3、惨劇
3、惨劇
私は、なんとか子供たちをオークから引き離そうとしたが、オークたちがだんだんと近付いて来ている気配がする。
・・・匂い…… オークは鼻が効く 子供たちの匂いに気が付いたんだ 風…… 風上に逃げては駄目だ ・・・
私は風下に逃げながら、必死に何か手はないかと考えたが何も浮かばない。
・・・どうしよう、こんな時、アニメなんかだと勇者様とか騎士様とか助けが現れたりするんだけど…… ・・・
私はプルプルと首を振った。
・・・いや、そんな他力本願じゃいけない 私がなんとかしないと 私は最強の魔法使いなんだから ・・・
が、私たちの周囲に突然ゴブリンが森の中から取り囲むように現れた。ゴブリンは小鬼とも云われる怪物だ。
・・・オークだけじゃなかった 他にもいたんだ ・・・
「ひゃゃーーーっ 」
女の子が悲鳴を上げている。男の子は、女の子を庇うように木の枝でゴブリンを威嚇するが、ゴブリンはニヤニヤ笑いながら包囲を狭めてきた。ゴブリンはオークに比べて体は小さく武器も貧弱な物が多いが、その分、群れで襲ってくる事が多く、けして油断できない怪物だ。いや、むしろ数が多い分厄介かも知れない。例えば、ゲーム序盤でまだレベルが上がっていない時に、ゴブリンのような数が多い敵に囲まれると嫌なものだ。コツコツとヒットポイントを減らされる。でも、私は最強の魔法使いなのだ、魔法が使えればこんなゴブリンなんか瞬殺出来るのに、なんで魔法が使えないの。
「ピィッ、ピィッ、ピィィィーッ 」
・・・駄目だっ、やっぱり魔法使えない でも、私は大人 こんな小さい子供たちは絶対守らなきゃいけない 私は馬鹿だから考えていても仕方がない ここは実力行使だ 私の力を思い知れ ・・・
「ピィィィィィーッ 」
私は、ゴブリンに向かって飛びかかり鋭い爪でゴブリンの足を切り裂いた。と思ったけどゴブリンは傷一つなく、私が飛びかかった事さえ気付いていないようだ。それでも、私はゴブリンに飛びかかっていた。
・・・ゴブリンの注意を惹かなきゃ 私にヘイト集めれば子供たちはその隙に逃げられる ・・・
と思った時、女の子がピロロローッと笛を吹いていた。
・・・駄目だよ オークたちにも気付かれちゃう ・・・
私は、女の子に笛を吹くのをやめさせようとしたけれど、いくら私がピィピィ鳴いても分かってくれず笛を吹き続けている。仕方なく私はゴブリンの注意を惹こうと、また攻撃を繰り返した。でも、私はそこで自分の無力さを痛烈に思い知った。チョロチョロ足に纏わり付く私を鬱陶しく思ったゴブリンが飛びかかった私にカウンターで蹴りを入れてきた。その一蹴りで私の体は宙に舞っていた。
「ピギィィィーーーッ 」
全身がバラバラになるような衝撃で私は意識が飛びそうだったが、必死に意識を繋ぎ止めていた。そして、宙を舞った私は、地面に叩きつけられゴロゴロ転がると木の幹にぶつかって止まった。かなりのダメージだ。でもゴブリンは、私の無事な姿を見て首を傾げている。今の一蹴りで私を殺したと思ったのだろう。小動物だと思って甘く見るな、私は最強の魔法使い山内木ノ子なのだ。私はゴブリンを睨みつける。ゴブリンは私の思惑通り、子供たちから離れて私の方に向かって来ていた。
・・・やった この隙に早く逃げて ・・・
私は、ヨロヨロと後ろ足で立ち上がって子供たちが逃げる時間を稼ごうとしたが、そこで私は子供たちの後方の森を見て絶望してしまった。
・・・そんな…… こんな事って…… ・・・
私の目にジャイアントアックスを持った先程のオーク三体が映っていた。子供たちの後ろから現れたオークの中の一体が大きくジャイアントアックスを振り上げる。男の子は木の枝で、それを防ごうとするが……。
・・・やめて、お願い…… ・・・
私は、何も出来ず祈るように見ていたが、その私の見ている前でジャイアントアックスは男の子に向かって振り下ろされる。
ゴオォッ
鈍い風切り音が聞こえ、続いて何かが切断され地面に転がる音……。そして、絶叫が森の中に響き渡った。
「あぁぁぁーーーーーーっ 」
男の子の木の枝を持っていた右腕が肩口から切断され血が噴き出している。男の子は左手で右肩を抑え、地面をのたうち回っていた。男の子の右腕を斬り落としたオークは、またジャイアントアックスを振り上げている。女の子は、恐怖で笛を吹くのも止め地面に腰を落としてしまっていた。小さな体がぶるぶる震えて動く事も出来ないようだ。今度は、その女の子目掛けてジャイアントアックスが振り下ろされた。
バシュッ
無惨に首が切断されポトンと地面に落ちると、コロコロと私の前まで転がってきて止まった。その男の子の切断された頭を見て私は怒りと悲しみで我を忘れていた。女の子を助ける為、飛び込んだ勇敢な男の子。右腕を切断されて自分も相当な激痛のなか、それでも女の子を助けようとする、その男の子の勇気が私を立ち上がらせていた。私は、後ろ足で立ち上がり、黒い瞳でオークを睨み付ける。そして、前足の黒い爪でオークに向かって指を一本突き立てていた。
・・・こんな小さな子供を殺して許せない 私が相手をする ・・・
私は今まで経験した事のない怒りで平静ではいられなかった。それは、男の子を殺害したオークに対しても勿論、男の子を助けられなかった自分自身に対しても怒りが収まらなかったのだ。
・・・私は最強の魔法使いなのに、なぜ助けられなかったの 言い訳はいらない また私が死んでも、男の子が命をかけて守ったあの女の子は必ず助ける ・・・
その時、オークもゴブリンも何かに気付き怯えたように私の方を注視し震えながら固まっていた。