18、深淵の魔法使い
18、深淵の魔法使い
トリスタンは無事アークエンジェルをソロで倒していた。このレベルのモンスターを人間がソロで倒せるなんて私は信じられない思いだった。
・・これはトリスタンの強さなのかな、それとも暗黒騎士というジョブの強さなのかな・・
私は、うーんと考えたが分からなかった。とにかく人類最強のパーティーの一人であるのは間違いないよ。私は一人ウンウンと頷いていた。
・・そうだ、アリスだ・・
私は、ふと気づいてアリスに目を向ける。戦士系ジョブの場合、トリスタンのように休みない連続攻撃で敵を倒す事が可能であるけど、魔法使いの場合呪文を唱える時間が必要になってくる。パーティーであれば前衛の戦士たちがその時間を作ってくれるが、ソロではその時間を自分で作り出さねばならない。
・・私だったら敵が迫って来る前に、重力魔法放って敵の動きを遅くして時間を作るけど、アリスにもそんな魔法が使えるの・・
重力魔法はかなりレベルの高い上級魔法だけど、アリスくらいのレベルになれば使えてもおかしくない。私は向かってくるアークエンジェルにアリスがどう対抗するのかワクワクしながら見ていた。アリスは腰を落とし足を開いたスタンスで右手をアークエンジェルに向かって振る。すると、アリスの右手から炎の玉が飛び出し、アークエンジェルに向かって飛んでいき、激突すると燃え上がっていた。だけど、アークエンジェルはダメージを受けた様子もなく進んでくる。
・・ダメだよ、アリス。詠唱が短くて早く発動出来ても、そんな初級者の使うファイアーボールではアークエンジェルは止められないよ・・
アークエンジェルは魔法耐性もかなり高い。レベルの高い魔法でなければダメージを与えられないよ。私は爪楊枝の剣に魔力をエンチャントしてアリスの下へ向かおうとしたけれど、ふと気がついた。アリスは、変わらずアークエンジェルに向かってファイアーボールを射ち続けている。アリスは左右の手から連続で炎の玉を射ち続けているのだ。
・・呪文を詠唱していない・・
アリスが両手を振る度にアークエンジェルに炎の玉が向かって飛んでいく。アリスは呪文を唱えずにファイアーボールを発動させているんだ。私は、以前読んだ本を思い出していた。高位の存在である天使や悪魔の一部では、低レベルの魔法であれば呪文の詠唱なしに発動出来るとされていた。
・・アリスもファイアーボール程度であれば呪文の詠唱を必要としないの。アリスって本当に人間なの。天使や悪魔じゃないよね・・
私にとってはアリスが何者であろうと関係ないが、さすがに人類最強の魔法使いと云われるだけあると私は感心していた。
・・人類みんなの目標になる魔法使いだけあるなぁ。これが深淵の魔法使いと呼ばれるアリスの姿なんだ・・
アリスは、アークエンジェルの足にファイアーボールを休みなく当て動きを抑制すると、ファイアーボールを射ち出しながら呪文を唱えていた。アークエンジェルの背後の空間にポツンと小さな黒い点が現れた。
・・無詠唱の魔法と、呪文の詠唱を同時に発動出来るの?・・
私は、本当に飛び上がるほど驚いていた。そういえば昔の漫画で、取り込んだ2体の悪魔の口に呪文を唱えさせて同時に3種類の呪文を唱えるというエピソードがあったけど、アリスは違うよね。完全に一人でやっている。
私が驚いているうちにアークエンジェルの背後の黒い空間が大きくなっていく。そして、アークエンジェルが気づいた時には、もう遅かった。アークエンジェルはその黒い球のような空間に引き寄せられていく。
・・ブラックホール……・・
そう形容するのが相応しい暗黒の空間だ。アークエンジェルは必死に耐えていたが、それも限界を迎え黒い球に吸い込まれて消えていった。地面には小さな石仏が転がっている。
・・トリスタンといい、アリスといい、なんなのこの反則級の強さは……・・
私は人類最強と云われるこの勇者パーティーに度肝を抜かれていたけど、私も負けていないからね。私も大いに参考になった事があるんだ。私は、一人隅っこの方にタタタッと走っていった。
・・アリスに出来るなら私にだって出来るはず・・
別に対抗意識があるわけじゃないけど、無詠唱で魔法が使えるなら喋れない私にとっては便利だよ。例え低レベルの魔法でもね。私はダンジョンの壁に向かって構えると、アリスの姿を思い出していた。
・・私は、魔法は呪文を唱えないと発動出来ないと思い込んでいた。でもアリスがそうではないと教えてくれた。私は今まで自分で抑制してしまっていたんだよ。でも今は感じる。私なら出来る。アリスの姿を見て。私自身が止めていたストッパーが外れた感覚があるよ。セレネ様、ありがとう。セレネ様は、初めからきちんと私を最強の魔法使いにしてくれていたんですね・・
私は、火の球をイメージして腕を振った。それは、簡単に現れていた。私の腕から巨大な火の球が現れ、ダンジョンの壁に向かって飛んでいく。
「ピイィィィーッ」
私は嬉しくて飛び上がっていたが、その火の球の大きさはアリスが出したファイアーボールの数十倍だ。
「ピ、ピイィィィーッ」
・・あれ消さないとこのダンジョン壊しちゃうよ。お金儲け出来なくなる・・
私は、慌てて反対の腕から水のイメージで水球を射ち出していた。
・・あっ、ダメだ……・・
私は絶望した。火の球を消そうと思って出した水球の大きさは、火の球よりさらに数倍の大きさだった。火の球は消せても、あんなのがダンジョンの壁に当たったら……。
・・みんな、ごめんなさい・・
私は、ガックリと項垂れていた。私はまるでスローモーションを見ているように、火の球を飲み込んで消した水球が、ダンジョンの壁を直撃するのを見た。
カッ!!!
パーーーーン!!!!
凄まじい轟音と共に、衝撃波が周囲に広がっていく。
・・終わった……・・
私は、目の前が真っ暗になっていった。




