1、ソドムの街
1、ソドムの街
道中色々あったが私たちはゴモラの街の隣に位置するソドムの街へ無事辿り着いた。
「ここがソドムの街です。ほとんどゴモラの街と変わりませんよ。まずは宿屋を確保しておきましょう。私はこの街を知っていますので手配しておきますよ」
そう言うとナガトが素早く動き出す。その間に私たちは街を把握しておく事にした。言葉の点で不自由な私はナアマと一緒に回り、イブリースは別方向に向かう。集合場所は、この街にもある噴水広場だ。
一刻の後、私たちは噴水の前で落ち合った。特に目新しい情報はなかったが、首都シン・イーハトーブへの道程に馬車を利用する事にした。馬車なら最短で首都まで行くことが出来る。普通、冒険者は歩いて移動がデフォルトであるが、私には時間がないし多少の贅沢は許して貰えるだろう。人間の時には10年一昔なんて言っていたけど、ジリスの私はその半分も生きられないかも知れない。とにかく急いで世界を平和にして、のんびり暮らすんだ。私は野望を胸に秘めていると、ナガトも戻ってきた。
「宿屋の手配は済んだ。チェックインして部屋で作戦を練りますか」
ナガトの言葉で、彼の後ろについて宿屋に着いた私たちは、早速仲居さんに案内されて客室に入ったが、私はその広さに度肝を抜かれていた。
・・こ、こんな広い部屋、私、初めてだよ。どうしたの、ナガト・・
「いや、コイツらがどうせでかいベッドを置くだろう。ゴモラの宿では手狭だったからな。それでスイートにしてみた。これくらい広ければ文句ないだろうし、お金はあるのだから少しくらい贅沢しても良いんじゃないか」
ナアマとイブリースも私の顔を見て、ウンウンと頷いている。ここで私は、みんなの思いに気が付いた。みんなは私の寿命が魔族はもとより人間よりも遥かに短い事を知っている。だから、その短い間、私に贅沢させようとしているのだろう。
「ピイィィィーーッ」
私は広い部屋の中を駆け出していた。私の黒い瞳から涙がこぼれていた。
・・みんなに泣き顔なんて見せられないよ。私は最強の魔法使いなんだから……。でも、ありがとう・・
私は、この異世界に来て本当に良い仲間を得る事が出来た。今度は、この仲間の為に私がこの世界を争いのない世界に変えてみせる。私は、部屋の中を爆走しながら決意していた。
* * *
数えきれない程の機器が配置され、その灯りが暗闇を照らしている異質な空間で声が聞こえる。
「アークエンジェルを軽く倒すとは、あの小動物は何者なのだ。それに目的も性格も謎のままだ。我々と敵対する存在なのか早急に掴む必要があるな」
「アークエンジェルを倒すという事は普通の冒険者とは考え難い。勇者並の力を持っているという事だ。今、あの小動物はソドムの街にいる。そこをモンスターに襲わせてみるか。奴がどう反応するか、それで奴の目的や性格が判明するかも知れない」
「モンスターといっても雑魚モンスターでは話にならないぞ。ソドムの街を滅ぼせるくらいの力がないとな」
「心配するな、奈落の底で蠢いているアレを召還しよう。間違っても倒される事はないだろう。これで奴の力が推し測れるし、どういう行動をとるかで目的も分かってくるかもしれん」
「アレは不味いだろう。万が一制御不能になったら、この惑星ごと消滅するぞ」
「いや、増幅器を使用すれば問題ない。それに、あんな小さな街だ。短時間で結果が出るだろう。心配する必要はない」
「私も、その意見に賛成だ。あの小動物がどの様な行動をとるのか、それが分かれば良い。戦いを挑むとは思えないが、さっさと逃げるようであれば、別に気にする存在ではないという事だ」
「では、早速取りかかろう。召還の為の力を溜めねばならん。それでは、瞑想に入るぞ」
その声を最後に声はしなくなった。機器の光だけが点滅し動いていた。
* * *
「皆様、大変申し訳ありません。このお部屋を移動して頂きたくお願いに参りました。下の階にデラックスルームがありますので、そちらのお部屋に移って下さいませんか。このお部屋よりは狭いですが、ここと同じ様なゴージャスな造りになっておりますので、よろしくお願い致します。勿論、差額分は返金致します」
宿屋の主人の突然の言葉に私は目が点になっていた。急にいったいどうしたのだろう。天蓋付きのベッドも不気味な柩もすぐに隠したし、バカ騒ぎもしてないし、屋根も吹き飛ばしていないよ。そこで私は気がついてしまった。
・・そうか、動物禁止なんだ。私がチョロチョロ走り回っていたから、他の宿泊客に見られてクレームが入ったんだよ、きっと・・
私は、みんなに迷惑かけてしまって涙が出てきた。
「ピィッ……」
みんなにごめんなさいと謝ったが、物凄い怒気が感じられて私は震えあがっていた。
・・ご、ごめんなさい。私がチョロチョロしてたから……・・
私は小さくなって謝っていたが、みんなの怒りは収まりそうになかった。そりゃそうだよね。こんな豪華な広い部屋で、ゆったりと珈琲や紅茶、日本茶を飲んで寛いでいたのに、私のせいで部屋を移れなんて言われているんだ。そりゃ怒るのも無理はない。そこで、また私は気が付いた。
・・そうか、私が出て行けば良いんだ。私がいなくなれば問題ないよ。みんな、私は外に行くから落ち着いて・・
私は、とぼとぼとドアに向かって歩いていた。そもそも人間でない私が彼らと一緒にいてはいけなかったんだ。ごめんなさい。私が開いたままのドアから外に出ようとすると、ナアマにむんずと掴まれ持ち上げられる。
「ピイィッ」
私は生きた心地がしなかった。




