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私の最期の願い。

作者: 夏斗

操ら令息の反抗。のカーラ視点ですッ!

前作を読んでいないと分かりづらい部分があるかもしれないです…!

よろしければ前作からどうぞッ!

https://ncode.syosetu.com/n6305jj/

「貴方といてもつまらないわ……。」




「なぜだ…?」




「だって貴方――


 


 『私』を、見ていないもの。」




―――――――――――――――――――――



「カーラ!お前は身体が弱いのだから大人しくしていなさいッ!」


「――嫌よッ!私は自分のしたいことをするのッ!」



私は産まれた時から身体が弱い。

今まで色々なお医者様に診察を受けた。

でも、どのお医者様も治療することはできなかった。

何故身体が弱いのか原因すら不明だ。


確かに分かるのはなにかの病魔が私のことを蝕んでいること。

それだけは確かだった。



身体が弱くできないこともあったが、私は自分がやりたいと思ったことはやってきた。



自分の人生に後悔を残しておきたくなかったから。



しかし、ある時から父が貴族との婚約話を持ってくるようになった。

私の父は商人としては大成しているが、親としては最低の部類だと思う。


娘のことは自分の道具くらいにしか思っていない。

婚約話を持ってくるようになったのも、貴族との繋がりや、儲け話の為なのだと思っている。


だから、今までのお見合いは全て破談になるように仕向けてきた。

そもそもこの身体の弱さで婚約、結婚など相手に迷惑がかかるだけだ。


そんな折、父から、これが最後だから。と言われ向かったお見合いの席。


そこで出会ったのだ。


操ら令息と言われるマニキュレイトに。


そして言ってしまったのだ。


「貴方といてもつまらないわ……」と。



――――――――――――――――――――


「貴方といてもつまらないわ……」



そう言うと目の前の彼は少しの不満を表情に表しながら私に聞く。


「なぜだ…?」



私は言う。



「だって貴方――


 


 『私』を、見ていないもの。」



彼の表情が不満気な表情から不思議そうな表情に変わる。



「『私』を見ていないとはどういうことだ…?」



何でこの人は分からないのだろう。

私は彼に怒りを覚えた。

そして納得する。

この人は操ら令息という渾名の通りなんだと。

全て人任せにして生きてきたのだと。

今日のエスコートだって、私と目が合うことなんて、今この時まで無かった。 



だから私は答える。



「それを私に聞く事自体が『私』を見ていない証拠よ。


今日一日、貴方といた私は楽しそうだった?嬉しそうだった?悲しそうだった?辛そうだった?



――何も分からないでしょう?



貴方が見てるのは私個人じゃない。貴方の想像の中にいる私よ。目の前にいる、『私』じゃない。」




彼は押し黙る。


私の言葉を考えているようだった。


反省と後悔を滲ませた顔で。



私は許せなかった。

彼は自分の意志さえあればなんだってできるのだ。

私にはできないことが沢山あるのにッ…!

彼の生き方を許してしまえば、私は私の今までの人生を否定することになるとッ…!


 

