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23、クエスト


23、クエスト



 ボルタックの酒場に戻った私たちは、またお酒を飲み始めた。


「キノコさんを称える詩を創ったのですよ それを披露します イブさん、いきますよ 」


 ギュスターヴがイブリースを連れ出しステージに上がる。二人がステージに上がると途端に女性客の歓声がわき起こった。凄い人気だ。コイツら、これで食べていけるんじゃないのと思ってしまう。


「キノコ、キノコ、その名はキノコォォォーーッ 小さな体で天下無双ぅぅぅーーっ、かかって来なさい、悪者ども、私は絶対許さないぃぃーーっ、私はキノコォォォーーッ 」


 イブリースがシャウトして、ギュスターヴがギターリフ、いやリュートリフとでもいうのか、その超絶テクニックで大いに盛り上がっている。


・・・な、なにこれ…… ・・・


 私は、もう恥ずかしくて逃げ出したくなっていたが私の目の前でナアマまでが一緒になってキノコ、キノコと叫んでいる。そのうちにボルタックの酒場全体がキノコの大合唱になっていた。


・・・やめてぇ、誰か助けてぇ ・・・


 私は耳を塞ぎたかったが悲しい事に手が届かない。それから小一時間程、熱唱していたイブリースとギュスターヴはさすがに疲れたとみえてテーブルに戻ってきた。


「どうですか、キノコさん あっ、いやリースさん 私は各地でこの詩を披露して廻ります 世界に、その名を広めていきますよ リースさんの想いを早く叶えられるように私も頑張りますよ 」


・・・あ、ありがとう ギュスターヴ でも少し恥ずかしいかな ・・・


「いや、恥ずかしがる事などありませんよ だって、これは真実なのですから それに私は吟遊詩人 私にとって、こうして胸を張って自分から詠える事は最高なのです 強制的に詠いたくない詩を詠わされて世間に広めるよう命令されたりもしますからね 」


 ギュスターヴにそう言われると、もう反論など出来ないよ。私は、まだ私の知らない世界で、私の名前が連呼されている様子を想像して、穴を掘って入りたくなっていた。



 * * *



 翌日、朝一でギュスターヴは旅立っていった。ギュスターヴを見送った後、イブリースとナアマも一旦戻ると言ってきた。これから私と一緒に冒険する為、留守の間の指示を出してくるという。社長が長期出張で不在になるようなものだ。それは大事なことだよね。うちの社長も年に一回は海外に出かけていたから、その間は常務も専務もいつも以上に張り切っていたし、部長や課長も必死になっていた。そりゃ、社長のいない間に業績を落とす訳にはいかないからね。私たち平社員もピリピリしていたよ。私はナアマの城で見かけたグレーターデーモンたちを思い浮かべていた。


・・・大変だよね、宮仕えは ナアマ、怒ると怖そうだからね ・・・


 私は、コロナ禍で業績が落ち込んだ時の社長の大声を思い出していた。まさに雷と呼ぶに相応しい怒声だった。こんな全体が落ち込んでいる時にこそチャンスがあるんだ。周りが落ちているから仕方ないでは駄目なんだよ。社長の言葉が思い出される。私は、それからこの社長の言葉をよく思い出していた。そう、仕方ないなんて言い訳だ。そこに何かを見いだす事が重要なんだよ。私はナアマと社長を重ねて、つい笑みが零れていた。


 一時的に一人になった私は天井のない宿屋の部屋で青空を眺めていた。一人だからってゴロゴロしていたら時間が勿体ない。私は人間より寿命が遥かに短いのだから、考えて行動しないといけない。取り敢えず、この宿屋の屋根の修繕費をなんとかしないといけないよ。私は、ガバッと起き上がると冒険者組合に行ってみる事にした。言葉の問題はあるがなんとかなる。初めての海外旅行で、外国語が分からず、それでもボディランゲージでやり通した経験がある。そう、要は気持ちの問題だ。言葉がなくても意味は通じる。私は、その時の経験を思い出し意気揚々と冒険者組合に向かっていた。勿論、今回は剣ホルダーに爪楊枝の剣を差している。私は颯爽と走っていた。


