13、灼熱の迷宮4
13、灼熱の迷宮4
ダンジョン探索に戻った私たちだが、ギュスターヴはゴモラの街に戻す事にした。私の回復魔法で怪我は治癒したとはいえ精神的なダメージが大きかったし、この先レベル99のモンスターが現れる可能性もある。私とイブリースは平気でも、彼には危険だ。私も彼を完全に守りきれるかは自信がない。何が起こるか分からないのがダンジョンだ。
・・・ギュスターヴ、ゴモラの街で私たちが戻るのを待っていてくれる 今、私の魔法で私たちが泊まっている宿の部屋まで飛ばすからお願いね ・・・
「キノコさん、転移の魔法まで使えるのですか 本当にあなたは何者なのです 」
・・・まあ、それも後でゆっくり話しましょう ・・・
私はゴモラの街の宿屋の部屋をイメージする。当然だけど私が行った事のない場所には転移出来ない。
・・・ここなら誰もいないだろうからOKだよね ・・・
転移しようとした場所に、他の人や物があった場合、転移は失敗する。これも当然といえば当然だ。同じ空間、同じ次元に二つの物が同時に存在する事は不可能だからだ。
私はイメージを剣にエンチャントして、ギュスターヴに触れる。ギュスターヴの身体は、ダンジョン内から瞬時に消えていた。
・・・さあ、行こうか イブリース ・・・
私たちは広間の奥にある階段に向かって行き、地下二階に降り立った。そして、だらだらとした通路を歩き始める。途中襲ってきた”ファイヤーエレメント”を撃退し進んでいく。エレメント系の魔物は物理攻撃を無効にするスキルを持つものが多い。素の戦士系が中心のパーティーでは苦戦する事必至だ。倒すには魔法あるいは聖剣や魔剣など魔力を秘めた武器が必要になる。こんなのが、ワラワラ湧いてくると魔法使いの負担が大きくなる。こんな序盤で魔力を大量消費させる意地の悪い仕掛けといえた。
・・・まだ地下二階なのに、こんなにエレメント系の魔物が発生しているの? これゲームだったら、間違いなくクソゲー認定されるよ ・・・
正直、私も呆れながら突き進み地下二階を突破した。地下三階に入ると、いきなり目の前の広場でゴースト系の魔物が大量発生していた。
・・・また、これ…… ・・・
ゴースト系の魔物も物理攻撃無効だ。魔法攻撃に頼る事になる。
・・・2フロア連続で物理無効 これ、魔法使いの魔力が回復する暇もないじゃない 相当魔法使いの人数が多いパーティーじゃないと先に進めないよ 最低5、6人は必要だよね この先の事も考えると、それ以上か これナアマさん、冒険者を奥まで誘い込もうなんて絶対考えていないよね ・・・
私はナアマの顔を思い出していた。
・・・イブリースが、くそダンジョンというのも分かる気がする ・・・
地下四階。今度は”呪い”系の魔物だ。私の魔力はまだ全然余裕があり消費した感じはしないが面倒くさくなってきていた。呪い系の魔物も物理耐性が強い。けっきょく魔法に頼る事になる。すると……。
呪いの火剣、呪いの火斧、呪いの火弓が現れた。
ユラユラと空中を漂い、こちらの隙を窺っている。私はイブリースの肩にチョンと登ると、イブリースに頼み事をした。イブリースは空間に裂け目を作り、そこから私が頼んだ物が入った小袋を取り出した。私は小袋を受け取ると、呪い三兄弟に向かって走り出した。
「ピイィィーーッ 」
私が気合いと共に小袋の中身を振りかけると呪い三兄弟は悲鳴を上げる。私は更にサーッと中身を振りかけた。
「ウゴオォォォッ 」
呪い三兄弟は断末魔の悲鳴を上げ煙のように消えていった。
「キ、キノコさん、そんな物でモンスターを撃退出来るのですか 知りませんでした 」
・・・えっ、そうなの 私のいた世界では常識なんだけどな”清めの塩”って ・・・
「料理以外にも、こんな効果があるのですね 勉強になります 」
・・・お塩には邪気や穢れを払う効果があるからね お塩を持ち歩く”持ち塩”というのもあるんだよ ・・・
以前、紅茶でイブリースに蘊蓄を語られたので、今度は私がふふんと蘊蓄を披露してやった。私は、塩をダンジョンにばら撒きながら地下四階を走破し、地下五階に降りると今度が一転して魔法耐性の強い巨大なゴーレムが現れた。これは物理攻撃が主体の戦士がメインで戦う事になるが、腕に自慢のある戦士でも、この巨大なゴーレム相手では1人2人では無理だろう。数人は必要になるし、回復やバフがけ要員も必要だろう。
・・・このダンジョン、ここまで来るのに何人の冒険者が必要になるの もうパーティーじゃなくて軍隊レベルが必要じゃん ・・・
私はぶつぶつ言いながら剣に風の魔法をエンチャントしてゴーレムに向かって一閃する。もちろん固くて頑丈なゴーレムが風の真空波程度で切断出来る訳がない。私の狙いは別のものだ。私の放った一閃で竜巻のような風が巻き起こる。その風はゴーレムを巻き上げ地面に激突させた。ゴーレムは頭から半身を地面にめり込ませ動かなくなっていた。
そして、地下六階、地下七階、地下八階……。
私たちはモンスターを蹴散らして、ズンズン進んでいくが終わりが見えない。
・・・どこまで続くのこのダンジョン ・・・
私は単調な構造に飽きてきていた。モンスターを倒しながら真っ直ぐ一本道を進んで階段を降りる。それの繰り返しだ。フロア毎に壁や床が変わり雰囲気が変わったりしてくれれば、気分も変わりまだ良いが、突入してから変わる事のない仄かに赤く光る壁が延々と続いている。
・・・ねえ、イブリース このダンジョン、地下何階まであるか知ってる ・・・
ついに私はイブリースに助けを求めていた。先が分からないワクワク感よりも、終わりを知りたい安堵感を求めてしまっていた。
「ああ、ナアマは地下九十九階と言っていましたね 」
あっさりとイブリースは答えるが、私はそれを聞いて余計に疲れが出てしまった。例えば残業中、何時に帰れるか分からない時に、ドサッと山積みの追加書類を置かれた時に似ている。もう、応接室のソファーで仮眠かぁと何度絶望した事か……。だけど私はそういう時の気分転換を知っているのだ。
・・・イブリース、コーヒーセットを…… ・・・
私はナアマからコーヒーセットを一式借りていた。それをイブリースに持たせていたのだ。私はイブリースが空間から取り出したパーコレーターに豆をセットし水を入れ火を点ける。ポコポコとお湯が沸きコーヒーが抽出される。
・・・うーん、これこれ やっぱり気分転換には一杯のコーヒーだよ ・・・
ダバダァとあるCMの旋律が頭の中に流れ私はリフレッシュし、またダンジョンを颯爽と進み出した。




