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2、遭遇


2、遭遇



 私は巣穴の中で慌てて飛び起きていた。


・・・いけないっ、今、何時っ、遅刻する ・・・


 巣穴から飛び出して私はようやく我に返った。


・・・そうだ、私は今はリスだったんだ ・・・


 取り敢えずお水を飲んで顔を洗おうと私は沼の畔に歩いていき水面に映る顔を見た。そこには、やはりジリスの私が映っている。私は水面に映る自分の顔を見つめていた。


・・・けっこう可愛いよね 地味顔で暗かった人間の私の姿よりも可愛いよ、今の私…… ・・・


 私は、自分の姿を水面に映しながら、どうすればもっと可愛く見えるか色々ポーズをとっていた。


・・・これだっ ・・・


 後ろ足で立ち上がって前足を何か頂戴というように上に伸ばす。その姿が自分でありながら可愛くて、私は胸がキュンとしていた。


・・・何、やっているんだろう 私…… ・・・


 急に虚しくなって私は歩き始めた。とにかく、ご飯食べて、この世界を把握しないと……。私は、牧草もどきを食べてお腹を満たすと、この森の外を見てみようと考えた。もしかすると、この森の外は近代文明が栄え、ビルが建ち並んでいるのかも知れない。いやいや、魔法がある世界だからお城があったり、城門があったりするのかも知れない。私は、ワクワクしながら最初は歩いていたけど、そのうちに走り出していた。

 森の中をチョロチョロと走って行くと、何か話し声のようなものが聞こえてくる。私は耳は良いから、小さな音でも聞き逃さない。足音も聞こえる。何人かが話しながら歩いているようだ。

 私は慎重に、その話し声に向かって近付いていった。


・・・良かった 人間がいる世界なんだ いい人だったら嬉しいな ・・・


 私は気配を殺して、そっと木の陰から顔を出し覗いてみた。


「ぴ、ぴぃ 」


 私は小さく声を出してしまっていた。そこには、とても人間とは思えない姿の者がいた。まあ、私も人間ではないけど、そこにいたのはファンタジー系の物語ではほぼ間違いなく登場してくる怪物”オーク”だった。豚頭人とも云われる立ち上がった豚のような怪物だ。黒い肌に赤く輝く目で、手には巨大なジャイアントアックスを持っている。そのオークが三体、話しながら歩いている。


「我らが魔王ナアマ様の御言葉では、この先に侵略者の人間どもの集落があるらしい 」


「まったく汚らわしい人間が、我らの地に勝手に集落など作りおって許せんな 」


「ブヒッブヒッ、皆殺しにすれば良い、ブヒッブヒッ 」


 オークたちの会話を聞いて私は興奮していた。


・・・おお、魔王がいるんだ これぞ、大道ファンタジー キターッ でも、人間が侵略者ってなんだろう どういう設定なのかな ・・・


 私は、疑問を持ちつつワクワクしながらオークたちの後をチョロチョロと見つからないようについて歩いていた。この時、私は愚かにも考えてもいなかった。これは、ゲームでもアニメの世界でもない。生きている本当のリアルな世界なのだという事を……。



 * * *



「ねえ、本当にこの森に薬草があるの? 」


「うん、爺ちゃんが言ってた この森の奥の沼の畔に生えているって 」


「ここには怪物は出ないんだよね 」


「そうだよ この森は魔王の城からは遠いし、街から近いから 怪物も寄り付かないさ 」


「でも、森の中って怖いね 早く薬草見つけて帰ろうよ 」


「ははっ、カレンは臆病だなぁ 大丈夫だよ もし、何かあったらカレンが持ってる笛を吹けば、すぐに自警団の人が来てくれるよ 」


「う、うん 」


 男の子と女の子、二人の子供たちが森の中を歩いていた。この森は子供たちが暮らす街のすぐ隣で、子供たちはいつもこの森の近くで遊んでいたが、森の中には入った事はなかった。それが今日は女の子の妹が熱を出してしまい、看病している両親には内緒で薬草探しに男の子を誘って森に来たのだ。薬は大変高価である為、以前男の子が話していた薬草を求めて、深い森の奥まで歩いて来たのである。


「ねえ、音しなかった? 怪物じゃないの? 」


 女の子は不安そうに呟くが、男の子は拾った木の枝を振り回し得意気に笑う。


「僕は自警団のみんなに剣術も習っているから大丈夫だよ 怪物がいても笛を吹いて自警団の人たちが来る前に僕が片付けてあげるさ 」


 男の子がビュンビュンと振り回す木の枝を見て、女の子も少し安心した顔になったが、しっかりと笛を握りしめていた。その時、がさがさと音がしたかと思うと目の前の草むらから小さな動物が出てきた。その小動物は、男の子と女の子を見て何か言いたげに後ろ足で立ち上がり、ピィピィと鳴いている。


「うわあ、可愛い リスさんだぁ 」


 女の子が近付いて行くと、小動物は来るなというように両手を振る。それでも、女の子が近付いて行くとリスは、走り出した。


「あっ、リスさん 」


 女の子は、トコトコとリスについて行く。男の子も仕方ないなぁというように女の子の後をついてきた。リスは、二人について来いというように、途中で止まっては振り向きを繰り返し、まるで誘導しているようであった。



 * * *



 私は、焦っていた。私の耳に子供たちの声が聞こえたからだ。オークは、まだ気付いていないようだ。私は子供たちの声の方へ走って行った。このままでは、子供たちはオークと鉢合わせしてしまう。なんとかそれを避けたい。私は、全力疾走していた。


・・・大人の人間だって、あの巨大なジャイアントアックスを持ったオークには敵わないだろう 早く逃げて ・・・


 私は、子供たちの前に飛び出して、早く逃げてと言うが子供たちには伝わらない。


・・・私が逃げれば追って来るかも…… ・・・


 公園の猫ちゃんをナデナデしたくて追いかけ回していた自分の姿を思い出し、私は走り出した。案の定、女の子は私を追いかけて来る。


・・・早く、もっと早く ・・・


 子供たちを引き連れ私は、森の中を走っていた。少しでも、あのオークから遠ざける為に……。



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