 冒険者組合に入った私はカウンターに飛び乗って前回と同じ受付嬢の前に立っていた。


「あら、リースちゃん いらっしゃい 」


 受付嬢は笑顔で私を迎えてくれた。


・・・良かった、憶えていてくれたんだ ・・・


 私は、早速ボディランゲージで私一人でも受注出来るクエストはないかと伝えようとしたが、受付嬢は首を傾げるばかりで伝わってくれない。私は、黒く長い爪で自分を指差し、爪楊枝の剣を振ってみせるが受付嬢はポカンとした顔をしている。


「ピイ、ピイ、ピイィィィッ 」


 私は必死になって体を動かすが伝わらない。私はボディランゲージといっても、それは人間同士の場合でしか意味をなさないと気付き、がっくりと肩を落としていた。


「サーシャ、この小動物は一人で受注出来るクエストを探している ソロ可能なクエストも幾つかあるだろう まわしてやってくれ 」


 突然の助け船が現れて私は、うるうるした瞳で振り向いた。そこには黒装束の忍者がいた。受付嬢サーシャは、少し待っててリースちゃんと言い奥の部屋に入っていった。


・・・ナ、ナガト ありがとう でも、どうして ・・・


「ふん、私もクエストを受注に来ただけだ そうしたら一人で騒いでる迷惑な小動物がいたものでな 」


・・・別に騒いでるつもりはなかったけど、ありがとう、ナガト 助かったよ ・・・


「他の奴らはどうしたんだ 通訳がいなくては何も出来ないだろう 」


・・・ギュスターヴは、もう旅立ったよ 彼は全世界を廻るのが夢だからね 他の二人は一度戻って冒険の準備を整えているんだよ ・・・


「それで、一人か…… 」


 ナガトが納得してくれた時、受付嬢サーシャが戻って来た。


「ごめんなさい、リースちゃん ソロ討伐可能なクエストもあるんだけど、みんな高レベルのものなの リースちゃんはまだランクが低いから、ごめんなさいね 」


 サーシャは頭を下げていた。


「ピ、ピイィ 」


 私もがっくりと項垂れた。確かにまだ実績が少ないから仕方がない。社会人である以上、ルールを破ってはいけないよ。


バンッ


 突然、カウンターを叩く音が響いた。こらこら、ナガト。そんな事したらパワハラ案件だぞ。私が睨み付けるがナガトは信じられないというように体を震わせている。


「この小動物のランクが低い? そんな馬鹿な事が信じられるか 少なくてもAAA級(トリプルエー)の力はあるぞ いや、それ以上だろう サーシャ、どういう事だ 」


「リースちゃんは、まだ冒険者に登録したてで、まだ実績が少ないんですよ ですから、受注出来るのはDランクのクエストだけになります 」


「こいつは、あの灼熱の迷宮をクリアしているんだぞ その実績があればDランクなどあり得ないだろう 」


 ナガトの言葉で組合にいた冒険者たちがざわつき始めた。


「灼熱の迷宮をクリア? そんな事、どう考えても不可能だろう 」


「あそこは人間のクリア出来る迷宮じゃない ましてや、あんな小動物が…… 」


「ああ、浅い階層からとんでもないモンスターが現れる迷宮だ 国家レベルの討伐隊を組まなければ先に進むのも困難だ 」


・・・ナアマのダンジョン、酷い言われようだ ナアマがいなくて良かったよ ・・・


 私は、ナアマが激怒する姿を想像してぶるぶる震えていた。


「ナガトさんのお言葉でも、それを証明する物がなければ承認出来ませんよ 」


 サーシャもさすがにプロの受付嬢だ。その毅然とした態度は社会人として見習うべきものだよ。しかし、ナガトも興奮して治まらないようだ。


・・・こいつ、いい奴なんだけど 直情径行でホントめんどくさい奴だなぁ ・・・


 私は二人の間に入って困惑していた。




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