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6、蒼い大蛇


6、蒼い大蛇



 私たちは北門に向かって駆け出していた。勇者が負ける程の相手だ。北門の警備隊は無事だろうか。私はナアマの肩の上で気が気ではなかった。


「勇者たちがやられる蒼い大蛇か。まさかな……。奴が出てきたというのか。イブリース、どう思う?」


「おそらく僕たちの考えている魔物で間違いないでしょう。同じ魔王なら気配で分かりますが、この気配は感じた事のない気配です。奴で間違いないでしょうね。だけど、こいつが地上に出てくるなど考えられません。何が起こっているのでしょうか」


・・ねえねえ、蒼い大蛇って何?私にも教えてよ・・


 ナアマとイブリースの会話に私は割って入っていた。


「蒼い大蛇はおそらく”遠呂知”という魔物だ。奈落やアビスと呼ばれる深淵の底で(うごめ)いている怪蛇で物理攻撃や魔法攻撃への耐性が極めて高く、攻撃力も凄まじい強力な魔物だな。並の勇者程度では歯が立たないだろう」


・・ナアマでも歯が立たないの?・・


「おいおい、キノコ。私は魔王だぞ。遠呂知ごときに遅れをとるかと言いたいが、奴とは戦った事がないからな。奴は深淵から這い出た事がないからな。記録によると、数千年前に奴が地上に出てきた時、奴が自分から奈落へ戻るまでに地上の半分が破壊されたとある。気を抜ける相手でない事は確かだな」


・・それほどの強敵なのか。ここで止めないと本当にこの街は破壊されてしまう・・


 私は、爪楊枝の剣にエンチャントするイメージを確認していた。聖剣”フラガラッハ”のチャージは完了している。私も資料を研究して他の聖剣や魔剣のイメージも頭に叩き込んできた。私も遊んでいた訳ではないんだ。時間が限られた私にとって、僅かの時間も無駄には出来ない。だから、自分や仲間に不利になる事態はなるべく避けて素早く結果を出す。これが今の私の使命だと思っている。のほほんと社員生活を送っていたあの頃が懐かしいよ。

 北門が近付くにつれ、逃げる人より倒れてる人の方が多くなってきた。


・・イブリース、倒れてる人たちの治療を・・


 了解とイブリースは足を止め、回復魔法を発動する。すると、門のところで泣きながら立ちすくんでいる女の子がいた。


「お姉ちゃんが、とらちゃんを助けに行って戻らないの」


 取り急ぎ話を聞くと、飼い猫のとらを助けに行った姉が逃げ遅れてまだ門の外にいるらしい。門の外には、もう蒼い大蛇が迫って来ていた。


・・ナガト、救出をお願い。私とナアマで、あの魔物を足止めするよ・・


 ナガトも私の指示で更に加速し消えていった。


・・ナガトに任せておけば大丈夫だよね。私たちも全力でいくよ、ナアマ・・


「任せろ、キノコ」


 ナアマは走りながら右腕に魔力を溜めていく。ナアマの腕の周りに多重魔方陣が展開していた。


「くらえっ、アビス・フレーム」


 ナアマの右腕から炎の槍が噴き出し蒼い大蛇・遠呂知に突き刺さる。それは、遠呂知を貫いたかに見えたが、炎の槍は遠呂知の身体に当たると粉々に砕けていた。


「なるほど、さすが奈落の底の魔物だな。これでは人間の勇者など敗れて当然。面白い、本気を出させて貰おう」


 ナアマは走りながら焔の剣”レーヴァテイン”を抜いて構える。レーヴァテインは発熱しまるで太陽のように白く発光していた。


「くくく、この状態のレーヴァテインは全ての物を溶断する。貴様に、この剣が受けられるかな」


 ナアマは遠呂知の前でジャンプすると大上段から斬りかかった。


バシュッ


 私はナアマのレーヴァテインで遠呂知が一刀両断されたと思ったが、遠呂知は無傷でナアマに襲いかかっていた。


「なに……」


 ナアマは信じられないという顔で、一瞬動きを止めていた。そこへ遠呂知の巨大な尻尾が打ち付けられる。


・・ナアマ、危ないっ・・


 すんでのところでナアマはレーヴァテインで遠呂知の攻撃を防いでいたが、遠呂知の巨大な尾はナアマに身体を軽々と吹き飛ばしていた。


「がはっ……」


 ナアマは壁に叩きつけられるが、すぐに立ち上がりレーヴァテインを構える。しかし、その両足は壁に叩きつけられた衝撃でガクガクと震えていた。


・・ナアマのレーヴァテインでさえ斬り裂けない。あれ以上の斬撃を与えないとダメってこと……。ふざけるな、私は最強の魔法使い。仲間を、この街を必ず守る・・


 私は、あの白銀の騎士と戦った時のように遠呂知に対する怒りが燃え上がってきた。


「ピイィィィーーッ」


 私は今まで以上に魔力を込めた聖剣”フラガラッハ”を遠呂知に向かって投げつける。フラガラッハは私が敵と認識した遠呂知に向かって高速で飛んでいった。


ズバァッ


 遠呂知の胴体が斬り裂かれ血が飛び散った。遠呂知は一瞬動きを止めたが、すぐに斬られた部分が再生し私に襲いかかってくる。でも、私に比べれば遅い動きだよ。リスの素早さを舐めてはいけない。私は、遠呂知の攻撃を掻い潜りフラガラッハで応戦する。


ズバッ、ズバッ、ズバッ、ズバッ


 連続で遠呂知に傷を与えるが、遠呂知はすぐに再生して、その巨体を武器に私を潰そうと襲ってくる。


・・このままじゃ、あの大蛇を倒せない。一度の攻撃で完全に行動不能にしないと・・


 私はチョロチョロと走り回りながら、フラガラッハで遠呂知を攻撃し、ある考えを頭の中で描いていた。



 * * *



「遠呂知に傷を与えるだと……。あの小動物は何者なのだ」


「まさか遠呂知が破れる事はないと思うが、あの力は脅威だ。世界の均衡を崩す恐れがある」


「ここで、消滅してもらう必要がありますね。ビッグバンを遠呂知に使わせましょう」


「力の謎を解明してみたい気持ちもあるが致し方ないですな」


 様々な機器に囲まれた異様な空間で意見が一致していた。


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