カラカサの傘
「さーてどうするかねぇ」
カラカサが言った。
「うむう」
とローグが唸る。しかし考えるのも飽きてきたのか、貧乏ゆすりをし始めた。ベッドに振動が伝わって、横に居る少女、イロハも縦に揺れ始める。
「親の元に返してあげるのが一番良いだろうけど、肝心の親がいないんじゃなぁ」
「いるにはいます」
カラカサは驚いた顔をした。
じゃあ何で親と一緒に居ないんだ、
と言いかけたが辞めた。もしかしたら複雑な事情があるのかもしれないし、部外者がこんな事に首を突っ込むのも野暮だ。カラカサがそう考えたそう考えた矢先、
「じゃあ何で親を一緒に居ないんだ?」
ローグが聞いてしまった。ローグのバカッとカラカサは心の中で突っ込んだ。するとイロハが言いづらそうに言う。
「まぁ、事情で」
しばらく沈黙が続く。そして思い出したようにイロハが聞いた。
「ところでカラカサさん」
「ん?」
「さっきのはどうやったんですか?」
「どれの事だ?」
「あの傘のやつです」
「あーあれはなぁ、手品だよ手品」
「え、手品なんて次元じゃ」
この傘のやつ、というのを理解するには数十分前に遡る。
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イロハに果物を食べさせて、少し体力が回復したので、とりあえずは宿の前に案内した。
「ここからが問題だ」
カラカサが言った。
「何でぇ、扉開けるだけじゃねぇか」
「お前少女を宿に連れ込むってぇ、ハタから見てみるとあらびっくり」
「変態の爆誕ってわけか」
「そう言う事だ」
少し考えて、カラカサが言った。
「じゃあ傘に入れるか」
「ああ、良いね」
イロハはキョトンとしている。
「ええとねぇ、イロハちゃん」
「は、はい」
「目を閉じてもらって良いかな」
そう言って頭を少し掻いた。
「え、あ、はい」
言われるがまま目を閉じた。その瞬間周りでズオッという音がすると、さっきまで瞼の裏から感じ取ることができた光が、いきなり弱くなった。驚いて目を開けると、彼女の周りには「街」は無く、むしろそれとは程遠い、何か珍しい珍妙な雰囲気の部屋だった。
「え」
絶句していると何処からか
「そこでちょっと待っててくれ」
とカラカサの声が聞こえる。周りには誰も居ないのに、と辺りを見回す。脳に直接響いてるような、そんな声だ。どこから聞こえてくるのかが全くわからない。部屋は5メートル✖️10メートルぐらいの広さ。床は藁みたいな物で編んだものを絨毯にして置いていて、部屋の右端には箪笥が有り、上には奇妙なオブジェがいっぱい置いてあった。数分するとまた声が聞こえた。
「もう部屋の中だから出てきても良いよぉ」
出てこい、と言われてもどうやって出るか見当もつかない。
「えっと、どうやって出るんですか?」
「えーとね、箪笥の横に丸っぽい物の取手を左に回すと出入り口が開くから」
箪笥の横、箪笥の横。ああ有った。これか。そう思って取手を左に回すと後ろからいきなり、
ガガガガガガッ
と大きな金属音が聞こえた。ビックリして後ろを見ると上からハシゴと共に天井の一部が開いた。恐る恐る登ってみる。一手伸ばして体重をかけるとギギ、と今にも折れそうな不吉な音が聞こてくる。出口から頭を出してみると、そこは傘の裏側につながっていた。不思議な事に、傘の中(?)からこの宿の部屋に侵入する事に成功したのだ。
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「じゃあイロハ、今日は泊まっていくか?」
「一人じゃ心配だしな」
「えっと、じゃあ」
イロハが戸惑っている間に
「よしじゃあ決まり!」
とローグが高らかに宣言した。
「俺床で寝るー」
と楽しそうに寝る所を決めている。一人で騒いでいる間にカラカサはイロハに囁いた。
「今日はごめんな、いきなり泊まる事になって、まあでも駅で野宿するよりはベッドで寝てもらった方が良いから、親の事が明日考えよう」
「あ、はい、でも」
と言ってから、また一息置いて言った。
「こんなに優しくしてもらったのは少ないから、ありがとうございます」
少し嬉しそうな顔をしていた、とカラカサは思った。
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