だから思わず言ってしまった。



「もし貴方に反省の気持ちが少しでもあるのなら、次に会う時は、”貴方自身の”エスコートを私にしてくださいな。」と。



次を求めているような言葉を。


私は、少し恥ずかしくなり席を立つ。


最後に見た彼は、鳩が豆鉄砲をくらったような、とても驚いた表情をしていたのが印象的だった。



――――――――――――――――――――



そこから彼とは色々な場所に行った。



「わぁッ!すごいッ!海だよッッ!!どこまでいっても大地なんてみえないのねッ!」


「君の喜ぶ顔が見れて嬉しいよ。」





「このレストランよく予約取れたね…!私すごく来たかったのッ…!!」


「君がいつか来たいと言っていたからな…。それに君の誕生日は特別喜んでもらいたかったから。」




「レイトッ!これ美味しいよッ!」


「ま、まってくれ!歩きながら食べるなど…!」


「ここではそれがルールなのッ!はい、あーんッ!」




ここまできたら私にも分かる。



私は、優しくて、誠実で、少し不器用な『彼』に、惹かれているのだと。



何をすれば彼が喜ぶのか、笑顔になってくれるのか、頭の中は彼のことでいっぱいだった。



同時に不安も同じくらい大きくなっていった。

それは私の身体のことを伝えていないからだ。


だから私は彼を好きになればなるほど、どんどん上手く笑えなくなっていた。


レイトもそんな私に気づいていたと思う。

彼が時折見せる私への心配そうな顔、不安そうな顔が私の心へ罪悪感としてのしかかっていた。



だから天罰が下ったんだと思う。



レイトと会おうと約束してた日。

身体のことを伝えようと決心した日。



――私は倒れた。





――――――――――――――――――――



目を開けると家の天井だった。

私が起き上がろうとすると、お医者様がそれを止め、メイドに父を呼ぶように指示する。


父が到着した後、父と一緒に私の状態の説明を受ける。



私の身体は、持って数日であること、どのくらい持つかは私次第であること、私は、どこが他人事な気持ちでそれを聞いていた。


ただ、予想外だったのは隣の父がそれに対して怒ったことだった。



「――何とかならんのかッッッ!!貴様はそれでも医者かッッッ!!医者は患者を治すのが仕事だろうッ!!娘のッッ……!!愛しい娘の身体くらいッ…!治してくれッ……。金ならいくらでも出すから…。頼むッ…!」



父は、父は私のことを愛していないと思っていた。

道具だと思っていると思っていた。


 

「お父さん…。私に死んでほしくない…の…?」



父は床を見つめ言う。



「当たり前だッ…。自分の娘に死んでほしいと願う親がどこにいるッ…!…確かに今までお前に親らしいことはしてやれなかった。すまない…。だが、お前のことはいつでも想っていたよッ…。」



父の頬から溢れた涙が床の絨毯に染みを広げる。



「そっか……。」



それは私も同様で。



「お父さん、親不孝な娘でごめんねぇ…。」



父はゆっくり首を横にふる。



「いいんだ…。お前は私にとって、いつまでも可愛い、最愛の娘だよ。」



そういって父に頭を撫でられたあと、外がにわかに騒がしくなる。



「――さて。あとは彼に任せるが、なにか必要な物、事があれば呼びなさい。」



「お父さん、ありがとう。」



そういって父がでていった後、勢いよく扉が開く。



そこにいたのは、服や髪が乱れ、心配そうな顔でこちらを見る彼だった。



私はなるべく平静を装い挨拶をする。



「あら、来てくれたのね。」



「――どうして言ってくれなかったのだッッ!私は……私は君に無理をしてほしいわけではないッッッ!……だが、なにはともあれ、君が…君が無事で、よかった…。」




彼は安堵の息をもらす。



少しの間を置き、私は微笑む。




「私ね。――もって数日なんだって。」






「――は?」






「どれくらいかは私次第なんだって。」






彼は理解出来ないといった表情でこちらを見る。

口もポカンとあいている。




私は微笑みながら話す。

懺悔と共に。




「私ね。もともと身体が弱かったの。 




産まれた時から今まで、ずぅーっと。




だから顔合わせしたあとに婚約なんてすぐ断るつもりだった。」



少しずつ、感情が溢れてくる。



「でも最初に貴方に会った時、この男は何なんだって思ったわ。だってそうでしょ?


