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18、魔王の城


18、魔王の城



「キノコさん、落ち着いて もう奴は消滅した 」


「えっ…… うん…… 」


 イブリースに体を揺さぶられ、私はようやく正気を取り戻していた。


「あの絶対魔法防御の甲冑毎、敵を消し去るなんて改めてキノコさんの力には敬意を表しますが、急ぎましょう」


・・・急ぐ? 何を? ・・・


「ナアマですよ 急がないと本当に消失します 」


・・・ナアマ、まだ生きてるのっ ・・・


 私はイブリースの言葉に、嘘だったらただじゃおかないと睨み付ける。


「ナアマが言ったでしょう 命を賭けると 命を捨てるとは言っていない 聖剣で受けた傷は放っておくと確かに完全に消滅してしまいます ですが、その前に自分の魔素の濃い場所で、然るべき処置をすれば回復する事が出来ます ナアマはキノコさんに言葉通り賭けたのですよ キノコさんなら、あの騎士を時間をかけずに自分が完全に消滅してしまう前に倒してくれると信じて自分の命を一度捨てたのです そして、キノコさんはナアマの思っていたよりも早く、あの騎士を瞬殺してくれた この状態なら、かなりの確率で復活出来るでしょう だから、急ぎますよ ナアマの魔素が濃い、ナアマの居城に行きます 」


・・・ま、待ってイブリース 私、行った事ない所には転移出来ないよ ・・・


「僕の意識を読み取って下さい さあ早く 」


 私は恐る恐るイブリースの頭に手を触れ、彼の意識を読み取る。私の頭にもナアマの居城のイメージが流れ込んでくる。私は急いで魔力を剣にエンチャントし、ナアマの居城に転移した。


・・・これは…… 凄いよ…… ・・・


 私は言葉がなかった。まるでノートルダム大聖堂のような荘厳さが漂っている。石造りで天井は高く巨大な窓には悪魔を象ったようなステンドグラスが嵌め込まれている。


・・・ナアマは本当に魔王なんだ ・・・


 私は改めて思っていた。こんな凄い居城に住んでいる魔王ナアマ。本当なら私なんかが迂闊に話す事も出来ない雲の上の存在なのだと思い知った。居酒屋で意気投合した気のいいおっちゃんが、実は大会社の社長だったみたいな衝撃だ。


「キノコさん急ぎますよ ナアマの魔素が濃いのは玉座の間か寝室のベッドでしょう ここからなら寝室が近い 行きましょう 」


 イブリースがずんずんと走り出す。でも何でナアマの寝室の場所なんて知っているの。私は邪な考えで顔を赤らめていた。イブリースはそんな私の妄想など我関せずという感じで進んでいく。そして、豪華で綺麗な扉の前で立ち止まると、ドアノブに手をかけた。


「お待ち下さい、イブリース様 そこは御存知でしょうが、我らが魔王ナアマ様の寝室でございます ナアマ様が招き入れた殿方以外入ることは、ままなりません 」


 突然、声がかかり振り向くと、そこには如何にも悪魔然とした魔物が二体、こちらを見ていた。


・・・グレーターデーモン 悪魔の中でも上位に位置する種族だよぉ どおするの、イブリース 揉め事を起こしている時間はないよ ・・・


 が、私の考えとは裏腹にイブリースはちょうど良かったとグレーターデーモンに命令する。


「いいか、今この城にいるナアマの側近を出来るだけ多く集めろっ そして、ここに連れてこいっ 急げっ ぐずぐずするなっ 」


 イブリースの物凄い剣幕にグレーターデーモンは震え上がり、はい只今と駆け出していた。そして、イブリースは扉を開けようとするが、ロックされているようでイブリースが”解錠”の呪文を唱えても扉は開かなかった。


「あの馬鹿、寝室に結界を張ってやがる 何か見られたくない物でもあるのか キノコさん、寝室の結界毎この扉を斬って下さい 」


・・・ええっ、結界を斬るなんて出来るの? それにナアマ、自分の寝室に入られたくないんじゃ ・・・


「キノコさんの魔力があれば断ち斬れますよ それに今は緊急事態です いくらアイツが馬鹿でも文句言いませんよ 」


・・・ううっ、本当だよね 後でナアマに怒られたりしないよね ・・・


「大丈夫ですよ もしナアマがキノコさんを怒ったりしたら、僕がナアマを殺します 」


 私は思わず硬直してしまった。コイツら、本当はどういう関係なの。でも、そんな事をゆっくり考えている暇はない。私は急いで剣に魔力をエンチャントした。そして、扉の向かって構えると大上段から剣を振り下ろした。


ピキィィィーーン


 何かが砕けるような音と共にナアマの寝室の扉も断ち斬られ崩れ落ちていた。


「早く中にっ 」


 イブリースは寝室に突入して行く。私も後に続いて飛び込んでいた。


・・・うわあぁぁっ ・・・


 私は思わず声を上げていた。ナアマの寝室は絵本の世界のようなメルヘンチックな感じで溢れていた。虹色のカーテンや切り出した丸太をそのまま置いたようなテーブル。これが魔王ナアマの寝室とはとても思えない。私も思わず瞳をキラキラさせていたが、一つだけこの部屋に不釣り合いな物があった。黒い不気味な柩だ。それが部屋の中央にでーんと置いてある。


・・・どうして、これだけ場違いな物が置いてあるの ・・・


 私は不思議に思ったがイブリースはその柩を開けると、空間からナアマの頭と体を取り出し柩の中に横たえる。


「このナアマのベッドには、彼女の魔素が多く残っているから、ここで魔力を与え続ければナアマは復活します 」


・・・こ、これベッドだったの ・・・


 私は驚いたが、魔力なら私に任せてと胸を張って前に出る。しかし、イブリースに止められた。


「すいません、キノコさん ナアマの復活には魔族の魔力が必要になるのです それをナアマが復活するまで浴びせ続けなければなりません 聖剣の力というのは絶大なのです 後は僕たちに任せてキノコさんはコーヒーでも飲んで待っていて下さい 」


 イブリースは寝室の呼び鈴でメイドを呼ぶと最高のコーヒーを用意しろと伝えた。その時、イブリースに指示されたグレーターデーモンが戻って来た。グレーターデーモンの後ろにはゾロゾロと魔物が続いている。アークデビル、ヴァンパイアロード、フラック等々、続々とナアマの寝室に入って来る。


「これは、どうした事だ ナアマ様が…… 」


 柩に横たわる首を切断されたナアマの姿を見て配下の魔物たちは声を上げる。


「いいかっ、これから24時間休みなしに交代で魔力をナアマに送り続けろっ 急げっ 」


 動揺するナアマ配下の魔族たちを一喝し、イブリースもナアマに魔力を注ぐ。私は何も手伝う事が出来ず、みんなの足下をチョロチョロと走り回っていた。


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