知人
「おうおう退いた退いたー!」
地上の怒号が地下まで響く。
「本当に人間の声かよ」
思わずカラカサが言った。ナラセに来て叫び声や奇声などには慣れた。いや、慣れたつもりだったが桁違いの怒号を朝っぱらから聞かされると耳などひとたまりもない。しかしいつも聞こえてくるのは秩序性のない奇声。今回聞こえてきたのは、ちゃんとした人の声だ。興味が湧いたので、上に行くことにした。
「ちょっと上見てくる、お前らも来るか?」
「行く」
「行きます」
「ようし、じゃあイロハはまた傘で移動するか」
「じゃあ目を閉じてもらって良いかな」
「はい」
言われるがまま目を閉じた。その瞬間周りでズオッという音がすると、さっきまで瞼の裏から感じ取ることができた光が、いきなり弱くなった。驚いて目を開けると、彼女の周りには「宿の部屋」は無く、そのかわりに何か珍しい珍妙な雰囲気の部屋が在った。
「じゃあちょっと待っていてくれ」
「はい」
初めての時は驚きすぎて声も出なかったが、二回目ともなると返事ができるようになった。何もすることがないので、イロハは辺りを見回した。やはり変な部屋だな、と思った。床は藁みたいな物で編んだものを絨毯にして置いていて、部屋の右端には箪笥たんすが有り、上には奇妙なオブジェがいっぱい置いてあった。数分すると、数分するとまた声が聞こえた。
「もう出てきて良いよぉ」
カラカサの声が部屋に響く。やはり二回目なのでやることを覚えている。箪笥の横の丸っぽい物の取手を左に回すと、
ガガガガガガッ
と大きな金属音が聞こえた。ビックリして後ろを見ると上からハシゴと共に天井の一部が開いた。登ってみる。一手伸ばして体重をかけるとギギ、と今にも折れそうな不吉な音が聞こてくる。出口から頭を出してみると、そこは外だった。さっきまで暗い所にいたので、外の光に目が慣れていない。慣れてくると目の前に兵隊の群れが歩いていてびっくりして後ろに倒れてしまった。
「いてて、何で兵隊が?」
「あそこに誰か連行されてるな」
ローグが背伸びをして言った。
「おいこれ何の騒ぎだ」
カラカサが野次馬に聞いた。
「何をやらかしたかは知らんが逮捕らしいな、今日中には処刑されるらしいぜ」
「物騒だな」
すると何か勘付いたようにイロハが言った。
「ちょっと私を持ち上げて」
「ほい」
そう言ってローグはかがんだ。それを見るとイロハは肩に飛び乗った。ローグが立ち上がるとイロハは大体人の頭の上を見渡せるようになった。兵隊の流れが思いの外速いので、少し足を早める。ちょっとすると男に追いついた。
「え」
イロハがつぶやいた。後ろ姿に見覚えがあるのだろうか。ローグがイロハの方を見る。目を見開いて、じっと観察している。そして間違いないとでもいうように、
「お父さん」
と言った。その声に気づいた男がイロハの方を向く。そして一瞬驚いて、すぐそっぽを向いてしまった。イロハが震えている。緊張か、嬉しさか。とりあえず下ろした。
「どうなってるんだイロハ、何でお前の父さん捕まってんだよ」
「私は家族のことは何も知らない、知っているのは私のおじさん」
一呼吸おいてまた言った。
「カーシー」
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