29、白桃の眠り5
29、白桃の眠り5
私の攻撃は悉くアークエンジェルに弾かれダメージを与えられない。私は冒険者たちを見た。三人は地面に倒れ、残っている二人は戦士とパラディンのようだが、この二人ももう立っているのがやっとの状態のようだ。このまま戦いが長引けば彼らは危険だろう。私はまず先に彼らを地上に転移させようと考えた。その隙を作る為に私は剣に魔力をエンチャントした。そして、剣から魔力を放出する。
「ピイィィーーッ 」
・・・ギャラクシーストーム、イブリースの重力魔法にヒントを得たオリジナルの魔法だよ これで倒せないのは分かっているけど、しばらく動きを止めておいてね ・・・
アークエンジェルは私の放った超重力でさすがに動きが鈍くなっている。ふふん。厨二病の私は鼻の穴を膨らませて得意満面だった。そして、急いで剣に転移のイメージをエンチャントし、倒れている人からナガトと打ち合わせた場所に転移させていく。戦士とパラディンの二人は信じられないという顔をしていたが、私に握手を求めると、そのまま消えていった。
・・・さあ、お待たせ これでゆっくり戦えるよ ・・・
私がアークエンジェルに顔を向けると、あちらも私の放った重力攻撃を抜け出し、私に鋭い眼光を向けてきた。私は剣に魔力とイメージをエンチャントする。
・・・この剣は、さっきまでの剣と一味違うよ ・・・
私は剣を上段に構えアークエンジェルに向かっていった。
* * *
ナガトは突然現れた人の姿に驚いていた。三人の女性が地面に転がったまま姿を現す。ローブを羽織った三人の女性は微かに息をしている。それは、ナガトの見知った顔だった。
「パッツィ、シンディ、リリー 」
ナガトが倒れている女性に声をかけ、ポーションを与えてみるが彼女たちは目を閉じたまま動かない。すると、今度は二人の男が空間から現れた。甲冑を身に付けた二人の男のうち、一人は両手で持つ大剣を持ち、もう一人は巨大な盾タワーシールドと片手剣を持っている。
「ヴラド、ジーク、無事か?」
「ナガトか、俺たちはなんとか……。だが彼女たちが……。それと、プロキオンとはぐれてしまった。彼が心配だ 」
「プロキオンなら大丈夫だ。今ベッドで寝ている。それより、パッツィたちはどうしたんだ。ポーションを飲ませても回復しない」
「おそらく状態異常だ。俺たちはダンジョンの奥で白い悪魔と出会ってしまった。すぐに逃げようとしたが遅かった。プロキオンとはぐれてしまっていたので、どうしても探知が遅れていた。それに奴は真っ先に回復役のパッツィを狙ってきた。その次はシンディだ。奴は頭がまわる。プリーストとビショップの二人を真っ先に潰してきたんだ。回復が出来る二人を倒されて、それでも俺たちは二人を連れてなんとか逃げようとしたが駄目だった。攻撃魔法の使えるリリーも倒されて、もう俺たちはここで全滅かと正直諦めていたんだ。俺とジークはこの強力な甲冑のおかげで、なんとか奴の攻撃から耐えていたけど、もう時間の問題だった。回復も魔法のバフも失くなった俺たちでは、ジリジリとヒットポイントを削られて倒されるのが目に見えていたからな……」
「僕もヴラドも、もう諦めていたさ。せめてパッツィたちだけでも助けたかったけど、ダンジョンの深部で魔法も使えず、帰還のアイテムも持っていない僕たちではどうしようもなかったんだよ。そこへ何か小さな動物がやって来て、僕らを助けてくれたんだ。あの小動物は何者何だろう。僕には天から降りてきた神様のように見えたよ。僕らを助けたあと無事に逃げられていたら良いけど……」
ジークは祈るように天を仰いでいた。
* * *
私はアークエンジェルに向かって飛び出した。私の爪楊枝の剣にイメージしたのは魔剣だ。聖剣では同じ聖属性のアークエンジェルにダメージを与えられないのはわかった。それなら反対属性の魔剣で勝負だよ。私は、アークエンジェルの手前で大きくジャンプする。
「魔剣”ダーインスレイブ” 」
ズバァァッ
手応え有り。私はそのままチョコチョコと動き回り、隙を見てアークエンジェルに斬撃を叩き込む。魔剣”ダーインスレイブ”は呪いの剣、この剣で斬られた者は呪われていく。具体的には、攻撃を失敗したり、魔法のスペルを唱えられなくなったり等、行動を起こす度に高確率で失敗するようになる。
・・・どう、私の攻撃にいつまで耐えられるかな ・・・
私は得意になってアークエンジェルを追い詰めていった。アークエンジェルは悉く攻撃に失敗し、業を煮やしたアークエンジェルは魔法を唱えようとするが、その詠唱も途中で止まってしまう。
・・・そろそろ終わりにするよ ・・・
私はアークエンジェルの足元に一気に飛び込み、アークエンジェルの足を横一文字に断ち斬る。そして、崩れ落ちたアークエンジェルに今度は大上段から斬り下ろす。
「ががががっっ 」
アークエンジェルは地面に倒れ動かなくなると、その体が光の粒子のように消えていく。そして、アークエンジェルの姿が消えた跡に、何か人間の拳大のものが転がっていた。
・・・もしや、あれが ・・・
私は、そろそろとそれに近付くと確認する。それは小さな石仏だった。その石仏の表情は怒ったように目がつり上がっている。
・・・憤怒の石仏。やったぁ、アイテムゲットゥッ ・・・
私は飛び上がっていた。この大きさなら私でも持って帰れる。
・・・これで宿屋の修繕費が払えるよ。そうすれば、私も冒険に旅立てる ・・・
私は、憤怒の石仏を背中に背負い剣に魔力をエンチャントした。すると、もう一体アークエンジェルが現れ迫って来るのが見えた。
・・・”ポラリス”のメンバーも救出したし、アイテムも手に入れたし、もうこのダンジョンには用はありません ・・・
私は迫ってくるアークエンジェルを無視して転移した。




