それでも突然目の前に飛び出して来るとは思いもしなかった。


・・自殺……?・・


清美はブレーキを踏むのが一瞬遅れていた。そして、時間がまるでスローモーションのように動いていく。


・・違う、自殺じゃない。何かを見ている・・


清美も、木ノ子の視線の先を追った。そこには小さな動物が黒い瞳できょとんと立っていた。


・・お願いっ、止まってっ・・


しかし、清美の祈りも虚しく車は山内木ノ子を撥ね飛ばしていた。山内木ノ子の体が飛ばされ道路に叩きつけられたのは覚えていたが、そこから先は清美の記憶になかった。おそらくパニックになっていたのだろう。それでも警察や救急への連絡等は済ませていたようだ。それは全て後から聞いた話だったが……。

ドライブレコーダーや、目撃者の証言もあり清美は不起訴となり刑事罰は免れたが、民事と行政責任がのし掛かっていた。山内木ノ子は身寄りがいなかったようで、木ノ子の葬儀は清美が全て行っていた。その葬儀に訪れた会社の人間から山内木ノ子の人となりを聞いた清美は、自責の念に囚われ木ノ子の会社の社長に頭を下げていた。


「大切な社員の方を私の不注意でこんな事にしてしまい本当に申し訳ありません。どうお詫びしたら良いのか言葉もありません」


清美は、社長だけではなく葬儀に訪れた社員全員に一人一人頭を下げていた。それから清美は、山内木ノ子の勤めていた会社に入社した。突然、木ノ子を奪ってしまった償いを少しでもしたいと考えたのだ。


・・ごめんなさい、山内さん。あんなに仕事を頑張っていた、あなたの人生を私は奪ってしまった・・


清美は手を合わせ、閉じた眼から涙が溢れていた。その時、少し離れた歩道脇の草むらの中から、黒い丸い瞳が清美をじっと見つめていた。



 * * *



清美はアパートの自室のベッドで眠っていた。すると、水野さんと呼ぶ声が聞こえる。清美が、ハッと身を起こすと、そこに遺影のままの山内木ノ子がいた。清美はすぐに土下座する。


「山内さん、申し訳ありません。恨まれるのは当然です。私の命を奪いに来たのでしょう。どうぞ、お好きなようになさって下さい」


清美は、木ノ子の亡霊に取り憑かれ地獄に連れていかれるのだと覚悟していたが、目の前の木ノ子は微笑んでいるようだった。


「水野さん、私は恨んでなんかいませんよ。私は今、別世界で楽しく暮らしていますから、私の事は気にしないで下さい。あなたが辛そうで心配だと女神セレネ様が、私を一時的にこの世界に戻してくれたのです。あんなブラックな会社に入社しちゃって、こちらこそ申し訳ありません。私は、この世界とは違う姿で生きているので、水野さんも私を忘れて自分の人生を楽しんで下さい」


そう言うと木ノ子の姿が小さくなっていく。そして、あっという間に小動物の姿になっていた。


「ピイィィィーッ」


小動物は清美に向かって大きく鳴くと、後ろ足で立ち上がって前足を上げると消えていった。



 * * *



「水野さん、良かった。この頃、笑顔が多いじゃないか、良いことがあったのかな」


課長の言葉に清美は微笑み返していた。


「ええ、実はペットを飼い始めたんです。エキゾチックアニマルのリチャードソンジリスなんですよ。とても、可愛くて毎日癒されています」


清美は、回し車を爆走するジリスの姿を思い出して、また目を細めていた。


蛇足とは思いつつ書いてしまいました。

キノコは、清美の為にも真剣に楽しく生きなければなりませんね。


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