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32、酔っぱらいに注意


32、酔っぱらいに注意



「今日、出発すると言っていたが何処へ向かうつもりだ 私はこの周辺には詳しいからアドバイス出来るぞ 」


 ナガトの言葉に私は、取り敢えず隣の街へ向かい最終的には南の大陸へ向かうと答えていた。


「南の大陸へ…… ネオ・エリュシオンへ行くつもりなのか あそこは人間にとって発祥の地、聖地であると云われている 私も南へは行った事がないが、人間以外の者は侵入出来ないように警備されているらしいぞ お前たちのような小動物や悪魔では、おそらくネオ・エリュシオンに入るのは、まず無理だ 」


・・・大丈夫だよ ちゃんと話せば分かってくれるでしょう 人間はそんなに馬鹿じゃないと思うけど…… ・・・


「そう思いたいが、人間というのは自分の認めないものには、徹底的に冷たくあしらうからな 」


・・・ああ、それはそうだね あんたもそうだもんね、ナガト ・・・


 ナガトはうっと言葉につまるが、だから自分も同行すると言い出した。何かあった時に人間の自分がいれば都合が良いだろうという理屈だった。


「おい、ナガト 同行するのは構わんが、足手まといになったり、不審な動きをしたら、今度こそ殺すからな、よく覚えておけ それと、もう一つ条件がある いいか、モーニングコーヒーを必ず飲めるようにしろ、分かったか 」


「それとモーニングティーも飲むようにな 1日の始まりに相応しい一杯だからね 」


 ナアマが凄むようにナガトに条件を突き付けた後、イブリースも条件を付け加える。ナガトは分かりましたと頷いていたが、何故そこまでして同行したいのかと疑問に思ってしまう。


・・・ねえ、ナガト 確かに人間のナガトがいてくれると色々助かるかも知れないけど、別に無理して同行してくれなくても良いんだよ 私にはナアマとイブリースという心強い仲間がいるし ・・・


「そうだな、キノコには私がいるからな 貴様など必要あるまい 」


 ナアマが冷たく言うが、ナガトは必ず役に立ってみせると主張し絶対に同行するという意思を曲げなかった。頭巾から僅かに見えている顔が赤くなっているように感じたのは気のせいなのか。そこで、私はふと思った。こいつ、ナアマの色気にやられたな……。美人でナイスバディをビキニアーマーで包んだ魔法剣士であるナアマは、酒場での人気ぶりからみても圧倒的にもてる存在だ。どうみても修行に明け暮れて、女っ気のないナガトなど一撃でやられるだろう。ふうん、そういう事なら仕方ないか。叶う事ない気持ちだけど、一緒に旅して冒険すれば良い思い出になるだろうし、なかなかからかいがいがありそうで楽しくなってきた。


・・・分かったよ、そこまで言うならどうぞ ・・・


 私が偉そうに同行を許可するとナガトは深く頭を下げて感謝していた。


・・・こいつ、よほどナアマにやられてるみたい 面白くなりそう ・・・


 私は邪悪な笑みを浮かべて、ナガトをどうやってからかってやろうかと思案していた。


「なるほど、オモチャとして同行して貰う訳ですか それは楽しそうですね 」


 私は、ドキッとしてイブリースを睨み付けた。そりゃ心に鍵かけ忘れた私が悪いけど、みんなの前で言うなよ。私は、そっとナガトに目を向けるとナガトは気づいた様子もなく、テーブルの上に広げた地図を見ていた。



 * * *



 ゴモラの街を出発した私たちは隣の街へと続く街道を歩いていた。森を切り開いた街道らしく、両側は大きな木が立ち並ぶ鬱蒼とした森林になっている。ナガトによると、この森の中は魔物も出現する可能性もあるので注意が必要という事だった。


「魔物ねえ…… 私の管轄の魔物じゃないから、はぐれ魔物か、イブリースのとこから逃げ出した奴じゃないか なにしろイブリースは気分屋で面倒な奴だからな、嫌になって飛び出したんだろうよ 」


