16、灼熱の迷宮7
16、灼熱の迷宮7
私の目前に騎士の聖剣”アスカロン”が迫る。私は魔力をエンチャントした爪楊枝の剣で、それを受けようとした。
「ダメだっ、キノコさん 竜殺しの聖剣”アスカロン”は並の剣では受けられないっ 避けて下さいっ 」
イブリースが私に向かって叫ぶが、もう騎士の斬撃を避ける間はない。聖剣”アスカロン”の斬撃を私は爪楊枝の剣で受けていた。
ガキィィーーーーン!
鈍い音が響き”アスカロン”の斬撃は私の爪楊枝の剣で止められていた。
「なにっ……? 」
騎士は、信じられないと私に向かって次々に剣を振り下ろすが、それは悉く私の剣で止められていた。
「あり得ない そんな爪楊枝のような剣が私の聖剣”アスカロン”と同等以上だと言うのか そんな馬鹿な話があるものか 」
・・・あなたにとってこれはみすぼらしい剣に見えるでしょうね でもこの剣はイブリースが私の為に、私の体の大きさや色々な事を考えて用意してくれた大切な剣 イブリースは私の為にヒントもくれた 剣に魔力をエンチャントする この剣を、ただの剣だと思っていたら大怪我しますよ ・・・
騎士は一旦退いて聖剣を構える。さすがに少しばかり警戒したようだ。
「キ、キノコさん…… 」
私を見るイブリースは、うるうるした瞳でその後の言葉が続かなかった。ありがとうと続いてくれれば嬉しいが、イブリースの事だ、いやそれは適当に選んだただの爪楊枝ですよ。100本以上入っていて格安ですからねと詰まらなそうな顔で言いそうだ。でも構わない。私にとってイブリースやナアマは、もう大切な友人だ。必ず守ってみせる。
「ピイィィィィーーーッ 」
今度は私から騎士に向かって飛び出して行く。小動物の機敏さを舐めてはいけない。
・・・人間の動体視力で捉えられますか ・・・
私は左右にチョロチョロと駆け回り、騎士の死角をついて攻撃を加える。が、さすがに歴戦の騎士なのだろう。私の攻撃を聖剣”アスカロン”で防いでいる。
「ふざけるなぁっ、いくら魔力をエンチャントしようと我が聖剣”アスカロン”が負ける筈があるかぁっ 」
騎士は激高して斬りかかってくるが、私は爪楊枝の剣でそれを受ける。
・・・種明かしをしてあげましょうか 私は、私の剣に魔力とイメージをエンチャントしました 聖剣”ラグナロク” あなたも御存知でしょう あの聖剣”エクスカリバー”の原形になった古の聖剣ですよ 今、私の剣は聖剣”ラグナロク”なのですよ その”アスカロン”と遜色ないと思いませんか ・・・
「馬鹿な…… 聖剣”ラグナロク”だと、そんな剣はもうとっくに失なわれている あり得ない…… 」
・・・信じようと信じまいとあなたの勝手 ですが、あなたの”アスカロン”で私の剣を砕けない現実をどう捉えますか ・・・
「ぬうっ、致し方あるまい 体に負担はかかるが、聖剣”アスカロン”の力を全て解放する 本物と紛い物の違いを思い知るがよい それに、その剣が聖剣”ラグナロク”だとしてもオリハルコンの私の甲冑にダメージを与える事は叶わないのだ 」
騎士の持つ聖剣”アスカロン”に凄まじい気が集まっていく。
・・・これは少し不味いかも ・・・
私はイブリースを振り返り、もう一本剣をと伝える。イブリースがすぐに爪楊枝を投げてきた。私はそれをガシッと受けとる。ファイヤースライムを倒した時の二刀流だ。私は、受け取った爪楊枝にも魔力をエンチャントした。そして、騎士に向かって飛びかかる。
・・・聖剣”ラグナロク” そして、聖剣”フラガラッハ” ・・・
”フラガラッハ”も神話に登場する聖剣だ。「報復者」という意味を持つこの聖剣は、どんな物でも切り裂いてしまう力を持つ聖剣だ。
・・・向こうが反則級の装備なら、こちらも反則級の剣で対抗してあげる ・・・
私は、騎士の”アスカロン”を”ラグナロク”で一撃を加え騎士の集中を崩し、”フラガラッハ”で斬りつける。
ズンッ
「ガハアァァーーーーーッ 」
オリハルコンの鎧が”フラガラッハ”で断ち切られ血を噴き出して騎士が崩れ落ちる。
・・・私の聖剣”フラガラッハ”に斬れない物はないの 御存知でしょうけどね さあ、もう帰りなさい これ以上戦っても無意味でしょう そして、伝えなさい 今度、最強の魔法使いキノコが南の大陸に話し合いに行く だから、動物の言葉が分かる者を準備をしておくようにと…… それより前に、またここに来たら今度は容赦なく一刀両断にしますよ ・・・
「ふざけるなぁっ これぐらいで勝ったつもりでいるのか、笑わせるな 」
もう戦う力などないと思っていた騎士が立ち上がる。かなりの出血であるのに、さすがにその挫けない精神力の強さはあっぱれだけど、状況を冷静に判断出来ないようでは、立派な社会人とはいえないぞ。私は油断なく聖剣”ラグナロク”と聖剣”フラガラッハ”を構える。
「ぬおぉぉぉーーっ 」
騎士は再び自分の聖剣”アスカロン”に力を集中する。その聖剣の力が解放される前に、私にまた斬られるよ。馬鹿なの……。私はまた二刀を構えて飛び出した。同じ事の繰り返し。私に斬られてダメージを負っていくのはあなたでしょ。
「ピイィィィィーーーッ 」
私は”フラガラッハ”で騎士に斬りかかる。その瞬間、騎士の姿は私の前から消えていた。
・・・縮地のスキルだ ・・・
馬鹿は私だった。冷静に判断出来なかったのは私。こんな重要なスキルが頭から抜けていた。
「キノコといったか その剣を二つとも捨てろ 今すぐにだ 」
騎士の腕に捕らえられたナアマの青ざめた顔の下、首筋に”アスカロン”の刃が当てられている。私が少しでも動けばナアマの首ははねられるだろう。私は持っていた二本の剣をポンッと放り投げた。
「ダメだっ、キノコ 私に構うな ここでこいつを倒さないと次々に侵略者がやって来る 剣を拾って、こいつを倒してくれっ キノコなら出来るっ 」
ナアマの言葉はもっともかも知れない。でも私には大切な友だちを見捨てる事など出来なかった……。




