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20、忍者の襲来


20、忍者の襲来



 ギュスターヴには正直に今までの経緯を話した。彼なら分かってくれると思ったからだ。案の定、彼は私の話を信じ、理解してくれた。


「私は各地を旅しています 魔王に滅ぼされた街も数多く知っていますし、その廃墟を訪れた事もある 魔王が人間にとって恐怖の対象であり、排除すべき悪魔であると認識している者がほとんどでしょう ですが、キノコさんたちは私の命を救ってくれました 私の命の恩人の言葉です 私も命に賭けてあなたたちを信じましょう ですが、私は吟遊詩人 申し訳ありませんが、キノコさんたちと一緒に行動するのは難しいです 私は各地を廻ってキノコさんの武勇を詩にして広めていきましょう 」


 ギュスターヴは私たちとパーティーを組んで行動するのは難しいようだった。吟遊詩人がそうなのか、彼の性格がそうなのか、それとも両方なのか。それは、分からないが仕方がない。無理にパーティーに加えても彼には不満が残るだろう。そんな状態では本来の力を発揮出来ず、命に関わるかもしれない。惜しい人材であるけれど、私はすっぱりと諦める事にした。


・・・分かった、ギュスターヴ それじゃ長い間、この街に留まらせてごめんなさい それで、何時出発するの ・・・


「ええ、明日には立とうと思います 」


「なんだ、それじゃ今夜が最後か よし、じゃあ酒場に行ってギュスターヴの送別会をやろう キノコは飲めるのか 」


 魔法剣士アシャ=ナアマが私を振り向く。


・・・飲めるよ、お酒大好き ギュスターヴ、いい? ・・・


「勿論ですよ 酒場は吟遊詩人にとって活躍の場じゃないですか 」


「ふふっ、それでは僕の美声も披露して差し上げますよ 」


 珍しくイブリースも乗り気だ。みんな、お酒が好きなんだ。お酒の好きな人に悪い人はいない。私は、自信を持ってそう言おう。


・・・よーし、それじゃ出発ぅっ ・・・


 私の号令で、私たちは酒場に向かって意気揚々と突撃した。



 * * *



 前言撤回だ。酒飲みにも悪い奴はいる。酒に呑まれる大馬鹿者だ。人間の魔法剣士アシャに変身しているナアマに、酒に酔って絡んでくる輩のなんと多い事か。まったく嘆かわしい。みんな、ナアマのビキニアーマーに包まれたダイナマイトボディにメロメロだ。まあ、人間の男なんてナアマにかかれば一捻りだ。心配する必要はないのだが、ひっきりなしにテーブルにやって来てナアマに媚を売る男たちはウザ過ぎるぞ。こういう時にイブリースがギロッと威しをかけてくれれば良いのだが、彼はさっきからギュスターヴのリュートの伴奏で歌いっぱなしだ。そして、イケメンのイブリースには女性客のやんやの喝采が浴びせられている。ギュスターヴも楽しそうにリュートを奏でている。なんの事はない。やっぱり私は所詮ジリス。人間ではない小動物だ。人間に混じっても誰からも相手にされない。私は一人でペロペロとグラスに入れて貰ったお酒を飲んでいたけど、なんだか涙が出てきた。


「ピ、ピイ…… 」


 私は、そっとテーブルの上から降りると酒場の外にとぼとぼと出ていた。そして、星を見ながら会社の送別会や忘年会を思い出していた。私はよく幹事を任されてお店の予約や座席割に苦労したものだ。特に座席割りは、それを間違えると会そのものがぶち壊しになるほど重要な要素があった。そして、どんなに気を使っても文句を言われるものだった。


・・・ほんとヒドイよね 人に任せておいて文句ばかり ・・・


 私は会社のみんなの顔を久しぶりに思い出していた。


・・・懐かしいなぁ、みんな元気かなぁ 私が死んじゃって、みんな悲しんでくれたのかなぁ ・・・


 一度、溢れだした涙はもう止まらなかった。


・・・今思うと私、前の世界で結構幸せだったのかも ・・・


 私は涙で滲んだ星を見ながら一人でとぼとぼと歩いていた。夜風が気持ちよく頬を撫で私の流した涙を乾かしていく。酒場に戻ろう。私はそう思った。私がいなくなったらナアマやイブリースがきっと心配する。間違いなく探し回るだろう。


・・・何、一人でいじけているんだよ、私は…… ・・・


 私はもうこの世界の住人なんだ。それにナアマやイブリースという友だちもいるじゃない。寂しがる事なんかない。うじうじしていないで自分から飛び込んでいけばいいんだよ。そう思うとすぐにでもナアマの顔が見たくなってきた。私は酒場に向かってチョロチョロと走っていた。その時だった。私はいきなり蹴り上げられていた。物凄い衝撃が私の体を襲う。


「ピイィィッ 」


 私の体は宙に浮き、地面に叩きつけられた。私は痛みをこらえて立ち上がると辺りを見回してみたが人影は見えない。私は決して油断していた訳ではない。それなのに全然気配を感じなかった。さらに注意して周囲を見ると朧気な気配がある。その気配が殺気を持って私を襲ってきた。


「ピ、ピイィィッ 」


 私はその攻撃をなんとか避けたが、連続して次の攻撃が襲ってくる。


・・・なにっ、何者なの ・・・


 私は攻撃を避けるだけで精一杯になっていた。お酒飲むのに必要ないだろうと爪楊枝の剣は置いてきてしまった。なんだか分からないけど私は襲われる理由などない筈だ。この世界に来て間がないし……。いや、でも南の大陸の人間なのかな。私は考えながら必死に攻撃を避けていたが、今度は私に向かって何かを投げてきた。


シュタタタタタッ


 連続で地面に突き刺さる物を見て私は襲ってくる相手が何者なのか理解した。地面に刺さっていたもの。それは手裏剣。忍者の使用する武器だ。手裏剣も避けた私を見て、忍者は警戒を強めたようで小袋から粉のような物をばら蒔いていた。


・・・不味い、これ知ってるよぅ、タンジンの術だ ・・・


 広範囲が爆発する術だ。さっき撒いた粉は火薬だろう。


「ピイィィッ 」


・・・ちょっと待って なんで私を狙うの ・・・


 私は両手を上げて忍者に向かって叫んでいた。


「ほう、この術がどんなものか分かっているようだな 貴様こそ何者だ 」


・・・私の言葉が分かるの? ・・・


「当然だ 私は忍者マスター 動物の言葉が解らなければ山や森、林に潜む事は出来ない それより、答えろ 貴様は何者だ あの時、魔王と共に女の子、カレンを殺そうとしていただろう また、カレンを狙って来たのか 」


 私は忍者の言葉で思い出した。


・・・そうか、カレンを助けた黒装束の男が、この忍者マスターなんだ ・・・


 私はそれは誤解だと説明しようとするが、忍者は問答無用でタンジンの術を発動する。カチッと火花が飛び、それが火薬に引火し私の周りで次々に爆発が起こり、私に向かって迫ってくる。


・・・忍者の術は魔法ではない 物理攻撃だよ この広範囲では逃げ切れない ・・・


 私は進退窮まっていた。このままでは火薬の爆発で大ダメージを受けてしまう。そこへ忍者は新たに火薬を振り撒いた。周囲に漂う火薬の量が増え、さらに破壊力が増す。私は小さな頭で必死に打開策を考えるが、そんな都合のいいものは浮かんでこなかった。


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