「どうやら僕に喧嘩売ってるようですね、ナアマ 気分屋なのはあなたでしょう この前も少しコーヒー豆のブレンドの比率を間違えたと言ってメイドをお仕置きしていましたが、メイドは間違ってなんかいませんでしたよ 晴れていた空が雨雲に覆われて急に雨が降ってきたものだから、あなたの気分が変わっただけでしょう 」


「だったら、何故止めない 止めないという事は貴様も同じであろう 」


「それは違いますよ 僕が止めたらあなたはもっと怒りに火が点き、もっと激しくお仕置きしたでしょうからね 」


「なにぃ…… 」


 うわぁ、また始まったよ。コイツらもホント面倒くさい。もう私は、この二人の痴話喧嘩は無視する事にした。


・・・隣の街って、なんていう街なの? ・・・


 私はナアマの肩の上でナガトに尋ねてみる。地図で見た時には街の名前の所に線が引いてあって消されていたのだ。


「ソドムの街という 昔、一度滅ぼされているから街の名前が消えていたのだろう 」


・・・ソドムの街…… 今まで私がいた街がゴモラで、隣街がソドム…… しかも、滅ばされているって…… なんか不吉な感じがぷんぷんするんだけど ・・・


 私がいた世界では、ソドムとゴモラは堕落した街として神の怒りに触れて、メギドの炎によって焼き尽くされた街として記録されている。この世界でもソドムは一度滅ぼされたとの事だから、ゴモラの街も滅ぼされる運命なのかなと、つい考えてしまう。いや、そんな事はあってはならない。カレンやサーシャだっている。宿屋の主人や酒場のみんな、そんな人たちが住む街が滅ぼされるなんて事はあってはならないよ。私は、ソドムが何故滅ぼされたのか。それも調べなければならないと感じていた。


 そのソドムの街へは歩いていた2日はかかるらしい。私たちは日が暮れるまで歩き、街道から少し入った広場で夜営する事にした。テントを張って焚き火を灯す。


・・・懐かしいなぁ、子供の頃のキャンプを思い出すよ ・・・


 ナガトは流石に慣れているようで、日持ちのする乾燥肉を鍋で煮込んで調味料を入れ、みんなの夕食を作ってくれた。そして、これがまた美味いのだ。私たちはお腹いっぱい夕食を食べ、お酒を飲みだした。私、お薦めのウォッカ、スピリタスだ。96度と非常にアルコール度数の高いウォッカなのでジュースで割って飲む。これが、また美味しいのだ。


「ほう、この夕食なかなか美味だな 少しは役に立つではないか よし、これからお前が料理当番だ しっかり頼むぞ 」


 ほろ酔いのナアマに命令されて、ナガトはやはり嬉しそうにみえる。私は、邪悪な考えが浮かびナアマとイブリースにこっそり耳打ちした。


・・・ナガト、ゲームやろうよ 負けたら好きな人を告白する事、良いね ・・・


 すでに酔っているナガトを上手くゲームに誘い、三人で共謀して彼を敗者に仕立て上げた。


・・・はい、それでは告白タイムです コクって下さい ・・・


 生真面目なナガトは、バシッと私を指差すと大声で言った。


「キ、キノコさんが好きです 可愛くて強くて、大好きです 」


・・・へっ、わ、私…… ・・・


 私は動揺していた。だって、そりゃそうでしょう、告白なんてされたの生まれて初めてなんだもの。不味いよ、これからナガトの事、意識しちゃうじゃない。私は多分顔が真っ赤になっていたと思う。そこへナアマがいきなり私を持ち上げて抱っこしてきた。


「それは認められんな キノコは私のものだ 貴様などには渡さん 」


「聞き捨てならないですね キノコさんは僕の主ですよ あなたたちに譲れませんね 」


 森の中で、まさかの酔っぱらい同士の三つ巴のバトルが勃発していた。


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