21、友人たち
21、友人たち
・・・もう駄目だっ ・・・
いくら考えても私に逃げ道はない。左右に跳んでも、上空に逃げても、全てタンジンの術の範囲内だ。唯一、地面に穴を掘って身を隠すという手があるが、いくら私がジリスで穴を掘るのが得意と言っても爆発までの間に、身を隠せる程の穴を掘る時間はない。
・・・剣を持ってくれば良かったよ ・・・
私は自分の失態に、大事な提出書類で確認を怠り盛大な誤字脱字を犯し顰蹙を買った事件を思い出していた。
・・・剣があれば、風のイメージをエンチャントしてタンジンの術など吹き飛ばせるのに ・・・
私はダメージを最小限に抑える為、体を小さくして丸くなった。
・・・みんな、ごめんなさい 私、死んだかも ・・・
人間の体ならともかく、ジリスのこの小さな体で、あの火薬量の爆発に耐えられるのか。でも、最後まで諦めない。私には、無理な納期や厳しい見積りの値引きにも負けずに対応して頑張ってきた自信がある。爆発に耐えていれば、誰かがその音に気付く筈だ。
・・・いくら酒場がうるさくても気付くよね ・・・
私は多少不安になったが、それ以外手はない。とにかく耐える。私は歯を食いしばった。もう爆発は私の目の前まで迫ってきている。次の爆発で私は吹き飛ばされる。私は忍者を睨み付ける。
・・・くるなら来い ・・・
その時、聞き覚えのある音色と波動が私の周りに拡がった。忍者のタンジンの術が、かき消されたように消えている。忍者は間髪入れず手裏剣を飛ばしてくるが、それも私に届く前に打ち落とされていた。
「無駄ですよ。あなたの攻撃はもうキノコさんには届きません 」
ギュスターヴだった。ギュスターヴがリュートを奏でて波動を発している。ダンジョンでサラマンダーの攻撃を防いでいた技だ。
「酷いですよ、キノコさん 私の送別会なのに一人で先に帰ってしまうなんて 」
・・・えっ、えっ、違うよ 酔いざましに夜風に当たっていただけだよ ・・・
私は、ごまかそうとするがギュスターヴはニコリと笑う。
「そういう事にしておきますか キノコさん、私は嬉しかったですよ 改めてお礼を言わせて下さい ありがとうございました 私の吟遊詩人のようなサポートジョブというのは下に見られる事が多いです きちんとこなして当たり前 クエスト失敗とかになると責任はサポートである私たちに向かいます 回復が遅い、バフが足りない、デバフをきちんとかけろ等ですね そして、サポートが倒れても誰も気にしない 逆に使えない奴と思われるのが関の山です そんな中でキノコさんは私の命を救ってくれた そして、私の我儘でパーティーに参加出来ないと言ってもキノコさんは送別会まで開いてくれた 私は今まで数多くのパーティーに参加した経験がありますが、パーティーを離れる時、送別会など開いてくれたパーティーはありませんでした キノコさんがお店を出ていったのは、みんな気付いていましたよ 元気のない顔をしていましたのでお酒を飲んで昔の事を思い出したのかと思いました そういう時ってありますからね 一人になりたいのかなと…… でも、すぐに戻って来られるかと思ったのですが、なかなか戻らないので心配でみんなで探しに出たのです 」
ギュスターヴの言葉に私はまた涙が出てきた。
・・・みんな、いい奴過ぎるよ 私には、こんなに良い人たちが友だちとしていたんだ ・・・
私は感激していたが、飛び道具も術も効かないと悟った忍者は背負っていた刀をすらりと抜く。
「聖刀”蛍丸” よもやこの刀を抜く事態になるとはな 覚悟しろ、貴様の波動ごと切り裂いてやる 」
・・・名刀”蛍丸” 聞いた事があるよ 刃こぼれしても自動で修復される伝説の名刀だ ・・・
忍者は”蛍丸”を構えて、じりじりとにじり寄って来る。しかし、ギュスターヴは余裕の表情だった。
「本気になるのが、少し遅かったですね もう、あなたは逃げられませんよ 」
「逃げる? 私が逃げるだと…… うおっ…… 」
忍者の頭上からいきなり稲妻が落ちてきて、忍者は間一髪避けていた。稲妻が落ちた地面がブスブスと焦げ、煙が出ている。直撃していればただでは済まなかっただろう。
「ほう、僕の”サンダーボルト”を回避するとはね 少しは出来るようだね マスターと呼ばれるのも納得出来るかな 尊敬に値するよ だけどね、キノコさんに働いた無礼は許す訳にはいかない 」
「貴様、これほどの魔法に、その気配 人間の姿をしているが人間ではないな あの時の魔王か 」
忍者は形勢不利とみて、イブリースを睨みながら撤退の準備をしているようだ。いきなり、煙玉をイブリースの前に投げつけ煙幕を張る。でも、さっきギュスターヴが言ったよね。もう、逃げられないと……。だって、この周りはもうナアマの結界で閉じられてしまっているんだもの。
「私の大切な友人、キノコにした無礼 私も許せんな 覚悟して貰おう 魔法剣士アシャが貴様に引導を渡してやる 」
・・・ナアマ、すっかりアシャに成りきってるよ ・・・
「私の焔の剣”レーヴァテイン”で焼き尽くしてやる 」
ナアマの持つ焔の剣”レーヴァテイン”が紅く激しく発光する。
・・・かっこいい…… ・・・
ビキニアーマーで”レーヴァテイン”を構え、忍者を睨み付けるナアマの姿は、あまりに格好良すぎて私は目を奪われていた。
・・・私があんな姿で転生していたら、あんな事もこんな事も出来るのに…… ハーレム万歳、ぐふふっ ・・・
私はまた邪な考えを抱いていた。
「キノコさん、心が漏れていますよ 」
イブリースの言葉で私はハッと気付く。
・・・もう、こいつ嫌い うっかりエッチな事も考えられないよ ・・・
私は膨れていたが、ナアマはすでに忍者を追い詰めていた。それは当然だ。魔王であるナアマに、勇者を含んだパーティーならともかく、いかに忍者マスターでも一人では手も足も出ないだろう。
「口ほどにもない 聖刀が泣くぞ ほうら、もう終わりか 」
ナアマはいたぶるように急所を外して忍者に傷を与えていた。
「ふざけるな、私がここで倒れても人間は悪魔になど屈服はしない 必ず貴様らを倒してくれるだろう それまで、良い夢を見ていろっ 」
忍者は傷だらけになりながらも大口を叩いていた。私はイブリースから爪楊枝の剣を受け取り。ナアマに声をかけた。
・・・ナアマ、ここからは私にやらせて ・・・
ナアマは私の顔を見るとあっさりと譲ってくれた。
「そうだな、キノコ本人が一番頭にきているだろうからな 」
私は爪楊枝の剣を構えると、忍者に向かって走り出した。走りながら魔力を剣にエンチャントする。
「ピイィィィーーーッ 」
私はジャンプして忍者に向かって剣を振り下ろした。忍者は聖刀”蛍丸”で私の剣を受ける。
ギャーーーン
私は体ごと弾かれて飛ばされていた。
「ふん、あの女剣士ならともかく貴様のような小動物に遅れをとる私ではない 」
忍者は聖刀”蛍丸”を構えながら私を睨み付けていた。




