病の街
「だぁー疲れたー」
糸目の男の声がセセンキス北部の森に木霊する。まだ昼過ぎのはずなのに、木々が二人を光から隔離して、辺りは網目状の光が散乱している。周りの木々は複雑に入り組んで、暗い。土は土というより砂に近く、硬く、ザラザラして歩く時滑りそうになる。
「もうすぐで着くから我慢しろ」
隣にいる傘を持った男が言った。我慢しろと言う割には力無い声である。きっと傘男も疲れているのだろう。それに気づいた糸目の男が
「お前も疲れてんじゃねーか」
と揶揄う
「そうだ、何か悪いか?」
傘男は少し歩くスピードを早めた。それに釣られるように糸目の男も足を早める。
数時間が経ったであろうか、二人は少々焦り気味に歩いていた。早く目的地に行こうとするからか、一歩一歩に迷いが見て取れる。
「あぁーどっちに行けば良いんだコンチキショー」
傘男が嘆いた。
「早くしてくれ、腹減ってきたんだ」
糸目の男も嘆いた。
「さっき食べたばっかじゃねーか、俺の分も食いやがって」
さらに足を早めて、言った。さっきまで早歩きみたいだったのが今では走りに変わっている。喋るのも限界だ、とでも言いたげに二人共黙りこんだ。なんとも矛盾した状況である。この静けさを一つの奇声が破った。
「キェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
状況を飲み込むのに傘男には3秒かかった。そして理解した。
「あっちだ!」
傘男が叫んだ。
「どーいう事だってばよ」
「ほら早く立て、行くぞ」
声のする方へ走るとさっきまでの森からは考えられない、開けた崖についた。
「おお、こりゃすげっおわ」
勢い余って崖から滑り落ちそうになっている糸目の男の襟を掴みながら言った。
「ああやっとだ、着いたぞ」
「病の街、ナラセ」
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「何でここがナラセだって分かったんだ」
糸目の男が聞いた。
「ナラセは気が狂った住民が多い事で有名だからな、奇声なんて日常茶飯事のことらしい」
傘男が言った。
「へぇ」
この気の抜けた返事をした男、名をローグという。糸目で、黒髪。オールバックなのだが髪の生え際の右側にアホ毛がある。高い丸い襟の黒色の服を着て、革靴を履いている。特別ガッシリとした体つきじゃ無く、平凡だ。
「まず宿を探さなきゃな」
傘を肌身離さず持ち歩いている傘男、名をカラカサという。まるで髪を整える事を知らないような髪型、要するにボサボサの頭をしている。白と紺色の縞模様の長方形の布を縫い合わせた質素な作りで、帯で体に巻きつける珍しい服装である。雨も何も降っていないところで赤い木製の傘をさしている奴がいたら大体コイツである。
「住民が狂ってる宿なんて使って大丈夫か?」
ローグが怪しそうに聞いた。するとカラカサが少し考えて言った。
「まぁ大丈夫だろ、まだ何かに巻き込まれた訳でも無」
とまで言った時、足元で何かを踏んだ。
気づかず踏み込むとゆっくりと、ゆっくりとカチッと音が鳴った。
「「おわっ」」
突如として、彼らを爆発音と共に衝撃が襲った。街全体が揺れるような爆音、轟音。辺りは爆煙に包まれている。
ほんの数秒の出来事だったが、住民の耳にはまだ音の余韻が残っている。キィィーンと鋭い音が薄れ始めてきたその時、煙の中、爆発が起こった真横の家から一人、老人が飛び出してきた。
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