全部人任せで自分の意思なんて無い操り人形みたいだったんだもん。




私にはどんなにしたいことがあっても、行きたい場所があっても、簡単にはできなかった。諦めたものも沢山あったのに。」



彼は聞く。



「それならどうして、どうして、また会おうと思ってくれたんだ…?」



私は応える。



「――悔しかったから。



私は今まで必死で生きてきた。少しでも自分ができることを探して、楽しみを見つけて、自分の人生に後悔がないように一生懸命、生きてきた。



なのに、そんな私が貴方の生き方を認めてしまったら、諦めてしまったら、私は、私の今までの人生を否定することになるから。




だから、ごめんね。貴方のためでもなく、ただただ、私のために、次も会いたいって思ったのよ。」



彼との想い出が、軌跡が走馬灯の様に浮かんでは消えていく。



「謝る必要など、無い。君が悪い事など一つも、ない。


自分の意志を持っていなかった私が悪いのだ。



人にはそれぞれに感情があり、人生がある。



人生とは、自分の意志で道を選び、歩いていくことなんだと、私は君に教えられたよ。




だから君の選択は間違えてないと、私は胸を張っていえるとも。」



私の言葉が、心が、生き方が、彼に届いてくれていた。



「――うん。私の選択、間違ってなかったんだ…。良かったぁ…。



――ねぇ、レイト。私、少し眠くなってきちゃった。」



彼は私の手を握り言う。



「君が眠るまで。いや、寝たあともずっとここにいるとも。これは他の誰でもない私の、私自身の意思だ。」




「――ありがとう。」



――――――――――――――――――――




そこから私は起きて寝てを繰り返した。


起きたときには他愛もない話をして、寝ている時は手を握り、レイトとの時間を過ごした。




それでもその時はやってきた。


 



私は血を吐いた。


医者を呼びに行こうとしたレイトを私は止める。



「レイト。もう、いいよ。私、自分の状態くらいわかるから。もう、ダメみたい。」



彼は顔面蒼白で、私よりよっぽど具合が悪そうにみえた。



私は最期の告白をする。

涙と感情を溢れさせながら。


「あのね、私、最初貴方のこと……好きでも、なんでもなかったの。でも、でもね、貴方が一生懸命『私』を見てくれたから。



私、貴方に惹かれていったの…。



誕生日に連れてっいってくれたレストラン……美味しかった…!




一緒に見た海は…沈む夕日が、綺麗だった…!




下町の案内をした時は…驚く貴方の顔が可愛かった…!




そうやって貴方に…惹かれていけばいくほど、私…死ぬのが怖くなった…!!


 


だから…どんどん上手く笑えなくなった…!




身体のこと話さなきゃって思ってたけど、話したら捨てられるんじゃないかって、ずっと怖かったッッッ…!」



レイトは私の手を強く握りながら、私の最期の言葉に耳を傾けてくれている。




「でも、でもね、レイト。私、貴方のこと好きになってよかったって心から思えるよ。




私は私の人生に後悔はないよ…!












――嘘。後悔がないなんて、嘘。










貴方と、もっと…もっともっと、ずっと、ずうっと一緒に居たかったよぉ…」





私は泣きながら言う。


今まで静かに聴いてくれていたレイトがなにか言いたげだったから、言われる前に伝える。


彼を、レイトを縛ってはいけない。

もういなくなる私に縛られてほしくない。


だから最期に言うのだ。

レイトを好きな気持ちを押し込めて。



「――いいのッ!貴方は私とは違う。これからがあるの。だから、だからね?




私が死んだら、私のことは忘れて。




私以外の人を想って、その人と幸せになって。




今までいろんな人のお願いを聞いてきた、操ら令息のレイトだから。


私の最後のお願い。聞いてくれるよね…?」




私がそう言うとレイトはゆっくりと首を横に振り、涙を浮かべた目で私を見る。



「言っただろう?




 人生とは自分の意志で道を選び、歩いていくこと。




 君のお陰で操ら令息ではなくなったんだ…。


 だから君の最後の、願いは、きけないよ…。




 私の魂は…いつまでも君と、





――カーラと共にある。」




――嗚呼。これ以上貴方のこと好きにさせないで。


別れが辛くなるじゃない。



「レイトの…馬鹿――」



意識が落ちる最期に見たレイトの顔は、私の一番好きな彼の笑顔だった。




レイト。

どこにいても、何をしていても、いつまでもずっと……



――愛してる。

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