30、旅立ち
30、旅立ち
私が転移でダンジョンから脱出し、地上に戻るとナガトの姿が目に入った。
「ピイィィィーーーッ 」
私はナガトに、見てみてと背中に背負った”憤怒の石仏”を見せようとすると、それより先にナガトに両手で抱き上げられていた。
「ありがとう、キノコ お前は本当に私の恩人だ 私の幼馴染みを救ってくれた お前の力は本物だ 私も生涯お前の力になろう 私に命令してくれ そして、私の力を好きなように使ってくれ だけど、その前に一つお願いがある 彼女たちを診てくれないか ポーションを飲ませても効果がない ヴラドたちが言うには白い悪魔に状態異常の攻撃をされたようなのだ なんとか回復出来ないか診てくれないか 」
「ナガトから話を聞いたよ ありがとう、俺たちを助けてくれて 」
「リースさん、キノコさん、どちらで呼んだらいいのか分かりませんが、僕にもお礼を言わせて下さい ありがとうございました 」
ナガトに続き、戦士と騎士からもお礼を言われ私は真っ赤になっていた。それより、そうか彼女たちを診てあげないと……。私は三人の女性の前に降ろしてもらい、彼女たちの状態をチェックする。顔色はそれほど悪くない。私はアークエンジェルが使用するであろう状態異常攻撃を必死に思い出していた。まず第一はポイズン。毒攻撃だ。アークエンジェルの爪から毒を注入される場合がある。だけど、彼女たちの状態は毒状態ではないようだ。あと何があったっけ……。
・・・石化ではないよね ・・・
石化の攻撃を受けた場合、手や足の先から石化していく。彼女たちの手足は正常だ。そうすると……。
・・・そうか、エナジードレインかも知れない 生命力を吸い取る攻撃だ 成功率はあまり高くない攻撃だけど、自分よりレベルが低い相手に対しては成功する確率が高くなる もし、エナジードレインを受けちゃったとしたら、私では治せないよ ・・・
私は怪我や傷を回復させる事は出来るけど、生命力そのものを回復する事は出来ない。それは、専門の魔法を学んだレベルの高いプリーストやビショップ、または賢者でないと不可能だ。だけど、その二人が倒れちゃっている。エナジードレインを使ってくる敵なんて、本来ラスボスの付近にしか現れないから彼らも知らないのだろう。
・・・ごめん、ナガト これは、おそらくエナジードレイン 私では治せない 高レベルのプリーストか 教会で神官さんに浄化して貰わないと無理 ・・・
「高レベルのプリースト…… 駄目だ 首都に行けばつかまるだろうが、ここでは無理だ それに、無人の教会はあるが、神官のいる教会はやはり首都まで行かないとない 」
・・・じゃあ、誰か首都に行った人いる? ・・・
誰かいれば、ナアマの居城に行った時のように私が読み込んで転移で行けるが、ナガトもヴラドもジークも行った事がなかった。彼女たちが、どれくらい生命力を吸われてしまったのか分からないが、息がだんだんと弱くなっていく。このままじゃ不味いよ。この中で一番早く移動出来るのはナガトだ。
・・・ねえ、ナガトが首都まで行ってプリーストを連れて来るのに、どれくらいかかるの ・・・
もしそれが数時間ならなんとかなるかも知れない。私は期待を込めて訊いてみたが、ナガトの返事は絶望的なものだった。
「片道で10日 往復で20日はかかる それにプリーストを探す時間を考えると、それ以上だ 」
駄目だ。そんな長期間彼女たちが持たないよ。私は他に手はないかと考えていた時、キノコと呼ぶ声が聞こえた。私が振り向くとビキニアーマーを着た女戦士が歩いて来ていた。なんか、さらに露出度が高くなった気がするが、私の僻みなのだろうか。その後ろには重厚なローブを羽織った男の姿も見える。
・・・イブリース、良かった あなた、賢者だったよね 彼女たちを治療してあげて ・・・
「えっ…… も、もちろん、キノコさんの頼みなら是非もありませんよ 」
プリーストとメイジの上級職であるビショップがどちらかというと攻撃魔法が得意なアタッカー寄りであるのに対して、同じくプリーストとメイジの上級職、賢者は回復系の呪文が得意な防御寄りの職業だ。その回復系の呪文はプリースト並の力を持っている。そして、イブリースのレベルならば間違いなく治療する事が出来るだろう。案の定、イブリースはあっさりと彼女たち三人を治してしまった。
むっくりと起き上がった三人にナガト、ヴラド、ジークが駆け寄る。
「大丈夫か? 」
声を揃えるナガトたちに、彼女たちは頭を下げる。そして、イブリースにも頭を下げていた。
「ごめんなさい 私たちが先に倒れてしまって…… でも、こうしてみんな外にいるって事は、あの白い悪魔に勝てたのね 」
パッツィが驚いた表情で言うが、ヴラドとジークは頭をかいていた。
「いや、俺らも助けられたんだよ 俺たちはみんな、そこにいるリースさんに助けられたんだ 」
ヴラドが私を指差し、彼女たちの視線が私に集まる。そして、驚いた瞳で私を見ていたけど深く頭を下げると泣きながらお礼を言い出した。
「ありがとうございます もう私たちは最後だとばかり思っていました このご恩は決して忘れません それと、ひとつお願いがあるのですが…… 」
ああ、分かったよ。彼女たちの瞳と手が物語っている。サーシャと同じだ。私は、背中に背負っていた”憤怒の石仏”をイブリースに渡して空間倉庫に収納して貰う。そして、イブリースに通訳してもらった。
「ご自由にどうぞ、とリースさんが仰っています 」
その瞬間、彼女たちはキャーッと歓声を上げ、私の身体を争うように抱っこしていた。そして、ナデナデ攻撃が果てしなく続く。でも、良かったよ。殺されかかったというのに彼女たち、あまり精神的なダメージは無さそうだ。ナガトも嬉しそうに彼女たちを見ている。黒装束の頭巾に隠れて目しか見えないが、その目が喜びに満ちている。
・・・こいつ、こんな優しい目も出来るんだな ・・・
私は、ナガトを見直していた。
* * *
ゴモラの街に戻った私は、翌日ナガトを伴って冒険者組合に行きクエストクリアの証である”憤怒の石仏”を鑑定してもらった。そして、それが間違いなく本物であると認められ、私はいきなりA級冒険者になっていた。ナガトは、なぜA級なんだ、AAA級にしろとごねていたけど、私は恥ずかしいからナアマの肩に乗り、さっさと出てきてしまったよ。でも、ナアマの肩の上も結構恥ずかしいかも知れない。きわどいビキニアーマーに赤いマントを羽織ったナアマは一目を惹く惹く。美人でナイスバディだから余計だ。そんなナアマの肩の上にちょこんと乗った私も好奇の目で見られていた。
・・・ナアマ、早く外に行こう ・・・
私は外に出て大きく息を吸った。すっかり緊張していた私は、ようやく気持ちが楽になった。これで”憤怒の石仏”を売却して、宿屋への支払いもOKだ。
・・・さあ、ナアマ 私たちも旅立つよ ・・・
私は鼻息を荒くしてナアマの肩の上に立ち上がっていた。