24、迷宮に向けて
24、迷宮に向けて
私はサーシャとナガトの間で困惑していた。
「おい、小動物 ダンジョンをクリアしてアイテムを手に入れたと言ったな そのアイテムを見せろ それがクリアの証になる 」
・・・”白竜の雫”なら、もう使っちゃったよ 当たり前でしょう その為に獲りに行ったんだから ・・・
「うぬぬっ 」
ナガトは諦めきれないようで、まだ唸りながら考え込んでいた。もう私はめんどくさいから、この間に逃げちゃおうとしたらサーシャに呼び止められた。
「リースちゃん一人では無理ですが、ナガトさんが一緒に行ってくれるなら受注可能ですよ ナガトさんはAAA級の冒険者ですからね 」
考え込んでいたナガトがパッと顔を上げる。
「何っ? 早く言え、サーシャ それなら私が一緒に行こう それで問題ないんだな 」
「ええ、それなら規定上、何も問題ありませんよ でも今まで絶対パーティーを組まなかったナガトさんが良いんですか 」
「私は自分より弱い者とはパーティーを組みたくなかった それだけだ なら、サーシャ この中で一番報酬の多いクエストを選んでくれ 」
「かしこまりました 」
サーシャは一枚のクエストを選びナガトに渡していた。その様子を見ていた周囲の冒険者がざわついていた。
「ナガトがパーティーを組む? あの小動物は何者なんだ 」
「俺がパーティーに誘った時はあっさり断られたぞ 」
「リースちゃんが可愛いからじゃないの きっと動物好きなんだよ、ナガト 」
「あの小動物と一緒にいたイケメンの彼はどうしたのかしら まさか、戦死…… 」
「いや、俺、昨日酒場で一緒にいるの見たぞ その時、超絶美形の女戦士も一緒にいた 俺、彼女とパーティー組みたいよ 」
なんだか色々言われているけど、まあいいか。とにかくクエスト受注出来たし。ナガトはさっさと出ていこうとするので、私もチョロチョロと後をついて行った。
「リースちゃん、そのクエスト かなりレベル高いものだから無理しないで気をつけて 」
サーシャがカウンターから私に声をかけてきた。
「ピイィィーーーーッ 」
私は、ありがとうとサーシャに手を振っていた。
* * *
・・・ありがとう、ナガト 助かったよ それで、早くクエストの内容教えてよ ・・・
私はワクワクしてナガトにせがんでいた。
「ああ、このクエストは”白桃の眠り”という迷宮でガーゴイルやダークデーモンを倒していると稀に手に入る”憤怒の石仏”を持ち帰るとある 報酬は1000万グルトだ 」
・・・1000万っ! ・・・
私は飛び上がっていた。それだけあれば二人で半分に分けても宿屋の屋根の修繕費が出せるよ。これは何としてもクリアしなければ……。ガーゴイルとダークデーモンって悪魔の一種だよね。弱くはないけど強くもないと思うけど……。ゲームでいうと中盤から終盤辺りに登場するモンスターだ。普段は石像で人間が近付くと動き出して襲ってくる悪魔だよね。私は頭の中で復習していた。何でもそうだけど事前の情報集めは重要。それが仕事の成否を分ける場合もある。それにしても悪魔が出る迷宮の名前が”白桃の眠り”って随分可愛いように感じるけど……。
・・・ねえねえ、なんでダンジョンの名前が”白桃の眠り”なの ・・・
私はナガトに訊いてみた。
「桃の花言葉を知っているか 」
・・・へっ…… 純心とかじゃなかったっけ ・・・
「そうだな、白桃はそうだ 桃は? 」
・・・ええっ、知らないよぅ ・・・
私は、桃は清楚で純粋なイメージだったけど他に何かあるのと考えてみるが、何も浮かんでこない。
「桃の花言葉は”天下無敵”だ この”白桃の眠り”のダンジョン内では白い悪魔が突然出現する場合がある その白い悪魔の強さは天下無敵 そいつに出会ってしまった冒険者は、殺された事もわからず眠るように死んでいくという意味だ 奴に出会ったら即時撤退が冒険者の常識だ 運が良ければ逃げられるという訳だが、このモンスターを倒せれば”憤怒の石仏”は必ず手に入ると噂されている」
なるほど強力なレアモンスターを倒すか、モンスターを倒しまくってレアアイテムを手に入れるかだね。これは報酬が高いのも頷けるよ。それにサーシャが高レベルと言っていたのも頷ける。このダンジョンは長く潜っていなければならない。レアモンスターに出会うのが早いか、レアアイテムを手に入れるのが早いか。持久戦になるのは間違いない。私は気持ちを引き締めた。
「あれ、ナガトさんじゃないですか 」
「クエストですか? どのダンジョンへ? 」
「そのリス、ナガトさんのペットですか さすがにソロじゃ寂しくなりましたか 私なら何時でも組んであげるのに…… 」
「そうですよぉ そんなリスより、私ならナガトさんが怪我してもすぐ癒してあげますよ 」
突然6人編成の冒険者パーティーに声をかけられ、その中のプリーストとおぼしき女性が色目を使ってくる。さすがAAA級の冒険者ナガトは有名らしく人気もあるようだ。しかし、悲しいかな私はただの小動物と思われていた。
「お前ら、このリースがただの小動物に見えるのか だから、お前らは一流になれないんだよ こいつはペットなんかではない 私のパーティー仲間だ 」
ナガトの言葉に冒険者たちは、目を丸くしていた。
「私たちは”白桃の眠り”に急ぐので失礼する 」
ナガトが彼らの脇を通り抜けようとすると、先程の色目を向けていたプリーストが、待って下さいと呼び止める。
「”白桃の眠り”は今、探索禁止ですよ 」
「探索禁止? 組合ではそんな事言っていなかったぞ 」
「組合ではまだ情報を把握していないんだと思いますよ 私たちも、ついさっき別の冒険者から聞いたんです ”ポラリス”のメンバーの一人が半死半生で”白桃の眠り”から出てきたそうです 他のメンバーの安否は分かりません それで現在ダンジョンを閉鎖しているようですよ 」
「”ポラリス”が? 彼らはAA級の冒険者パーティーだぞ ”白桃の眠り”は白い悪魔にさえ出会わなければ、彼らなら問題なくクリア出来る筈だ もし、出会ってしまったとしても彼らなら逃げる事が可能だろう その生還したメンバーの名前は? 」
「ごめんなさい 私も人から聞いただけで詳しくは…… 」
・・・どうしたの、ナガト 焦っているようだけど ・・・
「”ポラリス”は私の幼馴染みたちのパーティーだ 私は協調性に欠けているようで参加しなかったが、彼らがこのレベルのダンジョンで安否不明になるなど信じられん 」
・・・協調性に欠けてるって、ちゃんと自分で分かってるんだ ・・・
私は偉いじゃんと思っていたが、ナガトは私を見ると緊張した声で言う。
「急ぐぞ、”白桃の眠り”に向かう 準備が整ったらこの噴水の前に集合だ 」
・・・準備? 私、このままで大丈夫だけど ・・・
「ふざけてんのか、貴様 迷宮に入るんだぞ ポーションや薬草、水、食糧、最低限これらの物が必要だろう 」
・・・へっ、だって転移で戻ればいいし、回復だって出来るし、問題ないよ ・・・
「うぐっ…… まあいい それならすぐに向かうぞ 今回は急ぐからな、貴様の力を信じてやる 」
ナガトは私を抱き抱えると風のように走り出した。それはまるで本当に風に乗っているようだった。




