12、灼熱の迷宮3
12、灼熱の迷宮3
サラマンダーは口から炎を吐こうとしていた。私は素早く剣に魔力をエンチャントし剣を一閃した。それと同時にサラマンダーも火炎を吐いている。
・・・ファイヤーブレス ・・・
推定1000度以上はありそうな炎でダンジョンの床はグツグツと溶岩化していく。その地獄の業火のような炎が間近に迫るが、私の剣が一閃した空間に氷の壁が出現する。氷の壁はサラマンダーの炎で溶けていくが、その炎もかき消されていた。サラマンダーは
一度口を閉じると、再び口を開き炎をチャージする。でも、その隙を見逃す程、私は甘くない。私は冒険者としては駆け出しの”ひよっ子”だけど、数多くのゲームを攻略した経験がある。強敵とはいえ、必ず隙はある。サラマンダーの隙はその最大の攻撃を行う際にチャージする刹那の時間だ。私の力を思い知れっ。
・・・第四の円”ジュデッカ” ・・・
私は地獄の最下層の永久に凍りつく氷をイメージしエンチャントした。そして、素早く剣の間合いに入り、チャージ中で動きの止まっているサラマンダーの体を直接剣で突く。
ピキィィーーンッ
一瞬だった。一瞬でサラマンダーの巨体が氷漬けになる。サラマンダーはまるで標本のように動かなくなっていた。
・・・どう、溶ける事のないコキュートスの永遠の氷 このまま、永久に氷の中で眠っていなさい ・・・
私は振り返り、リュートを持った男性の無事を確認する。
・・・良かった、無事だった ・・・
私は男性に近付き、剣を納めピィッと鳴いた。
「あなたはいったい何者なんですか? この高レベルの魔物を瞬殺するなんて…… 」
サラマンダーを一瞬で氷漬けにした私を見て男性は目を大きく見開いていた。サラマンダーが”氷”や”水”属性に弱いのは誰もが知っている周知の事実だ。しかし、このレベルの高いモンスターを倒すには弱点をついても、その力が弱ければなんにもならない。大火事がバケツ一杯の水で消火出来ないのと同じだ。
・・・ふふん、私くらいの力がないと、こんな芸当は不可能でしょう ・・・
女神セレネ様には感謝している。本当に私に最強の力を与えてくれたんだ。そして、私も期待を込めて男性に向かってピィッピィッと鳴いていた。
・・・私はキノコ ・・・
「キノコさん、ですか 私はギュスターヴといいます 助けて頂き有り難うございました 」
・・・それより、私の言葉、分かるの? ・・・
「はい、完全ではないかも知れませんが…… 」
私はガッツポーズをしていた。剣やロッドや弓ではなく”リュート”を武器として使っていたので、もしやと思ったのだが私の予想は的中していたようだ。
・・・吟遊詩人さんですよね ・・・
「はい、旅している途中、パーティーに誘われてサポート役として、この迷宮に来たのですが、私の力不足だったのでしょう 彼らには申し訳ない事をしてしまいました 」
ギュスターヴは倒れている三人を見て悲しそうな目をしていた。彼らが、こうなってしまったのは自分の責任だと思っているのだろう。そこへイブリースがやって来る。
「この倒れている奴らも冒険者なのだろう ならば気にする必要はない 冒険者が死ぬのは自分の責任だ この”灼熱の迷宮”と呼ばれているダンジョンにわずか4人で挑むというのも論外だが、なんだこのパーティー構成は、この無様に死んでいる三人はみんな戦士系ではないか 低レベルのダンジョンであれば多少腕がたつ戦士であれば力押しで攻略出来るが、レベルの高いダンジョンでは複数のサポートが必要だ 回復は勿論、バフをかける者、後方からの魔法の支援、お前一人で手が足りる筈がなかろう そんな事も考えずに高レベルのダンジョンに突入する馬鹿が勝手に死んだだけだ 生き残ったお前は、コイツらより力があったという事だろう 馬鹿を憐れむのはいいが、責任など感じる必要は微塵もない 」
私はイブリースの言葉を聞いて内心驚いていた。
・・・コイツ、ギュスターヴを励ましているように聞こえるんだけど…… 悪魔が、魔王が人間を励ますの やっぱり、私の知っている悪魔とは違う この世界の悪魔は人間に近い ・・・
イブリースの顔を見ながら、同時にコーヒーを淹れてくれた時のナアマの嬉しそうな顔も思い出していた。
・・・見た目は悪魔だけども違う 確かに人間とは違う変わっていると思う時もあるけど、私の知っている悪魔とは心が違う 思いやる心を持っている ・・・
私がイブリースの顔を眺め物思いに耽っていると、ギュスターヴが呻き声を上げ地面に倒れていた。
・・・いけない、彼は負傷しているんだった ・・・
私は慌てて回復の魔法をイメージして剣にエンチャントする。そして、彼の体に剣で触れる。ギュスターヴの体が白く光り始め、怪我を負った部分は治癒していた。ギュスターヴは、驚愕した目で私を見る。サラマンダーを倒す程の攻撃力を持ちながら、さらに回復の力も有しているのだ。驚くのは無理もない。ごく一部の上級職の、それも高レベルの者だけが行使出来る力だ。それに私だって自分で驚いているもの。本当に出来るとは思っていなかったが成功して良かった。そこで私は考えた。もしや……。
私は倒れている冒険者に近付いて行った。そして、復活のイメージをエンチャントすると冒険者に触れた。
何も起こらなかった。
冒険者は息を吹き返す事も、指を動かす事もなかった。冷たい地面に横たわったままだ。
「いくらキノコさんでも死んでしまった者を生き返らせるのは不可能ですよ そんな事が出来てしまえば世の中死ぬ人がいなくなり大変な事になるでしょう 不謹慎な言い方ですが、死んで世の中から消えて貰いたい奴もいますからね 死者を生き返らせる それはこの世界を創った神のみが持つ権利です 」
イブリースの言葉に私は成る程と思っていた。確かに死はいずれ誰にも訪れてくる。だからこそ精一杯生きていくのだろう。そして、自分が生きていた証を残すために必死に頑張るのだ。私は自分の体を見た。ジリスの寿命は人間と比べて遥かに短い。長くて数年といったところだ。私はその間に早くこの世界を把握して、私の為すべき事を成さねばと考えていた。




