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8、ひとつの決着


8、ひとつの決着



「なかなかの力を持った者であったが、これで終わりだな」


「分子結合を破壊して全てを塵に変える遠呂知のビックバンを受けて無事な者など存在しませんからね」


「我々の脅威と成りうる存在は早めに排除しておくに限るからな」


「出来れば生かして捕らえたかったですが、仕方ないですね」


 電子的な光が煌めく異空間で幾つかの声が聞こえる。モニターには真っ白になった画面が映し出されていた。


「一つの街と人間が滅びましたが、この程度の犠牲はやむを得ませんね」


「人間など放っておいても、すぐにまた増えてくるさ。街などもあっという間に造られる。気にする事はない」


「まったく、時々得体の知れない輩が突然現れてくるからな。我々としても気を抜けないな。まあ、なんにしても消去出来て良かった」


「んっ待てよ。何かおかしいぞ……」


 モニターの中で白い霧のようなものが薄れていく。だんだんとはっきり映ってきたのは無傷で佇むソドムの街だった。


「どういう事ですか。なぜ街が無事に存在しているのです」


「解らんが、何らかの理由でビックバンが不発だったとしか考えられない。もう一度、ビックバンを発動するのだ」


「いや、それは無理だ。チャージに時間がかかる。連発は出来ない」


「くそっ、肝心な時になんて事だ」


 それまでは静かであった空間が騒がしく、そして、空間で煌めく光の点滅も激しくなっていった。



 * * *



・・ナアマ、イブリース、ナガト、大丈夫?それじゃいくよ。今度はこっちの番だよ・・


 全員からOKと返事が返ってくる。私は僅かに残っていた爪楊枝の剣にイメージをエンチャントする。これで全ての爪楊枝にイメージのエンチャントは済んだ。


「ピイィッ」


・・聖剣顕現・・


私は、今までイメージをエンチャントした全ての剣を顕現させる。遠呂知の周りの空間に100振りもの聖剣が姿を表し、獲物に今にも飛びかかるように浮遊している。”クラウソラス”、”デュランダル”、”バルムンク”、”天叢雲剣”、古今東西の聖剣だ。もちろん”フラガラッハ”、”カラドボルグ”もその中にある。これで、けりをつけてやる。私は更に聖剣に魔力を注ぎ込んだ。


・・ソード・サイクロン・・


 私は、聖剣の嵐をイメージした。100振りの聖剣が遠呂知に一斉に襲いかかる。聖剣の竜巻だ。遠呂知は100振りの聖剣で周り中から攻撃され逃げる事も出来ない。その巨体は聖剣でどんどん斬り裂かれ周囲に飛び散っていった。


・・ナアマ、さっきの炎が噴き出した魔法、もう一度お願い・・


「わかった、キノコ」


 ナアマは再び地獄の炎を召還する。遠呂知の下の地面から炎が噴き出し、聖剣で削られた遠呂知の身体が再生する前に燃え尽きていく。


「ゴガァァーーーッ」


遠呂知は断末魔のような咆哮を上げ、粉々に斬り刻まれた身体は地獄の炎で燃え尽き消滅していった。


・・ふう、やったね。結構しんどい敵だったけど、こんなのが他にもいるの?・・


 さすがに少し疲れた様子の私をナアマは肩にちょこんと乗せてくれた。


「このクラスの魔物は太古からこの惑星に潜んでいると言われています。その起源は誰も知らず、書物も残っていません。ただ、その力は絶大で、もし現れたらこの星は滅ぶという言い伝えがありますが、それをキノコさんが倒してしまうとは……。正直、撃退するのがやっとかと思っておりました。改めてキノコさんと一緒にいられる事が光栄です」


 イブリースは、私に頭を下げたまま動かない。


・・ど、どうしたの、イブリース・・


 イブリースが固まったまま動かないので私が心配すると、ナアマはイブリースにハンカチを渡していた。


・・えっ、泣いてる……。どうして……・・


「我々、悪魔は強さが全てだ。強い者は尊敬し、その者に仕える事を夢みる。だから、奴もキノコに仕えているのだろう。だが、奴は自分が見誤っていた事に気付いたのだ。私も驚いた。キノコは私が思っている以上に強かった。自分が信じた者が、それ以上に凄かったと思いしった時、もうそれは喜びの感情が溢れでて止まらない。私も、お前とこうしている事が嬉しくて泣きたいぞ、キノコ」


 ナアマは私の身体を優しく撫でていた。


「ピ、ピイィッ」


 私も、何か嬉しくなってきたけど街の人が無事かどうかも心配だ。といっても感動に浸っているナアマとイブリースはしばらく動けそうもない。私はナガトに目を向けた。ナガトは私の目を見て察してくれたようで、さっと素早く北門の中に消えていった。


・・こういう時、人間の仲間がいると便利だよね・・


 私はナアマに撫でられながら、気持ちよくて眠たくなってしまった。


・・さすがに魔力使いすぎたのかなぁ。でも、自分的にはまだ余裕だと思うんだけど・・


 残業が続いた時、自分では大丈夫と思っても実際は疲労が溜まっているものだ。今回もそうなのかと思っているとナアマが撫でるだけでは飽き足らず、今度は頬ずりしてきた。いや、嬉しいんだけど私は、あまりこういうスキンシップに慣れていない。私はナアマの気を他に向ける事にした。


・・ナアマ、ありがとう。あのナアマの淹れてくれたコーヒーが飲みたいな・・


「そうか、すまんキノコ。気が付かなかった。うん、戦いの後にはコーヒーだよな。すぐに用意する」


 ナアマはテーブルと椅子、コーヒーセットを取り出すと豆を曳き、サイフォンに火を点けた。すぐにコーヒーのいい香りが漂ってくる。


・・ああ、やっぱりコーヒーの香りは落ち着くなぁ。仕事で疲れた時も、給湯室のこの香りで癒されたもんね・・


 私は、マイカップを置いていた給湯室の食器棚を思い出していた。


・・私の、あのカップ捨てられちゃったかな。もういない人のカップなんか邪魔だから捨てちゃうよね。なんだか少し寂しいな・・


 コーヒーの香りで私は昔の事を懐かしく思い出していた。


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