28、白桃の眠り4
28、白桃の眠り4
私は、ダンジョンの何層にいるのかも分からず通路を進んでいた。先程の広場で感じていた視線はもう感じられない。
・・・あれは、何だったのだろう? ・・・
私は歩きながら考えるがさっぱり分からなかった。私は探知系の魔法を使えないかと、レーダーをイメージして試してみたが上手くいかなかった。やはり、強固なイメージがなければ上手くいかないようだ。私は諦めてチョロチョロと走っていた。そして、二股に別れた場所に出る。左の通路からは異様な気配を感じる。右の通路からは特に何も感じない。どうしようか、私は迷っていた。何かあると思われる左へ行った方が手がかりや痕跡があるかも知れないが、彼らはそれを避けて右に行ったのかも知れない。
・・・うーん、どうしよう 左にあるのがトラップなのか、固定モンスターなのか ・・―
私は頭を悩ませていた。トラップフロアにしては異様な気配がする。となると固定モンスターかも知れない。固定モンスターとは、その場所に行くと必ず出現するモンスターである。通常、モンスターはダンジョン内を徘徊して冒険者を襲ってくる。それが動かずにじっとその場所に留まっているのである。ゲームの場合、付近のモンスターより協力なモンスターが現れる場合が多いが、出現する場所は決まっているので、そこに近付かなければ問題ない。逆にそれを利用して、レベルアップに励む事も出来る。それ以外には固定のお助けモンスターの場合もある。体力や魔力を回復してくれたり、貴重な情報やヒントを与えてくれる場合がある。だから、固定モンスターを発見したら一度はそこに足を踏み入れてみた方がいい。私は悩んだ挙げ句、やはり左の通路を進んでみる事にした。通路をぐねぐね進んでいくと、だんだんと気配が強くなる。これは、やはりモンスターの気配だ。私は慎重に歩いていき、行き止まりの通路のどん突きになにやらぼんやりした者の姿を確認した。
・・・この姿からしてこのモンスターは幽体系のモンスターだよ 物理攻撃はほぼ無効化してくるから魔法で倒す以外ないけど、それなら私にとってはさっきのスケルトンよりは楽だね ・・・
私は爪楊枝の剣に炎のイメージをエンチャントした。炎系の魔法は有効なモンスターが多いので、使う頻度も多くなる。ゴーストやファントムのような実体の薄いモンスターにも、もちろん有効だ。
・・・さあ、どんなモンスターなのか、ご対面だよ ・・・
私は剣を構えて通路の突き当たりに足を踏み入れた。
「私はルーシーズ・ファントム 私と戦って倒す事が出来れば経験を得る事が出来よう、それとも知識を得ようとしているのか 答えなさい小動物 」
・・・ふーん、私がジリスに見えているんだね ・・・
私は戦う必要はないので情報を引きだそうとした。だって、このモンスターを倒しても私にとってメリットはないもの。いくら経験値が大量に手に入るといっても、既に最強の私には不要なものなのだ。それに固定モンスターは一度倒すと、再生されるまで一定の時間がかかる。なので情報を優先するのは当然だ。
「ピイッ、ピイッ、ピイィィーーッ」
私はここが何処なのか、まず訊いてみた。そうすれば転移で、また来る事が出来る。
「ここはお前たちが”白桃の眠り”とよんでいるダンジョンの一部だが、隔離されたフロアのため通常の方法では来る事は出来ない テレポートのトラップにわざとかかるか、転移の魔法で指定して飛んでくる以外方法はない 」
・・・なるほど、そういう事なのか ゲームでは良くある仕掛けだね 隠し部屋みたいなものだよ という事はこのフロアに何かあるのは間違いないね ここを、きちんとマッピングして隅から隅まで調べていこう ・・・
私は罠には気をつけて調べていこうと決意して、まず新しい情報を得たのでナガトに報告しておこうと考えた。報連相は大事だからね。私が、通路を戻ろうとするとルーシーズ・ファントムが話しかけてきた。
「他に質問はないのか? 」
・・・えっ……? ・・・
私は驚いていた。通常質問は一つまでで終了。あとはいくら訊いても同じ返答しか返ってこないのが普通で、もしそのモンスターに答えられない質問をしてしまうと、そこでモンスターは消えてしまうのだが、このルーシーズ・ファントムは違うらしい。
・・・そ、それなら、”ポラリス”のメンバーが何処にいるか教えて ・・・
私は恐る恐る訊いてみた。ルーシーズ・ファントムはしばらく考えているようだったが、それは5人組の冒険者の事かと逆に質問してきた。”ポラリス”は6人パーティーとナガトに聞いている。一人は脱出出来ているので、このダンジョンに残されているのは5人だ。私は大きく頷いていた。
「それなら、このフロアの北東の位置にいる アークエンジェルと戦っているようだが、もう半数近くは倒れているようだな おっと、また一人倒れた 残りは二人のようだ…… 」
私はルーシーズ・エンジェルの言葉を最後まで聞かずに飛び出していた。私は北東目指してダッシュで向かいながら考える。
・・・アークエンジェルは天使系のモンスターだ これが白い悪魔の正体なのかも 物理耐性、魔法耐性が優れていて防御力が高いモンスターだよ 剣も魔法もレベルの低いものは全て無効化される強力なモンスターだ ゲームでは終盤に登場する手強い敵の一人に間違いない こんなのが相手だったら、勇者がいる上級レベルの冒険者パーティーじゃないと太刀打ち出来ないよ ・・・
私は一刻も早く彼らが戦闘している場所に辿り着きたかったが、まだマッピングも出来ていないダンジョンで進むのにも苦戦していた。とにかく袋小路の通路が多い。
・・・もう、ナガトや盗賊がいてくれれば ・・・
探索が得意な忍者や盗賊がいればダンジョン攻略は捗る。愚痴りながら私はようやく北東の広場のような場所に辿り着いた。その奥で確かに戦闘中の気配がする。私は爪楊枝の剣に魔力とイメージをエンチャントすると、その戦闘に飛び込んでいった。
「ピイィィーーッ 」
私の剣がアークエンジェルの体に撃ち込まれる。
ガーンッッ
しかし、私の剣はアークエンジェルに弾かれ、傷一つつけられなかった。
* * *
「ルーシーズ・ファントムを使ってうまい具合に誘導出来たな 」
「ああ、これであの小動物の力を推し量る事が出来るな 」
「念のため、もう一体アークエンジェルを用意しておけ 」
ある場所での動きが活発になっていった。機器の作動音が大きくなり、記録用のカメラが逃さないように一匹の小動物の姿を追っている。その小動物は白い巨大な悪魔に向かって怯むことなく戦っていた。




